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第01話 嵌められた
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13年前。
筆頭公爵家ネブルグ家の主催する夜会。
次期公爵のアロンツォとその婚約者ファティーナは来客を出迎えていた。
「あ、すまない。ティナ。控室に式次第を書いた紙を置いてきてしまったようだ」
「だからちゃんと持ったかと聞いたのに」
「悪いんだけど取って来てくれるかな」
「判ったわ」
主だった招待客はもう入場していたため、人が引けたあと「持ってきて」と頼むアロンツォにファティーナは控室に行きアロンツォが忘れてしまったという式次第を書いた紙を探した。
「おかしいわね…ないわ。何処に置いたのかしら」
控室で探す場所と言えばアロンツォが使用した場所。
しかしソファの背凭れと座面のクッションも丁寧に探したが見つからず、着替えの服も丁寧に調べたのだが何処にもなかった。
いつもなら夜会はネブルグ公爵家のホールで行うのだが、今回の夜会はネブルグ公爵家が出資をして出来た観劇場やダンスホール、美術館に王立図書館ほどの蔵書はないがネブルグ公爵家の書庫をそのまま移設してきた図書館も兼ね備えた総合型の施設が完成したため、そのお披露目会をする為に大ホールを利用していた。
「もしかして馬車の中に置き忘れたのかしら」
ファティーナは部屋を出て廊下を急ぎ、各家の馬車の駐車スペースに向かった。
会場にいなかったファティーナ。
まさにその時、来賓として招かれた第1王子の暗殺未遂事件が起きた。
第1王子に出されたグラスに異臭物が混入しており、飲もうとグラスを近づけた時に只ならぬ異臭に気が付き事なきを得ていた。
異臭物が混入していたのは第1王子のグラスだけだったのだが、会場の中は大騒ぎになってしまった。
直ぐにグラスを第1王子に手渡した給仕が取り押されられたのだが、給仕がとんでもない事を言い出した。
「わ、若奥様に・・・頼まれたのです!何も知りませんでした!このグラスは殿下だから間違うなとそれだけをきつく申し渡されたので言われた通りにしただけですっ」
この場で若奥様と呼ばれるのはファティーナ。
そのファティーナは会場に居らず、従者が数人会場を飛び出してファティーナを探し始めた。
そんな事とは露知らず、ファティーナは馬車の中でアロンツォに頼まれた式次第を探していたのだが、あるものを見つけた。
「なにかしら。香水?」
小さな瓶に入った液体を指で瓶を抓み、振ってみる。
「わ、若奥様‥‥それは…」
犯人捜しをしていた従者にファティーナは手にしていた瓶を奪い取られた。
「あ、貴方、何をするの?」
従者は小さな瓶の栓を抜き、香りを確かめると「ここだ!」大声で叫んで人を呼んだ。
なんの事だがさっぱりわからないファティーナは突然後ろ手に締め上げられ、犯人だと叫ばれた。
馬車に乗り込んでいたのを「逃亡しようとしていた」とされ「違います!」否定をしたが、何故か御者まで「若奥様に直ぐに馬車を出せと言われた」と言い出す始末。
アロンツォが従妹のマリアやネブルグ公爵夫妻と駆け付けて来てファティーナは声の限り叫んだ。
「何かの間違いです!アロンツォ!式次第を探してくれと言ったでしょう?」
「ティナ…何を言ってるんだ?式次第なら君があれほど持ったかと確かめたじゃないか。ここにあるよ」
そう言って胸ポケットから式次第が掛かれた紙を取り出した。
「お姉様!何という事を!何故こんな事を?!殿下を殺めようだなんて恐ろしすぎます!」
「違う!違う!私じゃない!私はアロンツォに探してくれと頼ま――」
パンっとファティーナの頬はネブルグ公爵夫人に打たれ声が途切れた。
「我が家に‥‥我が家になんの恨みがあるのです!このよう事をしでかしてッ!」
「違います!私は何もしていません!」
「お黙りなさい!毒の入った瓶を持っている、会場にいない、逃げようとしている‥それだけではありません。貴女に ”殿下にこのグラスを渡せ” と言われたと給仕が証言しているのですよッ」
その場にファティーナの言葉を信じてくれる者は誰一人いなかった。
状況は不味いの一言。
小瓶に入っていた魔毒という特殊なもので、服用すれば持っている魔力が消失する。かつては対魔導士との争いで使われて現在は精製する事を禁じられている魔毒。
高度な魔力を持つ者が悪意を持って精製しない限り作れない。その技術を持っているのは数も少なくなった魔導士でファティーナの他は数人。
その数人とは王宮にお抱えとなっている魔導士で同種の魔毒は持出も厳しく管理されていた。王宮の魔導士でないとなると消去法で作る事が出来るのはファティーナだけだった。
筆頭公爵家ネブルグ家の主催する夜会。
次期公爵のアロンツォとその婚約者ファティーナは来客を出迎えていた。
「あ、すまない。ティナ。控室に式次第を書いた紙を置いてきてしまったようだ」
「だからちゃんと持ったかと聞いたのに」
「悪いんだけど取って来てくれるかな」
「判ったわ」
主だった招待客はもう入場していたため、人が引けたあと「持ってきて」と頼むアロンツォにファティーナは控室に行きアロンツォが忘れてしまったという式次第を書いた紙を探した。
「おかしいわね…ないわ。何処に置いたのかしら」
控室で探す場所と言えばアロンツォが使用した場所。
しかしソファの背凭れと座面のクッションも丁寧に探したが見つからず、着替えの服も丁寧に調べたのだが何処にもなかった。
いつもなら夜会はネブルグ公爵家のホールで行うのだが、今回の夜会はネブルグ公爵家が出資をして出来た観劇場やダンスホール、美術館に王立図書館ほどの蔵書はないがネブルグ公爵家の書庫をそのまま移設してきた図書館も兼ね備えた総合型の施設が完成したため、そのお披露目会をする為に大ホールを利用していた。
「もしかして馬車の中に置き忘れたのかしら」
ファティーナは部屋を出て廊下を急ぎ、各家の馬車の駐車スペースに向かった。
会場にいなかったファティーナ。
まさにその時、来賓として招かれた第1王子の暗殺未遂事件が起きた。
第1王子に出されたグラスに異臭物が混入しており、飲もうとグラスを近づけた時に只ならぬ異臭に気が付き事なきを得ていた。
異臭物が混入していたのは第1王子のグラスだけだったのだが、会場の中は大騒ぎになってしまった。
直ぐにグラスを第1王子に手渡した給仕が取り押されられたのだが、給仕がとんでもない事を言い出した。
「わ、若奥様に・・・頼まれたのです!何も知りませんでした!このグラスは殿下だから間違うなとそれだけをきつく申し渡されたので言われた通りにしただけですっ」
この場で若奥様と呼ばれるのはファティーナ。
そのファティーナは会場に居らず、従者が数人会場を飛び出してファティーナを探し始めた。
そんな事とは露知らず、ファティーナは馬車の中でアロンツォに頼まれた式次第を探していたのだが、あるものを見つけた。
「なにかしら。香水?」
小さな瓶に入った液体を指で瓶を抓み、振ってみる。
「わ、若奥様‥‥それは…」
犯人捜しをしていた従者にファティーナは手にしていた瓶を奪い取られた。
「あ、貴方、何をするの?」
従者は小さな瓶の栓を抜き、香りを確かめると「ここだ!」大声で叫んで人を呼んだ。
なんの事だがさっぱりわからないファティーナは突然後ろ手に締め上げられ、犯人だと叫ばれた。
馬車に乗り込んでいたのを「逃亡しようとしていた」とされ「違います!」否定をしたが、何故か御者まで「若奥様に直ぐに馬車を出せと言われた」と言い出す始末。
アロンツォが従妹のマリアやネブルグ公爵夫妻と駆け付けて来てファティーナは声の限り叫んだ。
「何かの間違いです!アロンツォ!式次第を探してくれと言ったでしょう?」
「ティナ…何を言ってるんだ?式次第なら君があれほど持ったかと確かめたじゃないか。ここにあるよ」
そう言って胸ポケットから式次第が掛かれた紙を取り出した。
「お姉様!何という事を!何故こんな事を?!殿下を殺めようだなんて恐ろしすぎます!」
「違う!違う!私じゃない!私はアロンツォに探してくれと頼ま――」
パンっとファティーナの頬はネブルグ公爵夫人に打たれ声が途切れた。
「我が家に‥‥我が家になんの恨みがあるのです!このよう事をしでかしてッ!」
「違います!私は何もしていません!」
「お黙りなさい!毒の入った瓶を持っている、会場にいない、逃げようとしている‥それだけではありません。貴女に ”殿下にこのグラスを渡せ” と言われたと給仕が証言しているのですよッ」
その場にファティーナの言葉を信じてくれる者は誰一人いなかった。
状況は不味いの一言。
小瓶に入っていた魔毒という特殊なもので、服用すれば持っている魔力が消失する。かつては対魔導士との争いで使われて現在は精製する事を禁じられている魔毒。
高度な魔力を持つ者が悪意を持って精製しない限り作れない。その技術を持っているのは数も少なくなった魔導士でファティーナの他は数人。
その数人とは王宮にお抱えとなっている魔導士で同種の魔毒は持出も厳しく管理されていた。王宮の魔導士でないとなると消去法で作る事が出来るのはファティーナだけだった。
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