上 下
518 / 540
第十章 魔導国学園騒動

63話 日常へと帰りたい

しおりを挟む
 彼の考えてる事が分からない。
提案をしたかと思えば、断っても問題無いというし……なら何故あのような事を話したのか。
いくら考えても、頭の中に答えを出す事が出来なくて困惑してしまう。

「ふと思ったんだけどいいかな」
「……ん?なんだいレース君」
「マーシェンスにいる間とはいったけど、出来ればすぐにメセリーの【辺境都市クイスト】に戻りたいから、直ぐに決めた方がいい気がするんだけど……」
「何を言ってるんだい?直ぐに戻るって……、それは少しばかり無理があるんじゃないかな」
「……え?」

 直ぐに戻るのに無理があるって、いったいどういう事だろうか。
メセリーには身重のダートと婚約者のカエデがいるし、自分の運営している診療所や学園の事が気になる。
診療所に関してはスイがいるから問題無いとは思うけど、学園に関しては彼女がぼくの変わりに教師をしているとはいえ……生徒達の個性が強すぎて心配だ。
スパルナは真面目な子だけれど、自己主張が苦手なところがあるし……エスペランサはクラスをまとめる才能の持ち主だけれど、あの一件以降どうにも彼女を馬鹿にする生徒が増えていたから、色々と問題が山積みで……そういう意味でも直ぐに戻って日常に戻りたい。

「ん……」
「……カーティス?」
「誰か来たみたいだね」

 大きな足音を立てながら、誰かが部屋に近づいてくるとノックをせずに勢いよく扉が開く。

「ちょっと!カーティス様がレース様の部屋に行ったってどういう事ですの!?」
「……どう言う事って、孫の顔を見に来たんだけどいけないのかい?」
「孫って、レース様はハルサーの血筋じゃありませんですわよ!?」
「家族に必要なのは血筋じゃなくて、心だよ……夫婦になるという事はお互いの思いから幸不幸を共有するものだからね、……そんなマスカレイドとカルディアの育てた子供なら俺からしたら孫みたいなものさ」
「深い事を言ってるように聞こえますけど……、ちょっと何を言ってるのか分かりませんわ」

 ミオラームが部屋に入ってくるとぼくとカーティスの前に立つ。
そして空いている椅子に腰かけると……

「……それで?何の話をしていたんですの?」
「メセリーに直ぐに帰りたいって言う話をしていたんだけど、無理だと言われてさ」
「あぁ……確かに、今はまだ帰れませんわね」
「ミオラーム……?」

 どうしてミオラームまでそんな事を言うのだろうか……、そう思って色々と考えては見るけれど、思い当たる事としては、このマーシェンスという国において【賢王】という身分であるという事位だ。
彼女が帰れないと言葉にするという事は、何か事情があるのかもしれない。

「帰れないってどういう事?」
「今回我が国マーシェンスにおいて、マスカレイドの元研究室で起きた事件について、少々困った事になっておりますの」
「困った事?」
「えぇ、ソフィア様の事は隣国の【魔導国メセリー】から私が招いた事に出来ますが……、レース様に関してはどうしても国の貴族達を説得する材料が無くて……ほら、北の大国【ストラフィリア】の前王ヴォルフガング・ストラフィリアの第一子という立場もあるでしょう?ですから……えっと、国際的に問題が起きてしまいそうでして……」

 国際的な問題が起きたと言われても、今のぼくは実父ヴォルフガングの息子としてではなく、メセリーの平民として生活をしているから正直どうしてそんな事になっているのか理解が出来ない。

「それと貴族達を説得する材料って?」
「あぁ……、これって傭兵団を率いている俺が聞いていい話かい?必要なら少しの間席を離れるけど?」
「ここにいて構いませんわ、えっと……説得に関してはどうしてストラフィリアの元第一王子が我がマーシェンスにいるのか、更にはマスカレイドの元研究室で戦闘を行い意識を失った状態で、宿に運び込まれて治療を受けていたのかと、色々とですわね」
「……つまり、ぼくはマーシェンスに不法入国したとか、そういう流れになってるって事かな」
「今のままではそうなりますわね……、ですので急遽ストラフィリアの【覇王】ミュラッカ・ストラフィリア様に連絡をいれ、あちらでの役職を作っておりますわ」

 役職を作っているってそんな事を急に言われても、どう反応するべきか……。
ただ各国の王族達がぼくの為に色々と気を使ってくれることが分かる、それがなんだか申し訳ないような気がして、少しばかり気まずい気持ちになる。

「……もしかしてミオラーム、その役職に俺達【死絶傭兵団】を利用するつもりかい?」
「えぇ、そうする予定ですし、追加の依頼として報酬は弾みますわよ?」
「これは副団長に、勝手に依頼を受けるなと怒られそうだけど……面白そうだから受ける事にするよ」
「感謝致しますわ……、ですのでレース様には申し訳ないのですが、暫くの間マーシェンスの首都【アーケインギア】に滞在して頂きますわ」

……マーシェンスの首都の名前がぼくの記憶とは違う気がするけど、今はそんな事を気にする必要は無いだろう。
取り合えず、妹……いや現【覇王】ミュラッカと、メセリーの【魔王】ソフィア、そして目の前にいるマーシェンスの【賢王】が、国際問題にならないように色々と手を尽くしてくれているのは分かった。
ならぼくに出来る事は、皆に任せてゆっくりと待つ事で……でもその間、ダートの側に入れない事に不安を感じる。
そんな事を考えながら、早く日常に戻れる事を願うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...