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第九章 戦いの中で……

70話 大事な取引

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 そのまま部屋に戻る事にしたけど前、その前に確認したい事がある。
だから……

「……ダリア、ガイスト、悪いんだけど先に部屋に戻って貰っていいかな」
「ん?どうしたんだよ」
「栄花騎士団の人達と話したい事があるからさ」
「……なら我も行かせて貰おうかのぅ」

 どうしてガイストが着いて来ようとしているのか理解が出来ないのだけれど、きっと彼女なりの事情があるのかもしれない。

「なら俺だけでも先に部屋に戻って母さん達の様子見て来るかな……」
「悪いのぅ、姪っ子よ」

 ぼくの返事を待たずにダリアが走って行ってしまう。
そして……

「レースよ、やっと二人に慣れたな」
「……特に話すような事は無いと思うけど?」
「そう突き放すような事を言うでない、弟よ」

 白い髪を指で遊びながら寂しそうにはにかむ彼女を見ると、本当にこの人がストラフィリアの前王ヴォルフガング・ストラフィリアを殺した人だと思えなくなりそうになる。
けど……話すような事は無いとは言ったけど、ガイストが戦闘に乱入して来た時にダートとの契約がどうのとか言ってた気がする。

「そういえば一つだけ聞きたい事があるんだけどさ」
「おや?我とは話すような事が無いのではなかったのか?」
「……めんどくさいな」

 ……姉という存在というのはここまで面倒なのだろうか。
ガイストの事を良く知らないから、反応に困るのもあるけど……一々揚げ足を取って来るのは正直言って不快だ。

「……そんな不機嫌な顔をするでない、で?何が聞きたいのだ?」
「ダートと契約したって言ってたけど……どういう事?」
「あぁ……それはのぅ、レースはマリステラの事を知ってると思うが、奴と契約したのじゃよ」

 ダートがマリステラと契約をした?、あの人の形をした相容れる事の出来ない化け物と……いったい彼女は何をしているのだろうか。

「契約って、あの化け物とどんな内容で?」
「そりゃあ、我を家に居候させるって事だのぅ、その契約を呑む事でレースを助ける事にしたんじゃよ」
「ぼくの家に居候って……、そんなに広くないんだけど」
「それなら増築したらよかろう?それか新たに家を買うとか……または他に家を借りて住まわせてくれても良いのだがのぅ?」
「ちょっと言っている意味が分からない」

 ぼく達の家に、サリッサやルミィが家にいるのにこれ以上人が増えるのは正直難しい気がする。
特にこれから先子供が産まれた時の事も考えたら、尚の事無理だろう。
とはいえ……ダートが契約してしまった以上は邪険にすることは出来ないし……

「……そもそもどうして、ガイストと一緒に住まなければ行けないの?マリステラとの間で結んだ契約でしょ?」
「む?まぁそうなのだがな、我も奴に……天魔の【精神汚染】という支配から解放して貰った際に、【悪星の器】として契約させられてしもうてなぁ」
「悪星の器……?」
「うむ、レースよ……おぬしも王族の血を継いでおるから分かると思うが、我らは皆神をその身に封じる為の器としての役割がある、つまり……今の我の中にはマリステラの分霊がおるのじゃよ、しかもこやつが悪質でな?我の自由を約束してくれてはおるが、我が見た物、感じた物全て本体に送るという役割を持っていてな」
「……つまり監視されてるって事?」

 最悪だ、つまりマリステラはぼくがまた彼女の事を誰かに話さないよう……監視する為にダートを利用してガイストを側に置く契約をしたという事になる。
しかも、器として彼女の中にいるという事は……もしぼくが断った場合、【神器開放】を使い宿主を殺し自由になった分霊が、ぼくかダートのお腹の中にいる子供の中に入るだろう。
そうなった時の事を考えると恐ろしさしかない、特にメイメイの例があるからこそ、尚の事恐ろしいとしかいない。
彼女がエルフの身体に転生して、あそこまで善良な存在になったのは封じられている間に起きた心変わりとかもあったし、人として生きてみたいという気持ちがあった。
けどマリステラはどうだ?、あの自身の悪意に従順な化け物の場合、ただ見たかったから……楽しそうだったからという理由で、子供の身体を奪い現世で制約無く動ける身体を得たら何をするか分からないし、それ以前にぼくとダートの子供が産まれる前に体を奪われて死ぬという最悪な結果になる。

「……最悪だ」
「なぁにそんな辛そうな顔をせんでも良い、我が悪い事はさせんよ……何せ弟を守るのは姉の仕事じゃからのぅ」
「え?」
「知ってると思うが、我には半分ドラゴンの血が流れておる……つまり寿命に関してもエルフのように永遠に近い程に長いからのぅ、そう簡単に死ぬ気は無いし家族に迷惑を掛ける気は無い」

……そうガイストは笑顔を作りながら言葉にすると『それにじゃ……やっと正気に戻れたのじゃから、弟や妹達が生きている間はおぬしたちの為に時間を使いたいんじゃよ……、正気を失った結果、復讐心に囚われ父をヴォルフガングを殺したせめてもの罪滅ぼしじゃな』、と静かに呟き。
反応に困っているぼくを尻目に『さて、栄花騎士団の元へ行くのじゃろ?ついでに我がおぬし達の味方になった事を説明して、指名手配を解く手伝いをしておくれ……かわいい弟よ』と豪快に笑うのであった。
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