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第十章 魔導国学園騒動

52話 黎明継承

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 マスカレイドの状況を見て、思わずどうすればいいのか分からなくなって思考が止まってしまう。
ぼく達が今まで見て聞きた彼は、シャルネの【精神汚染】の影響を受けていたのは分かるけど、ここまで錯乱して取り乱す姿はとても痛々しくて見ていられない。

「レイドあなた……」

 何度も壁に頭を叩きつけて、額から血液に似た赤い液体を垂らしながら静かになると、そのまま動かなくなる。

「この身体、そうか、そうか……」
「マスカレイド様……、どうされたのですか?」
「貴様は、あぁ……その容姿はメセリーの【魔王】ソフィア・メセリーか久しぶりだな」
「えぇ……、えっと、再度お尋ねいたしますがどうされたのですか?」
「この身体、とある人物を認識した後に暴走するようにシステムが組まれている……魔導具のコード名:黎明継承か」

 黎明継承、その言葉の意味が理解出来なくて困惑してしまう。
けど、出来る限り内容を予想してみるけれど、王族が王位継いだ際に能力が受け継がれるのと同じ理屈だろうか。
そうだった場合どうやって継承を行うのか、興味はあるけれどここで聞いて答えてくれるのだろうか、気にはなるけれど……マスカレイドが暴走する可能性がある以上そのような時間があるのか分からない。

「黎明継承?なんだそれ」
「俺が作成した魔導具を長く身に着け、尚且つ適応する事が出来た人物に俺が死亡した後、特性を魔導具の自壊コードに潜ませたバックドアから強引に継承させ、脳が一時的に機能を停止して意識を失い無防備になっている間に、ロドリゲスとウィリアムの協力の元、予めこの工房に保存されている俺のバックアップデータを脳に移植した後、この身体を造り直す事で俺を複製、そしてシャルネの為に異世界への扉を開ける魔導具の作成をするつもりだったらしい」
「……わりぃ、話しが長くて何を言ってんのか分からねぇ」
「それとマスカレイドの暴走に何の繋がりが?」
「理性を失い本気を出さゼる負えない状態になった俺を殺す事が出来る程の実力の持ち主なら、能力や人格を映しても適応する筈だ、……だがシャルネも予想が出来なかったのだろうな、肉体を魔導具に変える事で奴の精神汚染の影響が解ける事が」

 ダリアの感想と同じで、何を言っているのか難しくて内容が良く分からなかったけど、取り合えず噛み砕いてくれた内容をまとめると、マスカレイドを倒せる程の実力の持ち主なら自分の力に対応できるという事だろう。
正直能力を超越した彼を倒すという事自体、常識的な範疇で考えたら無茶ぶりとしか言えないけれど、シャルネの精神汚染の影響から抜け出せた理由に関しては予想がつく。

「ぼくがマスカレイドが作ってくれた、偽装の魔導具の効果を使ってる時と使ってない時で精神汚染の効果から外れたりするのと同じ?」
「理屈は同じだとは思うが……そのような事になっていたとはな、レース、俺が正気を失う前に左腕の義肢を触らせてくれ、今の貴様に合わせて調整を施してやる」
「……その間に暴走したらどうするの?」
「いいから早くしろ、こうしている間にも俺の意識データは徐々にスリープ状態になりつつある」
「……分かった」

 マスカレイドの指示に従い、左腕を彼へと伸ばすと彼の背中から無数の細い糸のような物が伸びて義肢に接続されて行く。

「今の俺に出来る事、いや……贈ってやれるものはこれくらいしかないが、せめて役立ててくれ」

 魔力の光が義肢を包み込んだかと思うと、マスカレイドの前に半透明の板のような物が宙に浮かび上がる。
それを震える手でゆっくりと触れると、魔導具に使われている回路が映し出されて

「……これは、義肢の技術に俺の式が使われているな、回路も似ているが所々アレンジを施し、そこに作成者が組み上げたオリジナルを足して……なるほどこれは素晴らしい式だ、誰が作ったのか分かるか?」
「……ミオラーム、マーシェンスの【賢王】ミオラーム・マーシェンスだよ」
「そうか、王族の中で唯一俺を敵視したあの娘か、……どうやら、ふふ、そうか」
「マスカレイド?」
「……もう、この世界には俺が居なくても問題無いのだな、こうして新たな技術者が生まれ、そして俺の生み出した式は確かに次世代へと受け継がれ芽吹きを得た」

 嬉しそうな表情を浮かべて笑いながら回路を見るマスカレイドの姿は、異形の化け物へとその身を変えて尚、新しいおもちゃを見つけた子供のように見える。
彼の指先はまるでピアノを弾くかのように、滑らかにそして踊るように動いては、義肢がぼくの意思に反して勝手に手を開いたり閉じたりを繰り返す。
暫くして徐々に魔力の光が収まると、義肢の見た目が金属では無く元の腕と同じ見た目になっていた。

「……見た目が魔導具の義肢だとメセリーでは注目を浴びるだろう、触れられたらさすがに気づかれるが見た目は、偽装の魔導具により人の腕に見えるようにしておいた」
「別に……かっこ良かったから、そのままで良かったのに」
「貴様、俺の労力を返せ……まぁいい、それに関しては自身の意思で機能のオンオフが切り替え出来るから必要に応じて使え、……後はバックドアは残したが自壊のコードの機能を停止させた、その際に一部数値を書き換え回路全体の最適化を施したから以前よりも使いやすくなったはずだ、詳しくは俺の技術を学んだ新芽、いや弟子と呼んだ方がいいのか?、まぁいい、ミオラーム・マーシェンスに見せれば分かる筈だ」

 左腕の義肢に接続されていた細い糸がゆっくりと外されてマスカレイドの中へと戻っていく。
早速機能をオフにして、元の見た目に戻すと……母さんが口を押さえて噴き出すけど気付かなかった事にした方がいいだろう。

「……ルディー、そこで笑うのは俺……いや、僕が傷つくから止めてくれ」
「ふふ、ごめんなさいね……けど、こうやって以前の可愛らしいあなたが見れて良かったわ」
「……そうか、ところでもう意識を保つのが限界だから、一つだけ頼まれてくれないか?」
「……なぁに?」
「俺が亡くなった後、娘、いやフィリアに伝えてくれ……俺は君の事を愛していたと」

……マスカレイドはその言葉を最後に静かになり、ゆっくりと俯く。
そして再び顔を上げるとそこにあったのは、感情の無い無機質な表情で余りの不気味さに数歩後ろに下がってしまう。
それと同時に『レイドあなたっ!それくらいは直接言いなさい!』と始めて聞く母さんの怒鳴り声が研究室内に響くのだった。
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