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第十章 魔導国学園騒動

4話 左腕の義肢

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 二階の居住スペースに三人で上がり、サリッサ達がいるであろうリビングへと向かうとそこには、紅茶を淹れているサリッサと紫色の髪をした女性がいて……

「……だれ?」
「あ、レース様、おかえりなさいま……せ?」
「あら?例の栄花騎士団の協力要請って言うのは終わったの?ってあらあら……これは」
「えっと……」

 聞き覚えのある声のおかげで誰かは分かったけど、それよりも二人の視線がぼくの左腕に集中している。
サリッサは動揺しているのか、ティーポットを持つ手が震えていて……母さんの方は興味深い物を見るような視線を送って来たかと思うと、何やら魔力の波長のような物を感じるあたり、もしかしたら鑑定魔術のような物を使って魔導具の義肢がどうなっているのか見ているのかもしれない。

「レースちゃんあなた、左腕が面白い事になっているわね……、レイドの魔導具にマーシェンスで生まれた魔導義肢ねぇ」
「えっと……お義母様、これは」
「いえ、いいのよ?私はフィリアちゃんから、左腕の事をある程度聞いてるから……でもこれは面白いわね、こんなに完成度が高い魔導具は初めて見たわ」
「……これってそこまで凄いものなの?」
「えぇ、技術だけならレイドを完全に超えてるわ……確かマーシェンスの【賢王】ミオラーム・マーシェンスが作ったのよね」

 凄い技術だと思ってはいたけど、マスカレイドを超える程の技術だとは思わなかった。
ぼくの知ってる中では彼が魔導具技師の頂点だと思っていたから……、でもそれならあの戦いの時にぼくの義肢を欲しがった理由が分かる気がする。
自分では作れない程の高度な技術を持った幼い少女が作った魔導義肢、そう思ったら彼の用にプライドの高い技術者なら嫉妬するだろうし、分解して隅々まで研究したがるだろう。

「うん、正直生身の腕よりも自由に動くから凄い使いやすいよ」
「でしょうねぇ、脳波の信号を増幅する回路が組まれてるから、腕を動かそうと思ったらタイムラグ無しに理想通りの動きが出来るもの、それに表面を覆っている魔力の膜、これで触角の再現もしてるみたいだし、面白い事に熱も感じるようになってる……、あの子私が思っている以上に優秀だったみたいね」
「マスカレイドが昔作ってくれた偽装の魔導具の回路を義肢の中に組み込んでくれたり凄かったよ、特に素材にも拘ってるみたいで不壊の効果が付与されてて壊れないようになってるんだ」
「あなた本当に気に入ったのねぇ、目をキラキラとさせちゃって……子供みたいよ?」

 ぼくはそんなに嬉しそうな顔をしているのだろうか。
自覚が無いから分からない……でも、後ろにいるダート達の方を振り向くと笑みを浮かべている辺り、かなりテンションが高いのかもしれない。

「あ、あの……レース様、栄花騎士団からの協力要請には必ず行かなければ行けないのですか?」
「……え?」
「あなたはこの診療所のオーナーであり、治癒術師という責任のある立場です……これから先要請に従い危険な任務に行く度にそのような重傷を負って帰って来るかと思うと……気が気じゃありません、それに……」
「それに?」
「ダート様の様子を見ると、どう見てもお腹に子供がいらっしゃいますよね?ご息女であるダリア様の他にもこれから産まれる大事な命の事を考えたら、少なくともお産まれになられるまでは、協力要請を拒否して大人しくして欲しいですね」

 動揺が収まったのか、サリッサが人数分のカップを用意して紅茶を淹れながらそう言葉にする。
その顔は、一人の大人としてこれからの事に関して自覚して責任ある行動をしろと言ってるようで……

「……少なからず暫くは大丈夫だと思うから、色々と診療所の仕事とかしながらゆっくりするよ」
「あら?レースちゃんが診療所でやる事は今の所無いわよ?」
「え?」
「サリッサちゃんが凄い優秀でね?帳簿の管理から人員の割り振りまで色々としてくれてるおかげで、収益の方も常に黒字だし、それに最近教会の方で教祖が変わったおかげでフリーの治癒術師が増加傾向にあるおかげで仕事を探す人が増えてね?」

 フリーの治癒術師が増えた?教祖が代替わりして何か大きな変化が増えたのだろうか。
ぼくみたいに教会に対して嫌な感情を抱いているなら分かるけど、そうでないなら正直フリーでいるより組織に加入していた方が色々といいと思うのに……

「でね?サリッサちゃんと相談して、レースちゃんがいない間に試しに何人か日雇いで雇ってみたら、ちゃんと仕事出来る人が少しだけいてね?中には勿論プライドばかりで何も出来ない子もいたけど……仕事出来る子だけ残すようにしたら良い感じになったのよ」
「……へぇ、まぁ上手く経営出来てるなら別に好きにしてくれていいよ、ぼくの方もメイディで薬の仕入れに関して話をまとめて来たよ、一ヵ月に一回メイディから薬が安い金額でで卸されるようになったかな」
「それはほんとですか?けど……安いという事は何らかの条件があるのでは?」
「あっちではエルフや獣人が多かいから人族用の薬が少ないらしくてさ、普段使いする薬とは別にぼく達の身体に合わせて調整した新薬のテストも頼みたいんだって」
「あぁ……なるほど、それでしたらスイ副院長と相談して上手く回してみます」


……いつの間にスイが副院長になったのだろうか。
そう思い二人の方を見ると『ほら、スイちゃん診療所で凄い頑張って働いてくれてるじゃない?それに私がレースちゃんに教えた治癒術を一生懸命覚えてくれたし……、レースちゃんがいない間に正式に治癒術師としての資格を取れたから任せる事にしたのよ』と母さんが誇らしそうに笑顔で話すのだった。
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