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第九章 戦いの中で……

21話 不穏な森

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 森の中に入り暫く歩いているけれどモンスターに一度も遭遇する事が無く……。

「森が静かなの……、気配を探っても何処にも気配が無いの」
「気配が無い?」
「……確かに俺も気配を感じない、これは何かがあったのかもしれないね」
「つまんねぇなぁ、モンスターが居ねぇと訓練の意味がねぇよ」

 何時もなら狼とか、樹に人の手足が生えたモンスターに会うのだけれど今回は影も形もない。
もしかして狩り過ぎてしまって周辺にいなくなってしまったとか……そういう事だろうか。

「もしかして狩り過ぎていなくなっちゃったのかな」
「……違うと思うの、狩り過ぎたとしてもモンスターは自分の縄張りから基本的に動かないの」
「そうなんだ……じやあどうしたんだろ」
「遠くから何かが動く音がするから多分潜んでるの……、こういう時は何か異変が起きていたりするから早めに切り上げて帰った方がいいの」
「……斥候がそういうなら言う事を聞いた方がいいな、今日は訓練をやめてさっさと帰ろう……ぜ?」

 ハスが踵を返して元来た道を帰ろうとすると……周囲からガサガサと音がする。
まるで背の低い獣が近づいてくるような。
もしかして狼のモンスターが出て来たのだろうか、そう思って身構えると……

「これは……?」
「武装した獣人族なの……、でも何か変なの」
「見ろよあれ、片腕の肉が無くて骨だけになってやがる」

 白く濁った眼をした獣人の男性が器用に残った足と腕で獣のように歩きながら近づいてくる。
その姿はまるでアンデッドのようで……それに見る限り血色がいいからさっきまで生きているのかもしれない。

「……あれはアンデッドなの、誰かが獣人族を殺してアンデッドにしたの」
「見る限り武装しているが抵抗したような跡が無い、これは……何者かによって一瞬の内に殺された可能性があるね」
「武装って事は……もしかしてケイスニル達が集めていた反乱軍の事?」
「かもしれねぇな……、けどまぁ何でそんな奴がアンデッドになってんだ?」

 よろよろとこっちに近づいてくるアンデッドに向けて、炎の弾丸を撃つと……全身が一瞬にして炎に包まれその場に倒れる。
そして動かなくなるのを確認するように足元に落ちてる石や枝を何度か投げるけど、どういう理屈なのか燃えながらゆっくりと立ち上がろうとしては転んでを繰り返していて、何かに操られている気がして不気味でしかない。

「ぼくに聞かれても分からないよ、でもたった一体のアンデッドだけで周辺のモンスターが隠れたりするのかな」
「そんな事は無いだろうね……、少なからず元凶が近くにいるかアンデッドが沢山潜んでいる可能性がある」
「それに関しては私も同意するの、さっきは遠かったせいで気づけなかったけど周囲に血の匂いが漂ってるの明らかにこの一体だけじゃなくて……沢山いるの」

 ランが血の匂いがする場所を指差すけど何も感じない。
多分彼女の種族特有の鼻の良さのおかげで気づけたのかもしれない……そんな事を思いながら見つめていると、徐々に遠くから不規則に揺れながら歩いてくる人型の群れが歩いてくるのが見える。

「……あの数はちょっとばかしめんどくせぇな、モンスターと違って痛みを感じねぇから怯まねぇし、武装してるのを見ると明らかに不利だぞ?」
「その方が良いだろうね、とはいえ頭の一部が欠けているものもいれば上半身しかない個体もいる、これは少し調べてみる必要がありそうだ」
「それは……ライに任せるの、学の無い私よりも適材なの」
「ぼくも治癒術が使えるから、アンデッドを通じて魔力の波長を合わせれば術者が何処にいるのか分かるかも」
「いや……それは止めた方がいい、相手が君よりも格上だった場合俺達が何処にいるのかを相手に教えるようなものだよ……、だからここは空間魔術が使える俺が残って調べられるだけ調べてから首都に空間跳躍で戻るよ」

 ……術者の場所が分かれば皆で倒せると思ったけど、ライさんの言うようにもし相手が格上だった場合一瞬にして不利になる可能性がある。
ぼくの考えでは術者はルードだろうけど、このタイミングで遭遇するのは良くないだろう。

「ライ……ヤバかったら逃げろよ?」
「勿論そうするよ、俺はまだここで死ぬわけにはいかないからね……ランに指示を出すから今から言うとおりに動いて欲しい」
「言わなくても分かってるの、二人を連れて首都に戻ったらカエデちゃんに合流し報告、その後【薬王】ショウソク及び【薬姫】メイメイのどちらかに謁見して厳戒態勢を敷いてもらうの」
「察してくれて助かるよ、レース君そう言う事だから斥候のランの誘導に従いつつハスと共に首都に戻って欲しい」
「……ライさん、気を付けてね?」

……その言葉を聞いたライさんは『大丈夫だよ、こう見えて俺は生存に特化しているからね、危ないと思ったら直ぐに逃げるさ……だから後は頼んだよ』と笑うと炎が消えて全身が炭のようになり、動かなくなったアンデッドを調べ始める。
とりあえず彼の言うようにここは任せた方がいいだろうと思ったぼく達は、ライさんを置いて首都へと走って戻るのだった。
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