幼なじみは絶対人質の許嫁

青香

文字の大きさ
上 下
41 / 58

41

しおりを挟む
 「ただいま!」

 自宅の扉を揚々気分で開ける。

 「お兄ちゃ~ん!」

 俺の姿を見つけた十歳の妹が、バフッと勢いよく抱きついてくる。
 そんな妹の脇に手を回し、俺は彼女を持ち上げた。

 「プリシラ~!美味しいお菓子が食べれるぞ!」
 「お菓子?」

 意味がわからず、不思議そうな顔をするプリシラに、満面の笑みで俺は続けた。

 「そうだぞ!ティランドールのお菓子が食べれるんだ!」
 「ティランドール?分からないけど、お兄ちゃん、嬉しいの?」
 「あぁ!最高に嬉しい!」

 無邪気に喜ぶ兄の顔を見て、プリシラはニコッと笑う。

 「お兄ちゃんが嬉しいなら、プリも嬉しい!」
 「そうか!楽しみだなぁ、早く一時間経って欲しい!待ち遠しいなぁ!くぅぅぅっ!!」

 思わず妹を抱きしめて悶絶する。
 プリシラは嫌がる事なく、それを受け入れていた。
 そんな俺の悶絶を和らげる為に、プリシラは無邪気に祈る。

 「お兄ちゃんの為に、早く一時間過ぎます様に!」

 小さな手を重ねて瞳を閉じた姿。
 まるで天使が祈りを捧げている様だ。

 そんな祈りなど、何の意味もないのだが、俺のために何かをしてくれた事を嬉しく思い、抱きしめるのをやめて妹を下ろし、彼女の頭を撫でた。

 「プリシラは優しいな。本当に、天使みたいだ」
 「えへへっ!お兄ちゃんの事が好きだからだよ?」
 「そうか」

 プリシラの屈託のない笑顔に、俺も微笑みで応えていた。

 「どうしたの、そんな騒いで。何かあったの?」

 そんな騒ぎを聞きつけた母カータが、リビングに現れる。
 深刻な事態が起きたわけじゃないことを、俺とプリシラの声色から悟っており、その態度には余裕があった。

 「あぁ、母さん。ガイナスさんから伝言があってーー」
 「伝言?」

 妹の手を引き、母に近づく。
 そして伝えた。

 「一時間後に『挨拶』したいから伺うって」
 「えっ?挨拶?」
 「あぁ」

 そういえば、挨拶するだけなのに着替えるって何なんだろうな。
 何故そんな必要があるのか理解できない為、変な可笑しさが込み上げる。

 「変なんだよ。挨拶するだけなのに、綺麗な格好に着替えるから時間が欲しいって。おまけに手土産持参で」
 「そ、それってーー」

 カータは何かを察して、ワナワナと手が震え出す。
 それに気付かず、俺の話は続く。

 「その手土産が、街の菓子屋『ティランドール』の物でーー」
 「大変じゃない!カイル、ティナちゃんの家で何を話してきたの!?」
 「えっ?」

 先程までの余裕は、どこに行ったのだろう。
 母カータは、焦った様に聞き出した。

 「いや、その。ガイナスさんが、ティナの将来を俺に託したいって言うから、その」
 「託したいから?それで!?」

 あまりに母が豹変したので、俺はたじろぎながら言った。

 「了解した。い、今までもそうだったろ?」

 ティナのスキルが発動したら、それを解除する為に尽力した。
 それが当たり前だったし、これからもそうする。
 ただ、それだけの話。

 「だからーー」
 「了解したの!?」

 息子の話を遮り、母は確認する。

 「あ、あぁ。そうするべきだろう?俺ならティナを守る事が出来る」
 「カイルーー」

 ニーナの目頭に涙が溜まっていく。
 その反応に俺はギョッとしていた。

 「子供だと思っていたけど、いつの間にか立派になっていたのね。母さん、嬉しいわ」

 ホロホロと涙をこぼし、母は俺の頭を撫でた。

 気恥ずかしい。
 それに何故褒められているのか理解が及ばない。
 だが、褒められているのだから悪い気はしなかった。

 「一人の男として、覚悟を決めたのね」
 「あ、あぁ」
 「カイル」
 「な、なんだ?」

 母は俺の目をジッと見据えて誓わせた。

 「必ず守り抜きなさい。そして必ず幸せにするのよ?」

 幸せに。

 なんだか話が壮大になっている様な気がするが、俺は誓った。

 「約束する。ティナとは幼なじみだしな。彼女が幸せになるなら、俺は、労を惜しまない。ティナには幸せになって欲しい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

処理中です...