あなたは愛さなくていい

cyaru

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第23話  掃除も料理も得意です

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シルヴェリオは昨夜、帰ってしまうともう2度とここには来られない気がして玄関を出て直ぐ。軒の下で夜を明かした。

家の中からはファティーナの独り言が聞こえてくる。

「そっか。姉様、夕食を焦がしたんだ。焦げ臭いなとは思ったんだよな」

背中を壁に預け、軒の向こう側には満点の星が見えた。
目を閉じるとファティーナとの記憶が蘇ってくる。最後に食べたのは何時だろう。そんな事を思ってしまうがファティーナとは使用人が作ってくれた柔らかいミルクキャンディやキャラメルを食べた事を思い出した。

とても甘くてキャラメルを食べた後に、庭にあったグミの実を食べるといつもはほっぺたが落ちそうなくらい甘いのに酸っぱくて泣きだしてしまった事もある。

「歌を歌って」と言えば昼寝の時にシルヴェリオが眠るまで歌ってくれて、丁度眠りにつくギリギリで歌が終わってしまうと目が覚めてしまった事や、庭の木や土の中にいる虫を捕まえると褒めてくれた事も思い出した。

「全部記憶違いなんかじゃない」

きっとファティーナが屋敷に居れば馬も買って貰えただろうし、口減らしのように11歳で騎士団に入団する事もなかっただろう。入団したとすればきっと誰もよりも立派な剣を握っていたはず。

「ダメだ。そんな姉様をアテにする様な事を考えちゃダメだ」

ブンブンと首を振り、また星を仰ぎ見てシルヴェリオは考えた。
シード家の領地を売った金はやはりファティーナが持つべきだと思う。本当は領地を返すのが一番なのだろうがもう13年も時間が経っていて今更ファティーナに戻しても困るだけなのは目に見えている。

何よりシルヴェリオは当主ではないのでネブルグ公爵家の財産は何一つ自由には出来ない。持ってきた金貨でさえシルヴェリオがファティーナが持つべきだと考えただけで手続き上は兄のアロンツォの財産になる。

ややこしいのはシード家の領地を手に入れた経緯が不正であっても父親の代での話で、アロンツォが経緯を知らないと言えばアロンツォは善意の第三者となってファティーナに戻すか売るかはアロンツォの考え次第。

ネブルグ公爵家にずっといればそんな事も知らなかっただろうが、少年兵の内は民事的な争いで切った張ったとなると騎士団が間に入る事が多く、金を巡る決まりは実地で知った。

「そう言えば姉様は本をよく読んでいたな」

ただネブルグ公爵家の書庫に本はあまりなかった。シルヴェリオが生まれる前に亡くなった祖父は本をよく読む人だったようだが両親もアロンツォも本は殆ど読まない。執務に関係する書類の文字を読む程度だった。

数えるほどしか本のない部屋はかつて本で溢れかえっていたそうだが、それら公爵家の蔵書は劇場などが併設された建物の中にある図書館に全て寄贈されたと聞いた。

その建物が13年前に第1王子の暗殺未遂事件の現場になったのは皮肉な話。

そんな事を考えながら「休みは取り敢えず2か月あるんだよな」と街道に飛ばされる場合とここから歩いて帰る場合を想定し、1カ月は滞在できるとシルヴェリオは指を折った。

ずっとファティーナの側に居たいと思うのは我儘。
しかし時間的に滞在できる1か月の間にシルヴェリオはファティーナの役に立ちたいと思った。

「取り敢えずは有言実行だ。起きたら草むしりをしよう!」

そしてそのまま建物の犬走りの部分に横になって眠り朝を迎えた。

早朝から草を引いていると畑も見つけた。
そして家の煙突から白い煙が上がり始めると少しだけ焦げ臭い香りもしてきた。

「畑の野菜を使っていいなら料理するんだけどな」

公爵家ではした事はないが、騎士団に入団して最初の2年は野営訓練が多く食材は全て現地調達。そこで料理も覚えた。寮の中は整理整頓が徹底されていたので掃除にも自信がある。

「1カ月だけでも姉様に楽をしてもらおう」

そう決めた時、玄関が開いて、扉を開けるなり絶句したファティーナがいた。

「姉様、おはよう!いい天気だね」

声を掛けたがファティーナは「おはようございます」とだけ言って籠を手に出掛けてしまった。

シルヴェリオはパンパンと手についた土を払うと、そのあとを追いかけた。

「姉様、帰ってくるまでに何かしておこうか?」
「結構よ」
「僕、掃除も料理も得意なんだ。なんでも言いつけてよ」
「何もしなくて結構。早く帰国してくれる?」
「帰るのは1カ月後にするよ。で、畑にある野菜で料理作っていいかな?」
「何もしなくていいの。貴方がする事は帰国。判った?」

シルヴェリオの方を見てもくれないファティーナはすたすたと止まる事無く歩いて行ってしまった。あまり家から離れると消えてしまうかも知れないと長く追いかける事も出来ない。

振り返って家が見えたシルヴェリオは「瞬きしたら消えちゃうかも」と指で瞼を広げ草むしりをしていた場所まで戻った。

「姉様、籠に釣り糸っぽいのを入れてたな…って事は魚を焼く準備をしなきゃな!」

と、思ったのだがこんもりと盛って山になった抜いた草。
取り敢えず抜いた草は移動させようと家の裏側に何往復かで運んでいると排水した水溜まりにふと目がいってしまった。

「フォッ?!」

シルヴェリオの目がキラっ!と光った。
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