治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第九章 戦いの中で……

72話 ルードのこれから

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 あの後握手を交わした二人は、あれこれと何か難しい話を始めたけど……これをぼくが聞いて良いのだろうかと心配になる。
勿論誰彼構わず言うとかそんな事をする気は無いけど……

「──と言う訳で、我が知っておるのはシャルネの味方の潜伏先位で、本人の拠点は知らなくてのぅ」
「いや、それだけでも充分だよ……ただ困った事になったな、相手は彼らか」
「彼らって、ライさんの知ってる人なの?」
「あぁ、俺とハスが栄花で冒険者をしていた時に何度か依頼を受けて争った事がある相手だね」
「いたなぁ……あの偉そうな態度がうぜぇやつだろ?」

 そう言って怪訝な顔をするライさんとは、対照的に懐かしい相手を思い出すような仕草をするハス。

「以前栄花に【盗賊王】と呼ばれた天族のシュラって奴がいたんだけどさ、そいつともう一人レイスって奴がいてよ、その二人がごろつき共を率いて盗賊団を作ってよぉ」
「……え?ぼく?」
「名前が似てるから、勘違いしてしまうかもしれないけどレース君じゃないから大丈夫だよ」
「まぁ、詳しくはアキラに聞いた方がいいかもしれねぇな……あいつも自分の身内の事を他人にあれこれ言われたくねぇだろうし」

 そういえば……家族がシャルネ・ヘイルーンの元にいるって、アキラさんがメイディに行く前に聞いた事がある気がするけどうろ覚えだ。
でも……良く考えるとアキラさんついて知らない事ばかりだから、確かに聞いた方が良いのかもしれない。
特に彼と妹のミコトはSランク冒険者【氷翼】と【教皇】という通り名がある……、という事は他の人達も同じ位に強い可能性がある。
つまり【天魔】シャルネ・ヘイルーンという存在と敵対するという事は、そういう相手とこれから戦う事になるわけで……マスカレイドの方にいる残りの戦力はミュカレーを入れて二人、そしてあちらには潜伏しているミコトを除けば6人もSランク冒険者に匹敵する実力者がいるという事実に眩暈がしそうだ。
特に超越者ともいえる存在達を相手している時に、グロウフェレスの幻術に掛かるようなことがあったら、抵抗する事無く殺されるだろうし……シャルネの【精神汚染】という最悪な能力を受けてしまった場合、ガイストのように正気を失ってしまう可能性がある以上、今は実力を伸ばす努力をした方がいいのかもしれない。

「まぁ、それに関してはハスの言う通り、時間を見つけてアキラさんに聞いてみるよ……けど、一つだけ話は変わるけど気になる事があって……」
「気になる事?どうしたんだいレースくん」
「ルードの事が気になってさ……」
「あぁ、彼の事か……それなら首都に戻る前に栄花騎士団の本部に身柄を預けて来たよ、さすがにマンティコアをいつまでも袋の中に入れておくわけには行かないからね」

 ……何時冒険者ギルドに行ったのかと気になる点があるけど、多分空間魔術が付与された短剣を使って移動したのかもしれない。
でもそうすると疑問があって、ライさんの使っていた短剣はぼくが今も預かっているから、空間魔術が使えない筈、ただ……同じ能力が付与された短剣を持っているのなら可能だと思う。

「送ったって事は、やっぱりルードはこれから……」
「マンティコアという種族の生態を調べる為に、様々な実験をすることになるとは思うけど……出来る限りは非人道的行為が行われないように気を付けるよ」
「話に割り込むようで悪いけどよぉ、その生態調査を担当するのはウァルドリィ・ワイズ・ウイリアム教授だろ?あいつは団長派だから何をするか分からねぇぞ?」
「……カエデ姫が団長になった時の為に、水面下で根回しを進めているから必要となったら、俺の意見に賛同してくれた団員達の力を借りるよ」

 確かに教授はメセリーにいた時は、学園で個人の実験室を持っていたけど……当時モンスターや実験動物を使った、表には出せない非人道的な実験を行っていたといるという噂を聞いた事がある。
けど……その情報の信憑性に欠ける為、誰かが悪意を持って流した話だという事で落ち着いたらしいが、もしそれが事実だった場合……スカウトされた際に自身の立場を捨てて栄花騎士団へと籍を移したのにも納得が行く。
何故ならメセリー出身の魔術師や治癒術師はそれぞれが、独自の術を作り出す事に生涯を賭ける程に研究者気質な人間が多い。
それに関してはぼくも……ダートに会うまでは同じだったから人の事を言えないが、教授も同じ筈。

「教授がメセリーにいる時に、動物実験をしているという話を聞いた事があるんだけど……」
「……その噂は事実だぜ?あいつは自分の作った魔導具や新術の実験の為に、色々とやってるからな」
「そんな相手にルードを預けて良かったの?」
「……レースくんの疑問は最もだけど、栄花騎士団にて生物研究の第一人者でありチームを率いる責任者でもあるからね、怪しくても彼に頼らざる負えないんだよ」

……こういう時組織というのはめんどくさいと思うけど、ライさん達の事情もあると思うから強く言う事は出来ない。
さすがにこれ以上は話をしても意味が無いだろう、そう思って彼にお礼を言うと『取り合えず話はもう大丈夫かな……、悪いんだけど栄花に提出する為に書類を作らなければ行けないから用が済んだならもういいかな?』とライさんに優しく出て行くように促されるのであった。
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