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第十章 魔導国学園騒動

26話 月日が過ぎて

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 あの後、何時までも話し続けるのはどうかと思い、セイラン達に後は何をすればいいのか聞くと。
夕方までは明日の授業に使う備品の準備や、それぞれに与えられた学園内の研究室にて、自分の魔術や治癒術に対する研究を進めたり、生徒達一人一人に合わせた教え方について話し合う時間だそうだけど……

『レース先生は今日が初日ですからまだ研究室とかも無いですし、それに慣れない事をして疲れていると思いますので、今日は私が学園長に話をしておきますから帰ってもいいですよ?』

 と個人的にありがたい提案をして貰えたから、言葉に甘えて帰宅させて貰った。
そして次の日から家と学園を往復し、診療所には週に一回顔を出すような生活を送るようになり、この新しい生活にも慣れる位の月日が過ぎて……

「……んー、どうするかな」
「どうしたの?」
「あぁ……いや、学園での事が考えてて」
「ふふ、いいなぁ」
「ん?ダートどうしたの?」

 久しぶりに家に二人しかいない時間が出来たから、ダートとリビングでゆっくりしていたら、無意識のうちに独り言が口に出ていたようで……
けど、いいなぁって言われても、どうしてか分からなくて……どんな反応を返すべきか迷ってしまう。

「だって、学園に行くようになってから色々と楽しそうにしてるし、いいなぁって……ほら、今の私って適度な運動以外は特に出来る事が無いから……」
「こればっかりはしょうがないよ、けど……出来る限り側にいるようにはするから」
「側にいてくれるのは嬉しいけど、私の事はサリッサさんやカエデちゃんが見てくれてるから大丈夫だよ?」
「確かにそうかもしれないけど……ぼくは君の夫だから、大事な時には側にいたいかな」
「ふふ、レースはほんとに変わったね」

 ……変わったと言われたら確かにそうかもしれない。
彼女に出会ってから色んな事があったし、色んな人に出会えた。
それに……今は栄花騎士団からの応援要請がないから、自分の家でゆっくり出来ているけど、もしまた要請があったらこの日常からまた非日常へと身を投じる事になるのだろう。
そんな事を思いながら、お腹が大きくなったダートを見ていると……これが束の間だとしても、今のこの一分一秒を少しでもいいから大事にしたいという気持ちになる。

「……それで?何を悩んでるの?」
「学園の同僚にグロウフェレスがいると言ったら……どう思う?」
「どう思うって……、私達の敵なのに同僚なの?」
「うん、仕事とプライベートでは公私を分けると言っててさ、確かに本人が言うように……しっかりとしてるし、外では接触して来ないから全然何をしたいのか分からなくてさ」
「……んー、それなら直接聞いてみたらどう?今の所敵対してないみたいだし、何か聞けるかもだよ?」

 何か聞けるかもと言われても、いったい何をどうすればいいのだろう。
仮にプライベートで色々と聞いて敵対する事になった結果、辺境都市クイストが戦場になるのだけは避けたい。
妊娠中のダートや、婚約中のカエデ……そして娘のダリアに妹のルミィ、そして使用人のサリッサと大事な人が今のぼくには沢山いる。
友人のジラルドやコルク、アキラさんに関しては、自分で戦う事が出来る人だから大丈夫だと思うし、ダリアに関してはぼくよりも強いし、魔術や治癒術どころか精霊術も使う事が出来るけど、それとこれとは問題が違う。
そんな悩みが顔に出てるのか、優しく笑みを浮かべながらぼくが言葉を紡ぐまでダートが見守ってくれているのを見て、取り合えずおかしくてもいいから、自分なりの考えを伝えてみようとしてみると……

「……ん?」
「あれ?今日って診療所はおやすみの日だったよね?」

 今日は週に一回の診療所が休みの日だというのに……、何故か下の階から扉を叩くような音がする。
もしかして……急患だろうかと思い立ち上がるけど、暫くしてそれは無いかと思い座り直す。
この今住んでいる場所が町から都市へとなり、教会が出来て以降……ぼくの診療所以外にも治癒術を使い怪我の治療を行える施設が増えた。
おかげで以前のような忙しさは無くなったのけど、あちらはやはり教会を通している為どうしても治療費が高くなるし、今の教主になってからどうかは分からないけど……お布施という名目で、多額の現金を積めるかどうかで患者の優先度が変わってしまう。
そのせいで本来治療が必要な人が、満足な治療を受ける事が出来ず重症化してしまい無くなってしまうケースも良くある話だけど、辺境都市クイストの場合、何処にも所属していない治癒術師であるぼくが経営している診療所のおかげで、そのような事態にはなっていない。
まぁ……そのせいで、ぼく達がメイディに行ってる間、教会と揉め事が起きたりしたらしいけど、母さんや魔王ソフィアがいたおかげで何も起きずに事なきを得たらしいから、あの二人にはお礼を言っても言い足りない位だ。

「多分、教会の方に行ったんじゃないかな」
「……あれ?」

……すると今度は居住スペースに当たる二階の玄関からノックの音がする。
もしかしてこれは本当に急患が出たのかもしれない、そう思い急いで向かって扉を開けるとそこには……人族の姿をしたグロウフェレスが立っているのだった。
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