上 下
420 / 535
第九章 戦いの中で……

41話 冒険者ギルドへ

しおりを挟む
 あの会話の後、カエデをメイメイの部屋に送り届けると……特にやる事が無いから、少しだけ個人的に動く事にした。
ライさん達の話を聞いて思ったのだけれど、ハスとぼく……そして心器の能力で生み出せる三匹の雪で出来た狼だけでは力不足な気がする。
そう思いながらイヤーカフスを耳に着けて部屋を出ると、騎士達の姿や気配が無い静かな通路を歩き首都への出口へと向かう。

『レース君、何処に行くんだい?』
「ちょっと冒険者ギルドに行こうかなって」
『……今から行くと到着する事には陽が完全に落ちて夜になるから止めた方がいい』
「大丈夫だよ、行きは時間掛かっても帰りはライさんの使ってた、あの短剣で空間魔術を使って帰るから……ただその為の距離を把握する為にまずは歩かないといけないからね」
『そもそも何故この時間から冒険者ギルドに行こうと思ったんだい?』

 その問いには敢えて答えない。
現状のぼくを例えるなら声が響く通路で大きい独り言を言っている不審者だ。
周りに誰もいないから、ショウソク以外には聞かれていないと思うけど……余り彼の活動範囲内で聞かれるのは避けたい。
栄花騎士団の中で上から数えた方が強いハスと、彼に匹敵する程の戦闘力を持つ彼女がいれば何か不測の事態が起きた時に安心だし。
それにあわよくば現地の冒険者達にルードが使役するアンデッド達の相手を頼む事が出来れば、メイメイに何かあった時にダートが彼女を守らなければいけないという事態になるリスクも減るだろう。

『……だんまりか、何を考えてるかは分からないけど何らかの策があるのかもしれないから黙って見守る事にするよ』
「……ありがとう、それにしても騎士の人達は何処に行ったのかな」
『これに関して言いづらい事があるんだけど、彼らは普通にさっきから扉の前に立ったりしてるみたいだね……、薬王ショウソクの魔力特性【消息】の効果で姿や音を消しているみたいだけど、魔導具越しに見える視界を通してだと僅かに人の形に揺らめく魔力の波長があるね』
「それって……ぼくの独り言を全部聞かれてたんじゃ?」
『いや、それは無いだろう……、どうやらレース君達にも効果が付与されているみたいだからね、これは俺の予想だけれどAグループとBグループに分けて効果が発動していて同じグループ内でのみ認識が可能という事かもしれない』

 もしそうだとしたら恐ろしい特性だ。
例えば国内で犯罪者が出た場合、その人を認識できないようにしてしまえば誰にも気づかれる事無く処刑する事が出来る。
何となくだけどこの国に犯罪組織が多いのに一定の秩序が保たれてる理由が分かった気がする、メイメイの機嫌を損ねた場合文字通りに存在を消されてしまう。
それって凄い恐ろしいけど……あちら側からしたら彼女の機嫌を損ねる事さえしなければこの国に滞在する事が出来るのだから、改めて歪な国だなと感じた。

「……何て言うか、まぁ住みづらそうな国だなぁ」
『レース君がどうしてそう思ったのかは分からないけど、他国の人から見てそう感じる位だから、この国の国民からしたら更に不満や不安はあったろうね』

 とりあえずショウソクしか聞いてないと思われる独り言を続けながら、首都の出口へと行くとそのまま外に出る。
そして冒険者ギルドへと向かって歩き始めるけど……あの森にいた時のようにいつアンデッドが出て来てもいいように警戒をしてみるが

「この速度じゃ何時になったら冒険者ギルドに着くか分からないね」

 このまま何があってもいいようにと一歩一歩、慎重に足を進み続けていたら日が暮れて……更に朝日が見えてもたどり着けないだろう。
けど単体行動をしている以上はもしもの事を考えて行動した方がいい。

『……雪の狼を生成して乗った方が良いんじゃないかな』
「……あっ」
『忘れていたみたいだね』
「うん」
 
 ライさんに言われるまで狼の背に乗って移動するという発想を忘れていた。
少し前に三体目の狼を呼び出した時に、こういう使い方が出来そうとか考えてたんだけどな……。
取り合えずそんな事を考えていてもしょうがないから、魔術で目の前に雪を作り出すと心器の大剣を顕現させて【氷雪狼】を発動し、身体が雪で作られた狼を生成する。

「移動用だから心器を核にしないでいいか……」

 そう思って勢いよく乗ろうとすると、目の前で狼が砕けてただの雪になってしまう。
……怪力を常時発動させているのがもはや自然体になりつつあるせいで、力加減を間違えた気がする。
そっか、心器を核にしていない個体ってこんなに脆いんだ。
そう思って今度は心器を核にして、再度生成し直すと再び背に跨り冒険者ギルドの方向に向けて進むように指示を出す。

「……最初からこうした方が良かったかも」

……ケイスニルの背に乗って移動した時程では無いけど、結構な速さで景色が流れていく。
取り合えず空間魔術を使って部屋に戻れるように、座標を頭に入れておくのを忘れないようにしている内にあっという間にギルドへと到着するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...