あなたは愛さなくていい

cyaru

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第30話  騙すから騙される

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ケネル子爵は早速騎士団に出向いてシルヴェリオを訪ねた。

「シルヴェリオ・ネブルグ班長ですか?」
「えぇそうです」
「失礼ですが貴方は?ご家族でないと面会は出来ませんが」
「私はケネル。子爵家の当主です。広く言えば…彼とも家族です。私の娘がシルヴェリオ殿の兄の妻ですから」
「うーん…申し訳ないのですが来た事は伝えられても面会は無理かと」
「何故です?」
「ギリギリ…あなたの娘さんでもギリギリです。娘さんのお子様、つまり貴方の孫なら班長とも血の繋がりがあるので許可が出ますが、兄嫁というだけではちょっと規則に反しますので」
「そこを何とか。あ、これは…少ないんですが」

ケネル子爵はポケットから紙で包んだ混銀貨を受け付けの兵士に手渡そうとした。

「いや、こういうのは貰えないので…」
「いいんですよ。じゃぁこうしましょう。これは貴方の物で拾った私が届けに来ただけ。どうでしょう?」

いけない事だと解ってはいるが、混銀貨4枚が兵士の1か月の給料。
紙に包まれた混銀貨は2枚。給料の半額に匹敵する。それがシルヴェリオを呼ぶだけで手に入る。ごくりと兵士の喉仏が上下した。

「判った。少し待っていてくれ」

混銀貨を手にした兵士は奥に下がり、ケネル子爵はほくそ笑んだ。

「結局世の中はカネ。カネの魅力に勝てる奴なんかいないさ」

この後はやって来たシルヴェリオを1,2時間でいいからと連れ出しケネル子爵家に連れ込む。そこでマリアと関係を持ってくれればいい。たった1回で良いのだ。既成事実とはそういうもの。

そしてこれでシルヴェリオの弱みも握れる。離縁はつきつけられているが審議中であり法的にはまだマリアが妻。兄嫁と関係を持ったなんて秘密を握っておけばこの先シルヴェリオからあるだけ絞り取れる。

なんなら使用人も抱えられるようになったんだから、貸した金に見合うまで公爵家から宝飾品を盗ってこいとシルヴェリオに命じることも出来るじゃないか。

「財布が増えるようなものだ。ガッハッハ」

しかし、30分経ち、1時間経っても兵士は戻って来なかった。

「どうしたんだろう」

急に不安になった時、兵士が戻って来た。
書類を差し出し、サインをくれという。なんの書類だ?と目を走らせてみれば拾得物件預り書。

落した人が目の前の兵士で、拾った人がケネル子爵。

――なんだ。用心深いやつだな。こんな事をしなくても戻せなんて言わないさ――

そう思いながら拾得者の権利を放棄する欄にもチェックを入れて署名を済ませた。
そうしておけば落とし物を拾って届けた人に謝礼を払わなくてよくなる。

――なんと私は気前のいい男なんだろう――

自画自賛するケネル子爵だったが、書類に不備がない事を確認した兵士はにっこり笑って告げた。

「シルヴェリオ・ネブルグ班長は休暇中です。一応2か月となっていますが2か月目以降にも休暇が伸びる場合は退団となっているそうです。では!」

「は、ハァァーッ?!」

いやいや、それなら混銀貨返せよ!と思うのはケネル子爵。
シルヴェリオに引き継いでもらうために袖の下を渡したのであり、休暇届が出ているとか、休暇が延長になるなら退団するとかそういう事が知りたかった訳じゃない。

そう言う事なら休暇中何処にいるか教えてくれたっていいじゃないか。

「話が違うぞ!!」
「えぇっと…何の話が違うんでしょう?」
「面会させると言ったじゃないか!だから私は混銀貨も2枚!!」

バンっ!!

兵士がテーブルに手のひらを勢いよく叩きつけて音をさせた。

「人聞きの悪い事を言わないでください。まるで私が袖の下を貰ったかのような。訴えますよ?」
「う、訴えればいい!そうなればこっちも死なばもろともだ!」
「おかしなことを言う。貴方は私の金を拾って届けた。そこは感謝しますよ?謝礼の権利も放棄しているのに?拾った金を届けることが袖の下だなんて…頭の中身を疑われますよ?」
「だったら!面会させろ!」
「言ったでしょう?休暇中です。プライベートなので居場所は騎士団にも判りません。判らないものは教えようがない。子供でも判る理屈が解りませんか?」

「くそぉぉーっ!」ケネル子爵は無駄に金を使っただけとなり吠えるしかなかった。
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