治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第九章 戦いの中で……

64話 魔導の怪物

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 武器を向けたまでは良いけど、この後どうすれば良いだろうか。
相手は魔導具と魔術のスペシャリストであり、ぼく達のような存在では到底太刀打ちすら出来ない程に、全てにおいて高みへと至った超越的な存在だ。
以前も同じ事を考えたような気がするけど……マスカレイドのファミリーネームである【ハルサー】、これから判断すると【死絶傭兵団】を率いるSランク冒険者【死絶】カーティス・ハルサーの血縁である事が伺える。
そこから判断した場合、彼も毒の魔術を使う可能性がある……、特に初めて対峙した時の事を思い出しても、投げて来た何かが地面で弾けたかと思うと地面が溶けていた気がするから、そこから見ても間違いないと思う。

「……小僧、このまま大人しくしていれば生かしたまま拠点に連れて行くぞ?」
「いや、遠慮するよ……、だってさぼくを捕まえた後何をする気なの?」
「とりあえず異世界人であるダートも確保する、その後ガイストに聞いたがお前等には子供がいるのだろう?確かダリアと言ったか、そいつは貴重な素材として大事に利用させてもらうぞ?この世界の人間と異世界人との間に産まれた個体だ、もしかしたら通常の人種にはない器官があるかもしれないからな」
「……狂ってる」
「狂っていて結構、新たな世を作り出す為には犠牲は付き物だからな……特にダートが一番興味深い、この国にいるエルフに獣人、精霊という魔力生命体、そしてマーシェンスのヴァンパイアに小人族、ストラフィリアのドワーフ、トレーディアスにいる獣人族と同じ魔族から派生した魚人族、栄花の天族、メセリーに人口が集中している人族、そして人型のモンスターや人へと姿を変える事が出来るドラゴンと、交配実験と色々と興味が尽きない、特に俺が作成した魔導具を使えば拒絶反応を起こす事無くできる筈だ、……そういう意味ではマンティコアの死体から遺伝子情報を取り出すのも良いな」

 ここまで言われて冷静にいられる人がいるだろうか。
自分の大切な人が捕まったら、非人道的な扱いをされてマスカレイドの興味が尽きるまで使われる。
そう思うだけで怒りが沸き上がって来るし、今すぐにでも飛び掛かって殺してしまいたいという耐えがたい衝動に襲われてしまう。
それに反応するかのように狼達が鳴り声をあげて、マスカレイドの周囲をゆっくりと回り始めた。

「特に歳を取り交配が不可能な年齢となった後は、身体をモンスターと繋ぎ合わせるのも良いかもしれないな、どうだレース、お前も俺から魔術や魔導具の理論を教わった以上、これがどれほど素晴らしい物か分かるだろう?」
「分からないよ、お前の言ってることは何一つとして分からないし、理解が出来ない」
「……愚かな者め、どうして理解出来ない?科学の発展には犠牲が付き物だ、それにマーシェンスを貴様は見たことがあるか?俺の発明により蒸気の力で動いたり飛んでいた機械は、魔力を燃料に動き飛ぶようになり、医療技術も飛躍的な発展を遂げた、魔科学を利用した医療器具により治癒術を使わずに治療を可能とし四肢の欠損でさえ補えるようになったのだ」

 やたら早口で何を言ってるのか分からないけど、取り合えず何故か自分のやってきた事を自慢してるんだろうなという事は何となく理解できる。

「そして今の俺が考えている新たな技術はこれだ、人間の身体を他の生物と繋ぎ合わせる事で独自の進化を遂げる、その為には異世界の生命体が必要だ……なぁに最終的には元居た世界に以前話した通り帰してやる、その時はレースお前も生きていたら一緒に行ってやればいい、大事な女なのだろう?それなら最後まで側で支えてやった方がいいだろう」
「そこまでにしてくれないかな……、ぼくはそんな話を聞くためにここにいるわけじゃない」
「じゃあ何のためにいる?小僧と俺の間では圧倒的に実力が離れているくせに、まさか倒す気でいるのか?」
「そうだと言ったら?」
「面白いな……やってみろ、弱者が以下にして圧倒的な実力者がある相手に勝つのか興味がある」

 マスカレイドが心器を地面に落とすと、何処からか液体が入った三つのガラス瓶を取り出す。
そして胸の部分が白い煙をあげながら開くと、中にあるカートリッジに差し込み始めた。

「これが俺の開発した、新たな人の在り方だ……魔導兵器と人の一体化、更にこれを見ろ」

 背中の一部が衣服を突き破り、様々な色をした配線のような物が現れたかと思うと地面に転がっている心器へと伸びて行く。
そして何かが接続されたかのような音がしたかと思うと、徐々に持ち上がっていき背中へと運ばれ一体化する。

「そして心器を取り込み一体化する事で、人体の表面硬度が上昇し……後は分かるな?今の俺を倒せる奴は実質的に存在しないという事だ!」

……マスカレイドがそう言葉にすると同時に、ぼくの方へと飛び掛かっていく。
それに合わせて大剣を叩きつけようとしたが『レース!伏せるのじゃ!』という声が聞こえて咄嗟に姿勢を低くすると、勢いをつけて跳んで来たメイメイが全身から魔力の光を放出させながら迎撃するのだった。
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