治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

文字の大きさ
上 下
512 / 581
第十章 魔導国学園騒動

56話 戦いが終わり……

しおりを挟む
 セラフナハシュの眷属【世界を喰らう蛇】が、欠片すら残す事無く兵器を飲み込んで行く。
そしてマスカレイドへの道が出来ると……

「……【アシッドミスト】」

 背後からソフィアの声と共に、マスカレイドが霧に包まれる。
そして嫌な臭いが鼻を刺激したかと思うと、彼の身体が溶け始めて……

「この臭いは……?」
「金属を溶かす酸です、人体にも有害なので暫くは近づかないでください」
「近づくなって、それだと俺達はどうやってマスカレイドに近づくんだよ」

 そこまで強力な酸を魔術で作り出すのは凄いけど、ぼく達が近づけない以上……正直ここでその魔術を使うのは良い判断とは思えない。
けどそんな予想に反して、世界を喰らう蛇が霧を飲み込みながらマスカレイドへと突っ込んで行く。
そして彼を勢いよく弾き飛ばすと、溶けて脆くなっていたところが砕けて床に転がる。

「Sランク冒険者を一撃で吹っ飛ばすのかよ」
「マスカレイド様に意識が合ったら、ここまで上手くは行かなかったと思います」
「……つまり、今のマスカレイドは弱いって事?」
「いや、それは無いと思います」

 マスカレイドの戦い方を見て来たから分かるけど、今の彼が本来の実力を出せて無いのは確かだ。
まるで魔導具に刻まれた回路の指示によって動いているように感じる違和感があって、控えめに言って気持ち悪い。
本来なら兵器を破壊し続けているたぼくを先に倒して、こちら側の戦力を削ぐことで効率的に場を支配しようとするだろう。

「いや……今のレイドは弱いわよ、兵器の展開速度は上がっているけれど、魔術や魔導具を使った立ち回りが単調だし……何て言うか決められた動きを繰り返していて、気持ち悪いわ」
「母さんもそう思う?」
「えぇ、長くずっと一緒にいたから分かるわよ、レイドの癖や考え方も全て知り尽くしてるのよ?、そんな私が彼の事が分からないわけないじゃない」
「……そっか」

 確かにマスカレイドが本来の実力を出す事が出来ないでいる事を、母さんが気付かない筈が無い。
ならどうして、攻撃を迎撃してばかりで攻めようとしないのか、色々と気になるところがあるけど、触れない方がいい気がする。

「それが分かってるなら何で、あんたがマスカレイドを攻撃しないんだよ」
「……ダ、ダリアさん、そういうのは聞かない方が」
「あ?んでだよ、倒せるって分かってるのに、迎撃ばかりでふざけてんじゃねぇか!、俺達は今命を掛けた戦いをしてんだぞ!それなのにいくらカルディアも弱ってるからって真面目にやらない理由にならねぇだろうが!」

 世界を喰らう蛇が、四肢を失い動けなくなったマスカレイドに向かって、大きく口を開けるとそのまま飲み込もうとするが、胸元の穴から白い光が溢れたかと思うと内側から頭を貫く。

「ソフィア……蛇が!」
「大丈夫です、この世界の住人では無い存在が死んでも、元の世界に戻るらしいので問題ありません」

 頭を貫かれた世界を喰らう蛇の体から光の粒子が舞うと徐々に姿が薄れ空気に溶けるかのように消えてしまう。
そして再びマスカレイドが床に転がると、失われた四肢から魔力の光が溢れると徐々に人の手足を象り、ゆっくりとした動きで立ち上がる。

「……あれは、会話をしてたのよ」
「あ?それってどういう……?」
「レイドの意思が本当に無いのか、調べたかったの……、私の知ってる彼なら魔術に対して毒の魔術で対処するんじゃなくて、心器の【魔導工房】で作り出した兵器で対応して来るから」
「……二人とも、今はそんな話をしている余裕は!」

 マスカレイドの胸元に空いた穴から大筒が飛び出す。
そして周囲の魔力を取り込むと同時に母さんが鉄扇を構える。

「一度でも愛した男が、あのような化け物になってしまったのを冷静に受け止められるわけないじゃない」
『敵対対象の危険度上昇認識、撃退から殲滅へと移行、【カタストロフ】』
「詠唱して制御する必要なんて、今のあなたにする必要何て無いわ……【魔導砲】」

 二つの圧倒的な威力を持つ魔術と魔科学兵器の一撃がぶつかる。
これだと先程と同じような状況になると思ったけど、カタストロフを取り込んで威力を増した魔導砲がマスカレイドを飲み込んで行く。

「……あの一撃で頭が残るのかよ」
「もしかして、あの頭の中に心器が?」
「確かマスカレイド様の心器は大筒の中に入った動力を核とした【魔導工房】でしたよねカルディア様、それが頭に入る事何てありえますか?」
「……魔導工房は能力の一つよ、か、れ……の心器の本来の姿……四角い掌サイズのは、こ、だか……ら、入れる事なら出来、るでしょうね」
「……母さん?」

……苦しそうなに喋る母さんの方を振り向いた時だった。
音も無くその場に崩れ落ちる母さんと、驚いた表情を浮かべて身体を支えようと手を伸ばすソフィアの姿が目に映る。
けれど、地面に頭をぶつける寸前に姿が消えたかと思うと、マスカレイドの近くに精気を失った顔の母さんが座っていて、ゆっくりと腕を伸ばして彼の頭を抱きかかえ『……レイド』、と戦いが終わり静寂だけが支配する研究室に、小さな声が響くのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

処理中です...