上 下
506 / 540
第十章 魔導国学園騒動

51話 叡智と黎明

しおりを挟む
 マスカレイドのカタストロフが研究室を破壊しながら迫る。
ダリアが必死に精霊に魔力を渡して術を発動させようとしているけど……

「ちょっ!おま……逃げんなっ!くっそ肝心な時に役に立たねぇ!」
「……安全な場所に移動させてくれるんじゃなかったの?」
「死にたくないから逃げるって言って、俺の中に隠れやがった!」
「えぇ……」

 死にたくないって言う気持ちは分かるけど、まさかこのタイミングで精霊に逃げられる何て思わなかった。
さすがに今から避けようとしても間に合わないし、ダリアの時空間魔術を使ったとしても獣化したグロウフェレスを抱えて移動するのは不可能だ。
せめて……彼が人の姿に戻ってから意識を失ってくれたら良かったのだけれど、こればっかりは文句を言ってもしょうがない。

「……あなた達、何を無防備にその場で立ってるの?」
「母さん!?」

 焦っているぼく達の前に母さんが空間魔術で転移すると、心器の鉄扇を顕現させると……

「……地よ風よ、火よ、水よ一つに連なりて、我が叡智を示せ【魔導砲】」

 四つの属性の魔術が一か所に集まったかと思うと、黒い閃光となってマスカレイドに向けて放たれる。
そしてカタストロフと衝突すると、二つの色が合わさり一つの球体に姿を変えると肥大して行き、周囲を飲み込みんで行く。

「……ソフィアちゃん、今のうちにミオラームちゃんとグロウフェレスを安全な場所に移動させてちょうだい」
「カルディア様……、分かりました!」

 ソフィアの杖槍の先端に魔力の光が灯ると、二人が霧に包まれる。
そして……完全に姿を覆い隠すと、目の前にいるグロウフェレスの姿がどんどん薄くなって行くと、水に溶けるように消えてしまう。

「ミオラーム様とグロウフェレスの転移終わりました!カルディア様……いえ、師匠!次は何をすれば!」
「残った三人は私と共にレイドの相手をしなさい!今の私では彼を倒す事が出来ない……、だから力を貸して!」
「分かったけど、ぼくに出来る事って何かある?」
「私とレイドが掛けた封印が解けて、封じていたあなたの本来の心器が使えるようになったはず、それに……今のあなたはディザスティアの力の残滓とセラフナハシュの力の一部をその身に宿しているのでしょう?なら、充分戦える筈よ」

 どうして母さんが、二柱の神の力を封じている事を知っているのだろうか。
色々と気になるけれど、封印が解けた事で本当にマスカレイドと戦える事が出来るようになったというのなら、試してみた方がいいかもしれない。
けど……やり取りをしている内に、球体にヒビが入ったかと思うと……囲うように魔法陣が空中に展開され……

「虚数崩壊」
「粒子崩壊」

 母さんとマスカレイドの声が聞こえたかと思うと、半分が塵になって消え。
もう半分が黒く染まると、空気に溶けるように色が薄くなり見えなくなった。
そして……静寂が場を包み込んだかと思うと、マスカレイドの背中から生えていた無数の管が外れて床に落ち、ゆっくりと立ち上がる。

「……どうしてここにルディ、貴様がいる?」
「レイド、あなたはどうしてこんな姿になってしまったの?」
「どうして?何を言っているんだ?ルディ、これは俺とお前が共に夢見て目指した魔導の行きつく先の一つ、魔導と機械の融合だ」
「……レイド?」
「これがあれば、この力があれば俺達の知的欲求により作り出されて産まれた娘も、ルディーが広い俺達で育てたレースも守る事が出来る、俺が作り生み出した技術で……弱き者を、守るべきものを守り暮らし、人々の生活を豊かにすることが出来る!」

 全身が機械の身体になったマスカレイドのその目は焦点が合ってなくて、会話も出来ているようで出来ていない。
けど、正気を失ってなお必死に大事な者を守ろうとする姿は……何だか痛々しくて、言葉に詰まってしまう。

「母さん、マスカレイドはシャルネの【精神汚染】の影響で精神が歪んで……」
「……レイドは、Sランク冒険者の中でも心が不安定で、何時も悩んでばかりだったから、影響を受けてしまったのね」
「その為に魔導人形を作った、俺の心を操ったシャルネを滅ぼし、俺達の平和を取り戻し家族としての時間を過ごすために、……ん?そこにいる青年は誰だ?」
「……青年?マスカレイド、ぼくはレースだよ、そして隣にいる子はぼくとダートの娘のダリア」
「……貴様がレース?嘘を言うな、おまえはまだこんなに小さい子供のは……ず……、ん?何だこの記憶はなぜ俺が大人になったレースと異世界から呼び出したダートとストラフィリアで?、どうしてメセリーで戦いを?なんだ、なんだこれは、ん?どうして俺はこんな姿になっているんだ?俺の身体は何処だ?これはなんだ?」

……マスカレイドの表情が困惑に染めると母さんの方を見て『……ルディ、俺はどうなってしまったんだ?』と言葉にすると、まるで助けを求めるかのようにマンティコアの腕を伸ばす。
彼の行動に応えるように母さんも腕を伸ばすけど、途中で意識を失ったかのように腕が下がりその場に固まってしまう。
そのまま、再び静寂が場を支配したかと思うと……マスカレイドが頭を抱えて喉が張り裂けんばかりの声を上げると『思い出した、思い出した……全部、全部!俺は、俺は……何て事を、どうして!』と錯乱し始めるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...