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第九章 戦いの中で……

32話 人から亜神へ

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 こういう時、カエデにライさんが生きている事を伝える事が出来たらいいのに、悲しそうな顔をしている彼女に対して何にも出来ない事がただただ心苦しい。

『レース君、分かっていると思うけど俺が生きている事はカエデ姫にも秘密にして欲しい、彼女は聡いから事実を知ったら理解をしてくれるだろうけどこの事実に関しては知っている人は少ない方がいいからね』

 それ位言われなくても分かっている……でも、頭では理解している事と感情は別物で……そういう想いが今は顔に出てしまっているのだろう、カエデはぼくの顔を見てそっと手に触れると……

「レースさん……、ライさんもそんなに思って貰えて本望だと思います」
「え、あ……うん」
「ですが、今は感情的になり仇を撃つ事に思考を回すよりも、今出来る事を確実にやっていきましょう」
「……わかった、なら気になってる事があるんだけどさ、カエデが本を読んでる時に独り言で樹液と魔力を体内にとかって言ってたけどあれって何が書いてあるの?」
「あの本ですが?あれはショウソク様が独自に研究の成果を詳細にまとめた物ですね……、自身の体内に薬神メランティーナの樹液や魔力を取り込んでどのように自身の身体を作り替えたのか、そして今はどのような状態なのか……健康状態も含めて分かりやすく書いてあります」

 身体を作り替える?、メランティーナの樹液や魔力を体に入れる事でそのような事が可能なのだろうか。
いや……母さんと一緒に暮らしている時に読んだ、治癒術を用いた施術をまとめた本の中には、心臓を損傷した患者から臓器を取り出し……予め冷凍保存していた他の人の心臓を移植した事例があった。
確か施術には成功したけど、徐々に性格が変わって行ったり本人とは違う人物の記憶が頭の中に浮かぶとかで、徐々に患者が正気を失いやがて自ら命を絶ってしまったという内容だった筈だ。
……けどこれはぼくの妄想でしかないけどショウソクの中には、封じられていたメイメイの力の一部が残っているから、上手く適合する可能性がある。

「健康状態についてはどのように書いてあるの?」
「最初は激しい痛みに襲われたそうですが、徐々に収まったそうです」
「なるほど、ならその後の変化は?」
「身体が徐々に樹に変わって行き、暫く身動きする事が出来なくなったそうですが……数年かけて身体を元に戻す方法を見つけて活動出来るようになったみたいですね」
「……ちょっと言ってる意味が分からないかな」

 身体が樹に変わったという事の意味が分からない。
樹液と魔力を取り入れるだけで、本当にそんな変化が起きるのだろうか。
けどちゃんと経過観察もしっかりとまとめているのだから間違いないのだろうし、色々と治癒術の範囲で考えるとありえない事が多くて理解が出来ない事ばかりだ。

「一応動けない間は、魔術で作り出した樹の人形を使って政務を行っていたそうですけど……、繰り返している内に人の姿が保てない時間が増えて来たらしく……普段は自身の特性【消息】の力で姿を消して過ごしつつ、必要になったら魔術で作った人形を表に出してるみたいですね」
「……それって既にエルフ族じゃなくなってない?」
「はい、既にショウソク様は人ではなく……その身を神へと変えてしまったのかもしれません、例えるなら亜神と言えるでしょうね」
「……亜神?」
「半神半人って事ですね、それにしてもこれは困った事になってしまいましたね」

 ショウソクがその身を神に変えたという事は、この世界に厄災が蘇ったという事になるけど……実際は既に薬神メランティーナは、メイメイという少女の姿に生まれ変わり、一人の人間として生活をしている。
だから正直言って、困った事とカエデが言っても今更だと思う。

「世界の禁忌を五大国の王が犯して実質的に神を蘇らせてしまった……、この事実は私では正直言って手に余りますし、本来なら直ぐにでも栄花に帰り団長に連絡後討伐隊を組んで多大な犠牲を出しながらでも滅ぼさなければなりません」
「でもショウソクが居ないと戦いになったら厳しいと思うよ?」
「分かっています、だからこの事に関して……栄花騎士団の副団長としてはありえない判断をしてしまうのですが、見なかった事にします……それに、私個人の気持ちとしてメイメイ、いえ友達のお父様を殺害するなんて考えたくありません」
「それって栄花騎士団の人達に聞かれたらまずい事になるんじゃ?」
「……間違いなく、私は次期団長の座に相応しくないと判断されてしまうと思いますけど、だからレースさん、これは私とあなた二人の大事な秘密ですよ?」

……大事な秘密なのは良いけどこの会話は全てライさんに聞かれている。
だから……栄花騎士団で最高幹部達のまとめ役をしている彼がどう判断するのだろうか。
もし栄花騎士団の団長の座に相応しくないと判断されたら、もしかしたらカエデが拘束されてしまうかもしれない。
その時に果たしてぼくは彼女を守る事が出来るのだろうかと不安な気持ちになるのだった。
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