521 / 540
第十一章 盗賊王と機械の国
2話 久しぶりの再会
しおりを挟む
宿泊施設に到着すると、そのまま部屋に戻る。
その際に白いガスに全身を包まれるけど……、以前ミオラームから聞いた時は室内に菌等を持ち込まない為の消毒らしい。
「これだけで身体の汚れが落ちるとかほんとすげぇよなぁ」
「……いつも思うんだけど、診療所に欲しいと思うくらいには便利かな」
診療所に患者が入ったら同じように全身を消毒してくれる機能があったら、凄い便利だと思う。
例えば感染症の対策にも役立つ筈だから、辺境都市クイストに戻る時が来たらミオラームに頼んで買わせて貰うのもありかもしれない。
「ん?誰かいるみたいだぜ?」
「誰かって……、この部屋に入れるのはルームキーを持ったぼく達だけなのに?」
「一応警戒した方がいいかもしれないぜ?」
警戒をした方がいいと言われても、この宿泊施設の部屋は指紋認証型のルームキーという物が採用されているらしく。
利用者の指紋情報を登録する事で、安全に利用できるという事らしいけど、詳しい事は良く分からない。
……五大国の全てを見たからなのか、マーシェンスというこの国は何て言うか、他の国と比べて技術が一回りも二回りも進んでいるように見える。
けど今はそれよりも、ダリアの言う通り誰かが部屋にいるとしたら……誰かが潜んでいる可能性がある。
そんな事を考えながら、周囲を警戒しつつ部屋の奥に入るとそこにいたのは……
「レースさん、何処に行ってたんですか?」
「……え?」
「なんだ、カエデかよ」
部屋に備え付けられた椅子に座ったカエデが、ぼく達の姿を確認するとゆっくりとした所作で立ち上がる。
そしてこちらへと近づいて、不機嫌な表情を顔に浮かべると
「なんだって……、この前通信端末越しにマーシェンスの首都に行くとお話したじゃないですか」
「確かに言ってたけど、栄花騎士団の副団長という立場があるから、手続きとか色々とあるんじゃ?」
「そこは問題ありません、今の私はレースさんの婚約者ですし、それに栄花騎士団の副団長と言えど、任務以外で海外に行ってはいけないという決まりは無いので」
「ならいいけど……」
確かに副団長が任務以外で海外に行けないってなったら、メイディに行った際に大きな問題が起きていたはずだ。
……難しく考え過ぎていたのかもしれない。
「もしかして、ダート様の事が心配ですか?」
「そりゃ心配だろ、じゃなかったら父さんが毎日、母さんに通信端末越しに連絡入れるわけないだろ?」
「……ふふ、確かにそうですね、あっ!そうだ、レースさんにダートお姉様から一枚の絵を預かって来たので渡しますね」
「ダートから?」
カエデから写真を受け取ると、そこに写っていたのは白黒の紙に人型のような物が描かれている。
それは何て言うか……不思議な感じで、何か思い当たる物はないかと感がてみると、思いつくのは一つだけで……
「……これはもしかして」
「はい、ダートお姉様の体内をスイさんが診察して、視覚的に識別できるようにしたものです」
「スイが?」
「はい、何でもレースさんの変わりに学園の教師を代行する事になった際に、施設内の図書館を調べる時間があったとかで、独学で産婦人系の治癒術を覚えたそうで、その応用だそうですよ?」
辺境都市クイストにいない間、スイがぼくの変わりに魔導学園の教師を代理でやってくれているのは知っていたけど、いつの間にかそこまで高等な治癒術を使えるようになってるとは思わなかった。
そのおかげで、ぼくとダートの子供をこの目で見る事が出来たのは嬉しい、でも個人的には、治癒術師として自分の妻の状態は自分で確認したかった等気持ちもあって……
「……そういうのはぼくが覚えた方が良かったと思うんだけどな」
「確かにレースさんが出来たら便利かもですが、妊婦さんの身体を調べる行為を男性が行うとなると、世間的にあまり良く見られませんから止めた方がいいと思いますよ?」
「けど、ダートに使うなら大丈夫じゃないかなって」
「それでもです、誰が見てるのか分からない以上、診療所に影響が出る事がある行為は控えてください」
「……分かった」
カエデがそこまで言うという事は、本当に気を付けた方がいいのだろう。
「そんな事より、この絵について説明してくれよ、どれが父さんと母さんの赤ちゃんなんだ?」
「ほら、そこです、人の頭みたいなのが見えますよね?」
「ん?あ、あぁ……これか?いや、どれだ?」
「あ……、そうでしたね、ダリアさんは治癒術の知識が無いから説明が……」
「それなら、ぼくが説明するよ」
ダリアに絵を指差しながらどこに胎児の姿が映っているのか説明していく。
最初は分からなそうにしていたけど、徐々に分かって来てから興味が沸いたようで、眼を光らせながらくらいつくように見始める。
「──で、この特徴からすると男の子だね」
「性別まで分かんのかよ、治癒術ってすげぇな」
「興味が沸いて来た?」
「あぁ、何て言うか……ここまで体内の事が分かるって事は、時空間魔術と合わせれば色々と応用できそうな気がして、使えるようになりたくなってきたぜ」
「あぁ……、覚る動機が治癒術師向きでは無いけど、やる気が出てくれたならいいのかな」
……ぼくも空間魔術と治癒術の組み合わせを試した事があるし、攻撃に応用したらどうだろうかと思った事がある。
そういう意味ではやっぱり血が通った親子だなって言う感じがして、少しだけ嬉しい反面、治癒術師としては複雑だけど『ダートお姉様の件はこれくらいにして、王城に滞在中のミオラーム様達と話したい事があるのですが……、一人だとさすがに心細いので一緒に来てくれませんか?』とカエデが頬を赤く染めながらお願いをしてくるのだった。
その際に白いガスに全身を包まれるけど……、以前ミオラームから聞いた時は室内に菌等を持ち込まない為の消毒らしい。
「これだけで身体の汚れが落ちるとかほんとすげぇよなぁ」
「……いつも思うんだけど、診療所に欲しいと思うくらいには便利かな」
診療所に患者が入ったら同じように全身を消毒してくれる機能があったら、凄い便利だと思う。
例えば感染症の対策にも役立つ筈だから、辺境都市クイストに戻る時が来たらミオラームに頼んで買わせて貰うのもありかもしれない。
「ん?誰かいるみたいだぜ?」
「誰かって……、この部屋に入れるのはルームキーを持ったぼく達だけなのに?」
「一応警戒した方がいいかもしれないぜ?」
警戒をした方がいいと言われても、この宿泊施設の部屋は指紋認証型のルームキーという物が採用されているらしく。
利用者の指紋情報を登録する事で、安全に利用できるという事らしいけど、詳しい事は良く分からない。
……五大国の全てを見たからなのか、マーシェンスというこの国は何て言うか、他の国と比べて技術が一回りも二回りも進んでいるように見える。
けど今はそれよりも、ダリアの言う通り誰かが部屋にいるとしたら……誰かが潜んでいる可能性がある。
そんな事を考えながら、周囲を警戒しつつ部屋の奥に入るとそこにいたのは……
「レースさん、何処に行ってたんですか?」
「……え?」
「なんだ、カエデかよ」
部屋に備え付けられた椅子に座ったカエデが、ぼく達の姿を確認するとゆっくりとした所作で立ち上がる。
そしてこちらへと近づいて、不機嫌な表情を顔に浮かべると
「なんだって……、この前通信端末越しにマーシェンスの首都に行くとお話したじゃないですか」
「確かに言ってたけど、栄花騎士団の副団長という立場があるから、手続きとか色々とあるんじゃ?」
「そこは問題ありません、今の私はレースさんの婚約者ですし、それに栄花騎士団の副団長と言えど、任務以外で海外に行ってはいけないという決まりは無いので」
「ならいいけど……」
確かに副団長が任務以外で海外に行けないってなったら、メイディに行った際に大きな問題が起きていたはずだ。
……難しく考え過ぎていたのかもしれない。
「もしかして、ダート様の事が心配ですか?」
「そりゃ心配だろ、じゃなかったら父さんが毎日、母さんに通信端末越しに連絡入れるわけないだろ?」
「……ふふ、確かにそうですね、あっ!そうだ、レースさんにダートお姉様から一枚の絵を預かって来たので渡しますね」
「ダートから?」
カエデから写真を受け取ると、そこに写っていたのは白黒の紙に人型のような物が描かれている。
それは何て言うか……不思議な感じで、何か思い当たる物はないかと感がてみると、思いつくのは一つだけで……
「……これはもしかして」
「はい、ダートお姉様の体内をスイさんが診察して、視覚的に識別できるようにしたものです」
「スイが?」
「はい、何でもレースさんの変わりに学園の教師を代行する事になった際に、施設内の図書館を調べる時間があったとかで、独学で産婦人系の治癒術を覚えたそうで、その応用だそうですよ?」
辺境都市クイストにいない間、スイがぼくの変わりに魔導学園の教師を代理でやってくれているのは知っていたけど、いつの間にかそこまで高等な治癒術を使えるようになってるとは思わなかった。
そのおかげで、ぼくとダートの子供をこの目で見る事が出来たのは嬉しい、でも個人的には、治癒術師として自分の妻の状態は自分で確認したかった等気持ちもあって……
「……そういうのはぼくが覚えた方が良かったと思うんだけどな」
「確かにレースさんが出来たら便利かもですが、妊婦さんの身体を調べる行為を男性が行うとなると、世間的にあまり良く見られませんから止めた方がいいと思いますよ?」
「けど、ダートに使うなら大丈夫じゃないかなって」
「それでもです、誰が見てるのか分からない以上、診療所に影響が出る事がある行為は控えてください」
「……分かった」
カエデがそこまで言うという事は、本当に気を付けた方がいいのだろう。
「そんな事より、この絵について説明してくれよ、どれが父さんと母さんの赤ちゃんなんだ?」
「ほら、そこです、人の頭みたいなのが見えますよね?」
「ん?あ、あぁ……これか?いや、どれだ?」
「あ……、そうでしたね、ダリアさんは治癒術の知識が無いから説明が……」
「それなら、ぼくが説明するよ」
ダリアに絵を指差しながらどこに胎児の姿が映っているのか説明していく。
最初は分からなそうにしていたけど、徐々に分かって来てから興味が沸いたようで、眼を光らせながらくらいつくように見始める。
「──で、この特徴からすると男の子だね」
「性別まで分かんのかよ、治癒術ってすげぇな」
「興味が沸いて来た?」
「あぁ、何て言うか……ここまで体内の事が分かるって事は、時空間魔術と合わせれば色々と応用できそうな気がして、使えるようになりたくなってきたぜ」
「あぁ……、覚る動機が治癒術師向きでは無いけど、やる気が出てくれたならいいのかな」
……ぼくも空間魔術と治癒術の組み合わせを試した事があるし、攻撃に応用したらどうだろうかと思った事がある。
そういう意味ではやっぱり血が通った親子だなって言う感じがして、少しだけ嬉しい反面、治癒術師としては複雑だけど『ダートお姉様の件はこれくらいにして、王城に滞在中のミオラーム様達と話したい事があるのですが……、一人だとさすがに心細いので一緒に来てくれませんか?』とカエデが頬を赤く染めながらお願いをしてくるのだった。
0
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる