治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第十章 魔導国学園騒動

17話 自分なりのやり方

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 とりあえず全員分の自己紹介が終わったけど、生徒たちの反応が全員違い過ぎて何て言うか面白く感じる。
エスペランサを中心とする教師に対して反抗的な態度を取っているグループに、明らかな敵意を持っているだろう集団。
そしてスパルナのように何故かぼくに対して尊敬の眼差しを向ける子達。

「さて自己紹介が終わったから、一度職員室に戻ろうと思うんだけど……次の授業の先生って誰かな」
「先生は来ませんわよ?」
「……え?」
「この学園で私達に教えられるような方はいませんもの、中途半端な知識で授業をして突っ込まれたら黙ってしまう、そんな方の授業等受けたくありませんわ」
「あぁ……」

 エスペランサが自信ありげにそう言うけど、多分突っ込まれた側は反応してしまったらめんどくさい事になる事を理解しているから黙っていたのだろう。

「ですからレース先生が授業をして頂けません事?次の科目は魔術ですのよ?」
「おいおい、先生は白いローブを着てるから治癒術師だろ?魔術何て使える訳ねぇだろ」
「でもさっき魔術で雪を出して無かった?魔術師のローブってその人の属性を表すからもしかしたら……治癒術師じゃなくて魔術師なのかも?」
「……まじかよ、いやそれでも俺達よりも優秀な奴がいるわけねぇ」
「でもロドリゲスは、治癒術の授業を担当する教師だって言ってたじゃん」

 あれじゃないこれじゃないと、言い合いが始まったけどここは止めるべきだろうか。

「ダ、ダリアちゃん、レース先生は何が出来るの?」
「ん?あぁ……父さんの専門は治癒術だけど、魔術や肉体強化も同時に使う事が出来るぜ?」
「あぁ!?なんだよそれ、魔術と治癒術が同時に使える訳ねぇじゃん!」
「そうですわダリアさん、魔術は自身の魔力と自然に満ちている魔力を組み合わせて外に放出する力で、治癒術自身の魔力と生物の魔力を組み合わせるもので、相手に直接触れていないと使えない体を通じて循環させる物ですのよ?そんな同時に使うなんて、血が通っている血管に側面から穴を開けるような物ですわ」
「……それ位、やり方が分かれば誰でも出来るようになるよ」

 ……ぼくも心器を使えるようになるまでは同じ考え方だったから気持ちは分かるし、普通に生活する中で魔術や治癒術を同時に使う事なんてない。
そう思うと彼らの反応が自然であり、魔術や治癒術に対する認識としても一般的だろう。

「なら授業の前に証拠を見せてくださいませ、納得出来たらこのエスペランサ・アドリアーナ・ウィリアムが認めて差し上げますわ!それに学園の外でお話した際に【叡智】カルディア様のお弟子と言ってましたけど、その程度なので?」
「ん?カルディアなら、父ちゃんの親だぜ?つまり俺からしたらばあちゃんみたいなもんだな」
「ダ、ダリアちゃんって……凄い人の孫なんだね」
「あぁ……考えた事無かったけど、そうかもしれねぇな」

 とりあえずエスペランサが認めるという以上、ここで実際に出来るところを見せておけこのクラスの主導権を彼女から教師へと取り戻す事が出来るかもしれない。
そう考えながら、空間収納から短剣を取り出すと教卓の上に汚れないように布を敷いてから右腕の手首に動脈まで勢いをつけて突き刺して抜く。
鋭い痛みと共に血が勢いよく噴き出すと、生徒達から悲鳴のような声が聞こえ、先程認めると言っていたエスペランサも顔を青くして震え出してしまう。

「あ、あなた……なにを……」
「え?だって、実際に出来るところを見せないと納得できないみたいだし」

 自分で言ったのだから、そんな動揺しなくても良いのではないだろうか。
取り合えず左手から魔術で雪を生成して隣に壁を作りながら、同時に治癒術を使い傷を癒して行く。

「……う、うそですわ、本当に出来るなんて」
「ぼくも最初は魔術と治癒術を同時に、使える何て思わなかったから気持ちは良くわかるよ」
「……み、認めますわ、だから次からは自分の身体を傷つけるような事をしないでくださいまし」
「ダ、ダリアちゃんのお父様って、凄いんだね」
「まぁ……たまにこういうぶっ飛んだ事しだすけど、凄いっちゃ凄いと思うぜ?けど、スパルナおまえ大丈夫か?顔が真っ青だぞ?」

 もしかしてまたやり過ぎてしまったのかもしれない。
教卓の上で真っ赤に染まった短剣と布を片しながら生徒達を見ると、理解できない物を見るような顔をしていたり、恐怖に引き攣った表情をしている子達や、エスペランサやスパルナのように顔を真っ青にしていて、少しだけ申し訳ない気持ちになる。
けど……これ位、左腕が義肢になる前の戦闘で、腕が吹き飛んた時の痛みと比べたら全然大丈夫なんだけど、もしかしたらぼくの認識がおかしいんだと思う。

「……あぁ、なんだ?スパルナ、エスぺ、父さんと一緒にいるとこんなんばっかだからこれから先色々と飽きないと思うし、今までの教師よりかは学べる事が多いと思うぜ?」
「……そ、そうかもしれませんわね」
「う、うん」
「後、父さんさぁ……短剣を突き刺すとかよりも軽く体に傷つけて治すで十分だったろ、やり過ぎなんだよおまえは、この教室の雰囲気どうすんだ?」

……そう言いながらジトっとした目でこちらを見て来るダリアの視線を受けて、改めて周囲を見る。
確かに生徒達の反応を見ると彼女の言う通りそうした方が良かったのかもしれないと思ったぼくは『えっと……何て言うかごめん』と彼らに頭を下げるのだった。
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