治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第十章 魔導国学園騒動

60話 伝えられた遺言

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 あの後二人が行った処置のおかげで調子が良くなって来た。
けれど……、何だか疑問に思う事が多くて……

「……ソフィア、いったい何をしたの?」
「何をって、レースさんの中で暴れているセラフナハシュの力の方向性を調整しただけですよ?」
「ちょっと言ってる事が分からないけど……、ならミオラームはどうしてここに?」
「どうしてここにって……それは、ダート様が死絶傭兵団に頼んで依頼を出したからですわ」

 死絶傭兵団に?という事は、あの状態で集落までの距離を移動したということだろうか。
徒歩での場合、それなりに時間が掛かるだろうから、空間魔術を使ったんだとは思うけど……安静にして欲しい側からしたら、心配を掛けさせてしまった事に対して申し訳ない気持ちになる。

「……ダートが?」
「えぇ、その時に探そうにも場所が分からないという話になったのですけれど、カエデ様が持っていた通信端末を使った位置情報を表示するシステムを使う事で、皆様がマーシェンスの首都にいる事が分かったのですわ」
「……そういえばあの通信端末にはそんな機能があったね」
「もしかして忘れていらしたの?」

 ミオラームの言うようにすっかりと忘れていた。
あの機能は確か栄花騎士団の団長と副団長であるカエデしか使えないもので、正直ぼくとは縁遠いものだと思っていたって言うのもあるけど、今思うとトレーディアスのと時や、メイディでの際にお世話になった事がある。
そこまで経っていない気がするのに忘れてしまったのは、学園で教師をする事になってからの事があまりに濃すぎたのもあるのかもしれない。

「……なら、ミオラームは死絶傭兵団と一緒に来たって事?」
「来たというよりは、帰国したという方が正しいですわね……、それに死絶傭兵団以外にもフィリアもおりますわよ?」
「フィリアが……?」
「マスカレイドの研究室にはさすがに、状況が状況でしたので連れて来ることは出来ませんでしたけど……」

 ミオラームの近くに、彼女の護衛であるSランク冒険者【宵闇】フィリア・フィリスがいるのは、当然の事だというのは分かってはいるけれど……、正直今は出来る事なら会いたくない。
母さん……いや、彼女の父母であるカルディアと、マスカレイドが残した言葉を伝えるのには勇気がいる。
それ以前に、大事な事は亡くなる前に本人に直接言ってくれたらよかったのに

「……フィリアを呼びます?」
「いや、今はちょっと会いづらいからいいよ」
「会いづらい?……へぇ、レース、あなた私に会いづらいのね?」
「あ……」

 会いづらいと言った瞬間に、ミオラームの隣にフィリアが表れる。
そしてベッドに腰かけているぼくに近づくと、顎に手を添えて無理矢理、彼女の方に顔を向けさせられると

「ソフィア様、ちょっとこの雰囲気……、二人きりにした方が良さそうですから移動致しませんこと?」
「そう……ですね、私の部屋にダリアさんを待たせたままですから、早く戻りましょうか」
「……私がいない間、ミオの事宜しくねソフィア」
「えぇ、おまかせください」

 空気を読んだ二人が部屋から出て行くと、そのまま気まずい雰囲気に室内が包まれる。
これはもう逃げられない流れだ、体調が万全でない以上適当にはぐらかしても駄目だろう。

「……で?、何か言いづらい事があるわけ?」
「いや……」
「血が繋がっていないとはいえ、私はあなたのお姉ちゃんよ?家族として育って来た私に対して、会いづらくて、言いたくない事何てあるわけないわよね」

 フィリアのそういうところが個人的には苦手だ。
普段は周囲に対して無関心なくせに、身内に関してはとことんまで隠し事をされるのを嫌がる。

「母が亡くなった事は、ダートから聞いてるから大丈夫よ、ほら言いなさい直ぐ」
「……ん?どうしてダートが母さんの事を知ってるの?」
「あの子にはあの子なりの事情があるの、それに学園に関してもそうよ?あなたが居ない間、スイが診療所神慮の仕事で忙しいのにソフィアからお願いされて臨時教師として働いているの、これ以上周りに迷惑を掛ける前に言いなさい」
「そうやって来られると言いづらいんだって……」
「分かってるわよ?けど……そういう態度を取るあなたが悪いんでしょう?私はミオを待たせてるのよ?私のミオとの時間を奪ってるの、分かる?分かるわよね?」

 ……フィリアの顔がどんどん近づいてくる。
そして吐息が当たる程までの距離になると、彼女の肩を掴んで離す。

「分かった、話すから……」
「それならいいのよ、それならさぁ、早くお願い……ミオはまだ不安定なの、スチームヴェイパーの力を受け取ってしまったから、間接に、分かりやすく」

……確かにミオラームの事を考えたら、早く話した方がいいだろう。
けど……それなら早くそう言ってくれれば良かったのに、そう思いながら二人の伝言を伝えたら『それだけ?まったく、そういうのは普通生きている間に伝えるべきじゃない?ほんっと、馬鹿なんだから……けどまぁ、うん、私はもう純分に幸せに生きているとだけ言っとくわ』とだけ言葉にして、部屋を出て行ってしまうのだった。
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