幼なじみは絶対人質の許嫁

青香

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 夫婦って、最高じゃないか!
 俺だって健全な男子だ。
 そっち方面に興味があるのは普通の事だから、興奮するのは許してくれよ?

 願望に近い、ただの妄想。
 しかしそれが現実味を帯び、これからそうなっていくのだろうと思うと、ニヤつきが止まらない。
 だが若干のテレや恥ずかしさから、耳を赤くしてクネクネ悶絶する。
 突如結婚する流れになった事で、戸惑いや驚きを感じていた数分前の自分が嘘のようだ。

 「くぅぅぅぅ!」

 嬉しさから悶えていると、自然に声が漏れていた。
 目の前のドアが、いつの間にか開いていたのに。
 おそらく『最高だ』と叫んだ後だろうな。

 「カイル、何をやっているの?」

 母の声にハッとする。
 変な所を見られたと瞬時に悟り、恐る恐る視線を上げる。
 アレは何だろうな。
 『怪訝な』というのが、一番正しいのだろうな。

 母は息子の奇怪な行動に、自らの眉をひそめて、冷ややかに見ていた。

 冷や汗がブワッと全身に湧き出始める。

 どうする?
 何て言えばいい?

 今の俺の姿を説明しよう。

 クネクネ悶絶しながら、『くぅぅぅ!』と声を漏らしながらな、その。
 あれだ。
 ティナを抱きしめる妄想をしていたから、自分の体に腕を絡ませていたんだ。
 さぞかし変な姿を晒しているだろう。
 『何をやっているの』だと?

 フッ。

 母よ、逆に何をしているように見えるか、俺に教えてくれないか。
 そうすれば、突破口も見出せるんだがな。

 だが、母は『私は問うた側。早く答えよ!』の構えで動かず。
 こちらの出方を伺うように、ジッと俺の目を見てくる。
 その視線は冷や汗を増幅し、心が焦り出す。

 どうする!

 背筋に冷たい汗が伝うのを感じる。
 やはり問われているのはこちら側なのだから、俺が何かを言わなければならない。
 しかし何を?
 考える時間はあまりない。
 間を空けすぎたら、余計に変な状況へ追い込まれるかもしれん。

 そうなってしまえば、カイルは『いやらしい妄想して舞い上がってました』と自白しかねない。
 そうならない為にも、投げやりだが作戦を発動する。

 えぇい!もう投げかけてしまえ!

 『逆に聞いてしまえ』作戦である。
 そこから会話の糸口を見出し、妄想をしていた事を隠し通すつもりだ。
 体に巻き付いていた腕を下ろし、スッと直立した。

 「な、何をしているように見えた?」

 表情をキリリとし、相対する母カータに告げる。
 しかし愚直に投げかけた言葉を発した口元は、カイルの不安を表すように、ヒクヒクと痙攣した。
 喋りながら震える口元。
 もちろん気付いて震えないようにしようとしたが、完全に抑えることは出来なかった。
 この現象がどのように影響するか、見守るしかなかった。

 「そうねぇ。母さんが思ったのはーー」

 母の口を開かせる事に成功し、カイルは微小な安堵を得る。
 しかし何を話し出すか未知数な現状。
 心臓の鳴りは、ドクドクと高いままだった。
 それはまだ、これから起きる序章にしか過ぎなかったのに。

 「抱きしめているのは『ティナちゃん』かしらね?」

 心音が『ドクドク』から『バクバク』に変わる。

 「おそらく新婚生活を想像したってところね。あとは、そうねぇ」

 全てを言い当てられるような予感。
 これ以上は深堀されない方が、ダメージが少なくていいだろうと、瞬時に判断する。
 しかし話しを遮る以上、こちらも相応の事をしなければならない。
 肉を切らせて骨を断つような気持ちで、俺は挑んだ。

 「いや~、さすがお母様!そうそう、そうなんですよ!ちょっとだけ!ちょっとだけなんですよ?結婚した後の事を想像してしまって!いや~、さすがですね?なかなか、お目が高いですなぁ!ハハハッ!」

 少し前に村に訪れた、怪しげな物売りの真似をした。
 とても特徴のある話し方や手振り。
 この話の流れを変えるくらいのインパクトはあるはずだ。
 それに普段、俺は硬派な男を演じてきている。
 いや、演じているわけではないが!
 そうなりたいと努力している最中だという事だ!
 決して無理をしているわけではない。

 ん?待てよ?
 それが演じているという事、なのか?
 そうとも取れなくないか。
 いやいや!今はそんなのどうでもいいだろ!

 ともかくだ。
 母の話す内容を認めた上で、強引に話しを変えにいくしかない。
 そういう事だ。
 集中、集中!
 全力で、怪しい物売りを演じるんだ!
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