幼なじみは絶対人質の許嫁

青香

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 その声は、カイルの耳に届く。

 ハッシュの声だ。
 焦っている感じだが、今は。

 誰とも会いたくないし、昨日の事が村全体に伝わってしまっていたらと、ありもしない被害妄想が頭をよぎり、無視する事に決めた。
 しかしハッシュの発言は、決して無視できるものではなかった。

 「カイルさん!非常事態発生です!」

 窓際で緊急を告げるハッシュ。

 「非常、事態?だと!?」

 カイルは先程まで、あれ程滅入って塞ぎ込んでいたのが嘘の様にスッと立ち上がり、カーテンを勢いよく開け、窓を開いた。
 それ程までに、ハッシュの発した『非常事態』の言葉が重かった。

 「レベルは?」
 「今のところ『1』ですけど、パーティを組んでいるので、もしかしたら『2』以上の可能性もあります!」
 「そうか」

 カイルの表情にも緊張が走る。

 「今は、どんな状況だ」
 「自警団のメンバーで入り口を固めています。先頭に立つ人物は、『争いに来た訳じゃない。責任者と話をさせてくれ』と、穏便な感じですが、その」

 ハッシュは告げてよいのか躊躇う。

 「どうした?」
 「パーティーの編成から、カイルさんが以前言っていた、英雄クラスの可能性が否定できなくて」
 「なっ!?」

 カイルは驚きを隠せなかった。
 ハッシュが危惧する事柄が真実であれば、最高レベルの『5』に相当する。
 もし本当にレベル『5』なら、命を賭した戦いを覚悟しなけれならない。

 「支度したら直ぐに向かう!ハッシュは先に戻って、時間を稼いでくれ!」
 「わかりました!」

 ハッシュは戻ろうと踵を返す。

 そうだ!

 カイルは思い出し、走り出そうとしたハッシュを呼び止める。

 「ハッシュ!ティナを見たか?」
 「いえ!ここに来る途中で見かけませんでしたけど、家に居ないんですか?」
 「おそらくな。戻る途中で見かけたら、家に居るように伝えてくれ!」
 「はい!」

 指示を受け、ハッシュは走り出した。
 カイルは寝巻きを脱ぎ捨て、着替え始める。
 その心中は、ティナの事を思い、穏やかではなかった。

 ティナは母親のニーナさんの手伝いと言っていた。
 そうなると、畑にいるのか?
 もしそうなら、門から遠いから大丈夫なはずだ。
 しかし、それは希望的考えだ!
 楽観視するわけにはいかない。

 着替えが進むにつれ、凛々しい顔つきが戻って来る。
 非常事態に備えた皮鎧の留め金を、パチッ、パチッと付けると、カイルはキッと目力を取り戻した。
 そして愛用の剣を手に取ると、自分を鼓舞するように言った。

 「よし!いくぞっ!」

 気概を十分にし、開いた窓からバッと飛び出す。
 ヒラリと華麗に着地をすると、勢いそのままに走り出した。

 久々に起こった非常事態。
 ハッシュの言い方によると、大事に発展してしまう可能性もある。
 そうならない為に、全力を持って対処しなければならない。
 そう。
 スキル『一刀両断』を使う事になろうとも。

 カイルの顔は険しかった。
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