治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

文字の大きさ
上 下
393 / 576
第九章 戦いの中で……

間章 悪意の取引  マリステラ視点

しおりを挟む
 あーしからの提案と聞いた瞬間にケイスニルが不快な顔をして私を見た。
ルードの方は興味深げに何を言うのかなって言いたげな興味津々な顔をする。

「……提案だぁ?」
「そうていあーん、あなた達二人でちょっとマスカレイドを殺して来てくれない?」
「俺の飼い主の協力者を殺せたぁ、随分な事を言うじゃねぇか……、それ位おめぇがやればすぐに終わんだろ?」
「それはそうだけどぉ、あーしはこの国から出られないしーほら?この国の首都って神の身体を使ってるじゃん?だから何かあった時の為に動けないんだよね」
「……動けないんじゃなくてやらないだけだろうが」

 やらないのは否定しないけど、この世界の事を考えたら一つの場所から動きたくない。
それにあーしがこの国から動かないのは色んな意味で不安定っていうのもあって、過去にマスカレイドのクソガキが過去の時代に飛ばされたり、その前から定期的に異世界から転移して来た人や転生して来た人達がこの国に飛ばされてくる。
これも……メイディの初代薬王ハイネが元の世界に帰ろうと色んな実験をしたせいだ。
この神々が作った箱庭の世界が安定したとしても、いつまた繋がりが不安定になってしまうのか分からないから監視の為にここから出るわけにはいかないんよね。

「こっちの事情も知らないでそんな事言わないでくれない?あーしはお母さんの変わりにこの世界を監視して守ってるんだけど?」
「……あぁ、そりゃ悪かったな」

 正直転移してきた人達の殆どが……自分の事を【勇者】だとか言う訳の分からない者と勘違いしたりして好き勝手したり、なぜか自分が何をしなくても異性に好意を持たれると思い込んでいるみたいで、複数の女性と関係を持とうとしてくるからたちが悪い。
だから見つけ次第危険な場所に誘導して、危険なモンスター達を利用して死んで貰ってるけど……どうして自分を特別な存在だと思えるのか、あーしには1ミリも理解が出来ないんだよね。
だって外来生物がいきなり生態系を崩して繁殖をしようとしてるんだから間引くのは当然じゃない?、そういうのは人として見るよりも害虫として見た方が良いし、あーしとしてはその方が楽しいから良心が痛まない。

「今まであーしと相性が悪い相手はアナイス・アナイアレイト……、【滅尽】焔の炎姫ちゃんが処理してくれてたのにクソガキに奪われちゃったから仕事が溜まってるんだよね」
「……仕事だ?それなら俺が変わりにやってやってもいいんだぜ?」
「あんたに任せたら碌な事にならなさそうだからやだ、あーしはアナイスちゃんがいいの、長い年月をかけて築いた信用があるのよ」
「だから取り戻す為にマスカレイドの野郎を殺せって事か……、それで?仮にやれたらどうやって助けてくれんだ?」
「あーしのいる場所に連れて行ってあげる、この世界の裏側だからお母さんも容易には入って来れないよ?」

 転生者は赤ちゃんの頃から前世の記憶を持ってる子はこの世界の倫理観や常識を親から学ぶから大きくなっても変な事はしないけど、大きくなって来てから記憶を取り戻すと前の世界の知識を生かしてチートをするとか訳の分からない事を言い出す。
しかもその殆どが既に誰かが考え付いたもので……、卵を使ったマヨネーズとか昔からあるし機械を使った技術を広めようとしても、南東の大国【マーシェンス】に既にあるから、暫くして落ち着いてこの世界で新たな生を全うするのがほとんだ。
それに……現在のマーシェンスの王【賢王】ミオラーム・マーシェンスはこの世界に転生した存在だけど、今はまだ記憶が戻ってなくても彼女が何れ思い出した際にどうなるか分からないから、可能であれば早いうちに始末しておきたい。
あぁ……こういう時に唯一自身の力で世界の裏側に到達して、あーしを見つけたアナイスが居れば彼女に頼んで危険因子の排除が出来たのに……

「世界の裏側って?それにお姉さんのいる場所って……、お姉さんはここにいないの?」
「そうだよ?この体は周囲の魔力を操って作ってる人形みたいなものかなルード君、あーしは忙しいからね、こういう端末が大事なの……で?ケイスニルやってくれるの?」
「世界の裏側っておめぇあれだろ?以前この世界を作った神達がいた場所の事だろ?……まぁそこなら確かに安全かもな、しょうがねぇならやってやるよ、ただし行くのは俺だけだ、ルード……俺の息子まで消えたら飼い主達に怪しまれるからな」
「そう?ならお願いね、それなら飛ばすから早めに終わらせてよね」
「あぁ?飛ばすだぁ?それならちょっと待て」

 ケイスニルがルードの方を見ると頭を撫でながら優しく笑う。

「ルード、俺はこれから大事な仕事があるからこの女と一緒に行く、本当は俺の背に乗せて周囲の反乱軍と合流する予定だったけどよ……わりいが徒歩で行ってくれ」
「……徒歩で?それならこのドラゴンを友達にして飛んで行くから大丈夫だよ」
「そうか?それならいいが……、ならおめぇの親父として指示を出すからおめぇはその通りに動け、レースやダートを生きたまま捕らえるとかはもうしないでいい……おめぇが強い、喰いたいと思った奴ら全員殺しておめぇの力にしろ」
「……話は終わったの?」
「あぁ、んじゃ移動の方頼むわ」

……マンティコアは、倒した相手を食べれば食べる程強くなる。
首都で起きる戦いでルードによる無差別大量虐殺が起きて、数えきれない程の強者を食べて強化され続けたら一体どんな化け物が生まれててしまうのか、考えれば考える程楽しくて面白いなぁって思うし見てみたい。
そんな事を思いながらケイスニルに触れると、マスカレイドの目の前に転移させる。
ふふ、あーしに約束を守る気何て最初から無いのにかわいそうな事……戦ったら確実にケイスニルが負けるし、でも万が一マスカレイドを倒す事が出来たとしても相打ちだろう。
精々必死に生に執着して最後の輝きを見せてよねと、ルードの前から姿を消すとケイスニルとマスカレイドの戦いを見る為に意識を集中するのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす
ファンタジー
 病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。  時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。  べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。  月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ? カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。 書き溜めは100話越えてます…

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...