治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第十章 魔導国学園騒動

間章 天狐 グロウフェレス視点

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 二手に分かれて行動する。
それは別にいい、その方が効率的だろうし……同じ立場になったら、私だってそうする。
けど……それなら、本来なら敵同士である私とレースが行動をするべきではないか?、幾ら一時的にマスカレイドを倒すまでの間、協力関係にあるとはいえ、余りにも無警戒ではないか。

「キュー先生、あの……」
「セイランさんどうしました?」
「……こんなところで聞くのもどうかと思うのですけど、キュー先生ってその」
「……?」
「今って特定の決まった相手とかって、いらっしゃったりとかしますか?」

 本当にこの女は何を言ってるのか。
今我々がいるのは、敵の本拠地なのに……特定の相手がいるかどうかだと?、いったい何を考えたらそのように脳内がお花畑になるのか。
セイラン……、あの犬科の獣人族の特徴として自分よりも強い雄や好ましい匂いを持っている存在に好意を抱き、本能的に番になり種を残そうとする特徴がある。

「……セイランさん、今はそのような事を話している場合ではないのでは?」
「そ、そうですけど、二人きりになれるタイミングが全然ないじゃないですか、キューさんはいつも仕事が終わったら直ぐに帰っちゃいますし……」
「だからこのタイミングで私に聞くと?」
「ダメ……ですよね」
「それなら今度、声を掛けて頂けたら時間を作りますので」

 この身体は古の時代に、この世界で生きていく事を決めた際に偶然出会った町娘との間に子を儲けた際に、生まれた血縁に連絡を取り一時的に借りているものだ。
故に、セイランから声を掛けられたとしても、その頃には本来の持ち主に身体を返しているだろう。
記憶の共有は行われている為、問題は無いとはいえ……、こちらから協力を仰ぎ、精神を憑依させる形で召喚して貰い、肉体を借りている以上必要以上に好き勝手するのは違う。
それに好意を抱くのならば、何百年も生きている私のような化け物よりも、本来の身体の持ち主であるキューにするべきだ。
面倒見が良く、心根が優しい、それだけでなく困っている人に手を差し伸べられる子だし、魔族の血を引いているから彼女との相性もいいだろう。

「ほんとですか!?絶対ですよ!」
「えぇ……私は一度約束した事は守るタイプらしいので」
「……ん?らしいって不思議な言い方をするんですね」
「えぇ、その方が印象に残りやすいでしょう?」
「なるほど、キュー先生って意外とユーモアがあるんですね!」

 すまない、まともにセイランと会話をした事が無い遠い子孫よ。
君の事だから多分大丈夫だと思うが、強く生きて欲しいと思う。

「……ふぅ、これで落ち着きました」
「落ち着いたとはどういう事で?」
「ほら、私達って実戦の経験が浅いじゃないですか、だから凄い緊張しちゃいまして……」
「あぁ、だからあのような行動をして、緊張を和らげたと……なるほど」

 確かに緊張を和らげるのには、そういう会話をする事もいいだろう。
現に彼女の表情は緊張が和らぎ、無駄な力が抜けたようだ。

「やっぱり……迷惑でしたか?」
「いえ、迷惑では無いです」
「あ、じゃ、じゃあ!もう一つ話したい事があるんですけどいいですか!?わ、私実は隠してる事があって」
「……隠してる事、もしやセイランが獣人であることを隠していると言う話ですか?」
「え……?」

 隣を歩いていたセイランの足が止まる。
まさか……バレているだなんてとでも言いたげな顔をしているが、普段かぶっている帽子のサイズが合ってないせいで、隙間から耳が見えているし。
尻尾に関しても、スカートで隠しているつもりだろうが……、自分の種族を隠す為の訓練を受けてないのだろう。
感情に合わせて尻尾が忙しく動いてしまっているせいで、彼女が獣人族である事はもはや、学園内では誰もが正体を知っている。
それでも生徒達が指摘しないのは、彼らなりの優しい気遣いだろう。

「な、なんで知ってるんですか!?完璧に隠せてると思ってたのに」
「……バレてないと思ってるのは、セイランさんだけだと思いますよ」
「えぇ……、嘘でしよ、必死にバレないようにがんばっ……て……」
「っ!これは!」

 驚いた表情を浮かべていた彼女が突如、意識を失いその場に倒れそうになるのを、咄嗟に抱き留める。
そして何が起きたのか確認する為に周囲に目を配ると、小さな足音と共に見覚えのある男の姿が表れ……

「おや、俺の計算だと、この魔術で二人を無力化出来る筈だったんだけどね」

 あるロドリゲスが、驚いたような表情を浮かべると手に持っている液体を床に撒くくと。

「酔えや、酔えや……酒に飲まれて深い眠りに沈め……【ドランク】」

 彼の詠唱を聞いて咄嗟に口元を覆い、すると鼻につく独特な刺激臭と共に、視界が揺らぎ平衡感覚が掴めなくなる。

「ロドリゲスさん、あなた何を……?」
「私の事を調べようとしなければ、こんな事にならなかったのに……愚かなものです」

 薄れ行く意識の中、職員室で作っていた召喚用の触媒を取り出すと、私のではなくキューの魔力を流す。
一時的に私と契約を交わしている彼の魔力ではないと呼び出せない、今では遠い過去となり御伽噺でしか語られない九尾、長き時を行き己が力を高めた結果、天狐となりし、彼等の一族にとって祖となる者。
その名は……

「な、なんですか……この膨大な魔力は!?」
「……生命を育み、惑わし……破壊するもの、来たれ天狐【グロウフェレス】」

……キューの背後に、白い体毛に毛の先端が茶色く染まった獣が姿を現す。
三本の尾にはそれぞれ鈴が結びつけられており、その周囲には青い炎がゆらゆらと揺れる。
そして私の完全に意識が途切れる前に、彼に礼を告げて精神を体に戻すと動揺し動けなくなっているロドリゲスに向かい、牙を向いて飛び掛かった。
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