治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第十章 魔導国学園騒動

35話 残念な彼女

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 ロドリゲスが拘束を解き逃走した。
けど……何故かソフィアは表情を変える事が無く淡々と

「……敢えて拘束を解けるようにしておいたのですから、もっと静かに逃げればいいのに」
「ソフィア様、どうしてそんな事を?」
「やましい事をしている人というのは、追い詰められた時程本性を表すんですよ、ロドリゲスの場合、今みたいに転移の魔法陣が描かれた紙を使って移動をしたという事は、私達のやり取りを誰かに報告しようとする筈です」

 と冷たい口調で言葉にしながら、職員室を出ずに何故か椅子に座る。
そして指先に魔力の光を灯し、一枚の紙を取り出して文章を書くと誰かに渡すのではなく、そのまま燃やす。

「ソフィア、母さんと合流するんじゃないの?」
「今連絡を入れたので現地で合流します」
「……今の一瞬で?す、すごいです」
「えぇ、師匠とやり取りをする時に使う特別な魔導具なのですが、文字を書くと対になる方にも同じ内容が表示されるようになっています、これ結構作るの大変なんですよ?」
「ソフィア様、そんな貴重な物を燃やしてしまって良かったんですか?」

 セイランが心配そうに聞くけど、ソフィアなりの考えがあるんだと思う。
例えば消す事で情報の漏洩を防ぐとか、そういう理由ならさっきの行動も納得出来るけど……、やってしまったと言いたげな表情をしている辺り、何も考えてなかったのかもしれない。

「──てしまいました」
「え?」
「かっこつけてしまいました、ほら……こういう文章って書いてから消した方がかっこいいと思いません?思いますよね?だから演出としてはやったほうがいいかなって」
「……これがこの国の王ですか」
「キューさん、何ですか?残念な人を見るような目で見て来るなんて失礼ですよ?」

 いや、実際に残念な人なんだから、そんな反応をされてもしょうがないだろう。
そもそも、かっこつける為に燃やした後に、これ結構作るの大変なんですよ?なんて言われても逆に反応に困る。
そんなに大事な物なら、書いた文字を消して再利用するとかすればよかったのに……

「いや、充分に残念な人だと思うけど?」
「ちょ、レースさん!?ここには私の事を詳しく知らない人がいるんですよ?そんな残念とか言わないでください!魔王としての威厳が無くなっちゃいますよ!ほら、私この国の王様ですよ?国民の前ではしっかりとした姿を見せないと……ほら、ただでさえ行き遅れとか言われてるんですから!」
「……ソ、ソフィア様?」
「ほ、ほらぁ!引かれちゃってる!」
「いや、自分から印象を下げに行ってるだけじゃ?」

 ダメだ、ソフィアがこうなると落ち着くまで残念な人のままだ。
今はそんな事よりも、早くロドリゲスを追ってダリア達を助けなければいけないのに

「……魔王ソフィア、めんどくさい茶番を続けるのは結構ですが、やるのならロドリゲスを追ってからにした方が良いと思いますが?」
「あ、は……はい、確かにそうですね、ごめんなさい恥ずかしい所を見せてしまいましたね」
「いえ、分かって頂けたなら結構です、それよりも移動する前に一つ聞いてもよろしいでしょうか」
「一つ、ですか?……私が答えられる範囲で良ければいいですけど」
「ロドリゲスの事を『叡智』カルディアとしていたと言ってましたが、どうして口止めをしようとしたり、セイランが聞いたら調査中としか言わず情報を共有しなかったのですか?」

 キューの言うように、調査中とだけ言われたら気になるのはしょうがない。
こればっかりはソフィアの発言に問題があると思うし、学園長という立場にある以上はしっかりと情報を共有するべきだったのではないだろうか。

「こればっかりはしょうがなかったとしか言いようがありません、キューさんを含め、あなた達はロドリゲスと同じ教室を受け持つ教師である以上、私があなた達に情報を共有して、彼にその事が知られてしまった場合、逃走を許してしまう可能性がありましたから言えなかったんですよ……口止めをしようとしたのもそれが理由ですね」
「……なるほど、ある程度は理由を理解出来ましたが今はこれくらいでいいでしょう」
「おや?他に知りたい事があるなら、答えますよ?」
「それならぼくからもいいかな、母さんとロドリゲスの事を調べてたって言うけど……」
「あぁ、それの事ですか、レースさんがあのクラスの担任になった後、彼が何やら外部に学園の情報を流し始めたり、担当する教室以外の生徒と接して研究室に連れ込んでは行方が知れなくなることが多かったので、これは何かあるんじゃないかと私なりに調べてみたんですよ、そうしたら……思いの外問題が深刻だったので、師匠に助けを求め調べ始めたのですが、生徒達があのような光景になっているのを知り、この事態を起こした黒幕を探していたら──」

 つまり彼女の話をまとめると、ソフィアと母さんが黒幕を探す為にロドリゲスを泳がそうとした時に、ぼく達が噂の真相を探し始め。
その結果今に至るという事だろう。

「──というわけですね、あっ!セイランさんは何か聞きたい事はありますか?今なら特別に何でも聞いてくださって大丈夫ですよ?」
「え?あ、あぁ……私は大丈夫です」
「そうですか?なら、そろそろ移動しましょうか」

……ソフィアの手元に杖と槍が一体化したような形をした、杖槍と言われる珍しい獲物が現れ『一瞬で移動しますから、何かあっても直ぐに動けるようにしてくださいね』と言葉にする。
そして一瞬、身体が浮かび上がったかのような感覚がしたかと思うと、見たことの無い機械が異音を上げながら稼働する不思議な場所へと風景が変わるのだった。
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