9 / 39
第08話 彷徨った挙句に脱水
しおりを挟む
リーディス王国の王都から国境を超えて徒歩なら1カ月半、馬車で2カ月。
街道の分かれ道の目印は二股になった大きな欅の木。
そこから道なき道を幾日か進んでいくと「ファマシィ・ファティ」という小さな店がある。
御伽噺に出てくるような小さな家は知る人ぞ知る万能薬を売ってくれる店。
ただ誰でも小さな店を見つけられる訳ではない。
二股になった大きな欅の木は本当に薬を必要とする者にしか見えないし、道なき道は何日もかけて歩いても元の場所に戻ってしまう事がある。何より店主のファティーナが薬草を摘みに出掛けていれば数日帰らない事もあるので店は休業の事もある。
全てを奪われた女、ファティーナ。
冤罪で裁かれた日から13年。
どうやら運命は静かに余生を過ごす事は許してくれないらしい。
★~★
ガサッ、ガサッ。
「はぁはぁ・・・なんなんだ?どうしてまたこの目印があるんだ」
二股になった欅の木が見えたシルヴェリオ・ネブルグはもう3週間も道なき道を彷徨っていた。
一息入れようと腰にぶら下げた水筒を手に取ってあと一口だけの水を残し、水筒を口から離した時に目に移ったのは3日目、いや4日前だったか。余りにも迷うので木の幹に目印で付けたナイフの痕だった。
目印をつけた木に近寄れば裏側にはさらに2週間前に付けた傷もあった。
どさっと音を立ててその場に力なく座り込み、空を見上げた。
真っ青な空が木の葉の間から見えるだけで鳥の声もしない。
「どうなってんだよ!チクショウ!ここまで来たってのに!!」
1時間程その場に座り込んだが、森を出るにも残っている水が心許ない。「58」とつけた目印を目標に水筒に水を汲んだ水場まで行こうと歩き始めた。最後に水筒に水を汲んだ時に側にあった木に付けた目印の番号だ。
辿り着けば水筒に水が汲めると最後の一口も飲んでしまい、あと少し、あと少しと歩き続けて2時間半。
目的の番号は見つけたもののあったはずの沢がない。
沢が枯れたのではなく、元々そんなものはなかったかのようにようよう辿り着いた目印「58」の周囲には鬱蒼と草が茂っているだけだった。
喉はカラカラでもう汗すら出ない。
「怠い…このままじゃ体力が無くなる…今夜はここで休もう」
シルヴェリオは木の幹に背を預けて目を閉じたが、何が出てくるかも判らない森の中。仮眠に留めようと思うが眩暈がしてもう座っている事も出来なくなり、倒れそうになると地面に手を突くが力も入らずその場に崩れ落ちた。
森で木の幹に背を預け寝たはずのシルヴェリオが目を覚ましたのは寝台だった。
「目が覚めましたか?飲みたくなくてもお薬を飲んで頂きます。体を起こしますのでちょっと待ってくださいね」
声を掛けてきたのは女性。ゴリゴリと薬草でも煎じていたのかその手を停めて、腰かけていた椅子から立ち上がるとゆっくりとシルヴェリオに向かって歩いて来た。
そして額に手のひらをあてた。
「熱も下がったみたいね。あなた…脱水起こして倒れてたのよ」
初めて会うのに既視感を覚えたシルヴェリオだったが、背に手を回されて上体をゆっくりと起こすと出された薬湯を飲んだ。
背に手を回されて支えられているのもあって距離も近い。
鼻腔を擽る香りは何処かで嗅いだことのある香りで懐かしさも感じたが、世話をしてくれている女性の事は全く記憶になく身に覚えもない。
既視感もあるし、知っている女性だとは思うが「本当に知っているか」となれば自信もない。
「あの…俺は何日ここに?」
「今日で3日目。大変だったのよ?意識はないし運ぶの苦労しちゃったわ」
「申し訳ない。森で迷ってしまったんだ」
「でしょうね。帰りは迷わないと思うわ。もう起きられるでしょう?」
「え?もう??」
「そうよ。寝ている間も回復用の薬を少しづつ飲ませたもの。立てるし歩けるでしょう?」
「貴女が?してくれたんですか?」
「他に誰がいるの。起きたら陽が暮れる前に帰ってくれる?こう見えて忙しいのよ」
部屋の中を見回すと、粗末な椅子が1脚しかないテーブル。そのテーブルには手のひらサイズの木で作ったボウルが幾つかあり、薬草が籠から顔を出していた。
――ここだ!探していたのはここに間違いない――
シルヴェリオは寝台を飛び出し、ファティーナに訴えた。
街道の分かれ道の目印は二股になった大きな欅の木。
そこから道なき道を幾日か進んでいくと「ファマシィ・ファティ」という小さな店がある。
御伽噺に出てくるような小さな家は知る人ぞ知る万能薬を売ってくれる店。
ただ誰でも小さな店を見つけられる訳ではない。
二股になった大きな欅の木は本当に薬を必要とする者にしか見えないし、道なき道は何日もかけて歩いても元の場所に戻ってしまう事がある。何より店主のファティーナが薬草を摘みに出掛けていれば数日帰らない事もあるので店は休業の事もある。
全てを奪われた女、ファティーナ。
冤罪で裁かれた日から13年。
どうやら運命は静かに余生を過ごす事は許してくれないらしい。
★~★
ガサッ、ガサッ。
「はぁはぁ・・・なんなんだ?どうしてまたこの目印があるんだ」
二股になった欅の木が見えたシルヴェリオ・ネブルグはもう3週間も道なき道を彷徨っていた。
一息入れようと腰にぶら下げた水筒を手に取ってあと一口だけの水を残し、水筒を口から離した時に目に移ったのは3日目、いや4日前だったか。余りにも迷うので木の幹に目印で付けたナイフの痕だった。
目印をつけた木に近寄れば裏側にはさらに2週間前に付けた傷もあった。
どさっと音を立ててその場に力なく座り込み、空を見上げた。
真っ青な空が木の葉の間から見えるだけで鳥の声もしない。
「どうなってんだよ!チクショウ!ここまで来たってのに!!」
1時間程その場に座り込んだが、森を出るにも残っている水が心許ない。「58」とつけた目印を目標に水筒に水を汲んだ水場まで行こうと歩き始めた。最後に水筒に水を汲んだ時に側にあった木に付けた目印の番号だ。
辿り着けば水筒に水が汲めると最後の一口も飲んでしまい、あと少し、あと少しと歩き続けて2時間半。
目的の番号は見つけたもののあったはずの沢がない。
沢が枯れたのではなく、元々そんなものはなかったかのようにようよう辿り着いた目印「58」の周囲には鬱蒼と草が茂っているだけだった。
喉はカラカラでもう汗すら出ない。
「怠い…このままじゃ体力が無くなる…今夜はここで休もう」
シルヴェリオは木の幹に背を預けて目を閉じたが、何が出てくるかも判らない森の中。仮眠に留めようと思うが眩暈がしてもう座っている事も出来なくなり、倒れそうになると地面に手を突くが力も入らずその場に崩れ落ちた。
森で木の幹に背を預け寝たはずのシルヴェリオが目を覚ましたのは寝台だった。
「目が覚めましたか?飲みたくなくてもお薬を飲んで頂きます。体を起こしますのでちょっと待ってくださいね」
声を掛けてきたのは女性。ゴリゴリと薬草でも煎じていたのかその手を停めて、腰かけていた椅子から立ち上がるとゆっくりとシルヴェリオに向かって歩いて来た。
そして額に手のひらをあてた。
「熱も下がったみたいね。あなた…脱水起こして倒れてたのよ」
初めて会うのに既視感を覚えたシルヴェリオだったが、背に手を回されて上体をゆっくりと起こすと出された薬湯を飲んだ。
背に手を回されて支えられているのもあって距離も近い。
鼻腔を擽る香りは何処かで嗅いだことのある香りで懐かしさも感じたが、世話をしてくれている女性の事は全く記憶になく身に覚えもない。
既視感もあるし、知っている女性だとは思うが「本当に知っているか」となれば自信もない。
「あの…俺は何日ここに?」
「今日で3日目。大変だったのよ?意識はないし運ぶの苦労しちゃったわ」
「申し訳ない。森で迷ってしまったんだ」
「でしょうね。帰りは迷わないと思うわ。もう起きられるでしょう?」
「え?もう??」
「そうよ。寝ている間も回復用の薬を少しづつ飲ませたもの。立てるし歩けるでしょう?」
「貴女が?してくれたんですか?」
「他に誰がいるの。起きたら陽が暮れる前に帰ってくれる?こう見えて忙しいのよ」
部屋の中を見回すと、粗末な椅子が1脚しかないテーブル。そのテーブルには手のひらサイズの木で作ったボウルが幾つかあり、薬草が籠から顔を出していた。
――ここだ!探していたのはここに間違いない――
シルヴェリオは寝台を飛び出し、ファティーナに訴えた。
1,119
お気に入りに追加
2,076
あなたにおすすめの小説

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔
しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。
彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。
そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。
なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。
その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。
梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。
王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。
第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。
常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。
ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。
みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。
そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。
しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる