治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第九章 戦いの中で……

14話 空間魔術の練習

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 とはいえこれから先の事を話していてももし何らかの事があってぼくが死んでしまう可能性がある。
そうなったら取り残されたダートはどうなるのか……そんな事を考えていると

「あ、そうだ……、無事ににレースが戻って来れるように空間魔術を教えてあげる」

 と言葉にすると空間を切り裂いてそこに手を入れると一冊の本を取り出す。

「……これは?」
「レースは今まで感覚が空間魔術を使ってきたでしょ?……本当は私の家系の人以外には見せちゃいけない秘伝の本なんだけどレースはもう家族だから特別に見せてあげる」

 そう言ってテーブルの上に本を置いて広げると……、中には今まで見たことの無い文字で書かれていて内容が何も頭に入ってこない。

「読めないけど……?」
「私が居た世界の言葉で書かれてるからね……、だからこの世界では私とお義母様……後マスカレイドしか読めないんじゃないかな」
「そうなんだ、でも読めないんじゃ空間魔術を教えられても分からないんじゃ?」
「そこは私が読んで教えるから大丈夫だよ?」

 そう言いながら彼女はページを送っていくと気になる押し絵が目に入る。
何ていうかおぞましい呪いのように感じるそれは呪術か何かだろうか……。

「ダート、この絵は何が描いてあるの?」
「ん?ここは呪術について書いてあるよ?例えばこの絵は動物の血を触媒にして離れた相手に呪いを掛ける魔法……この世界で言う所の魔術を掛ける方法についてあるかけど、斧世界には該当する動物がいないから使えない呪術かな」
「あぁ……、世界が変わると生き物も違うんだね」
「うん、正直私がレースと同じ見た目をしている事が奇跡だと思うよ?もしかしたらこの世界の人の形をしていない事もあったろうし、子供が出来たって事は遺伝子的にも相性が良かったのかも」

 そう言ってまたお腹を撫でながら嬉しそうに笑うけど、確かにもしかしたら全然違う見た目をしていた可能性がある。
仮にそうだったとしてらぼくは彼女に惹かれただろうか、相手の見た目で対応を変えたりするつもりは無いから、人の形をしていたのなら今と同じ状況になるだろうけど、もし人とは違う形をしていたのなら人として見る事が出来ないのかもしれない。
そうすると確かに人族と同じ見た目をしているのは奇跡的な確率なんだと思う。

「もしダートが四足歩行の動物のような姿だったら、多分一人の女性として見れなかったかも」
「でしょ?とりあえずこの話はこれくらいにして……、ここのページに書いてる内容を教えるんだけど、私の世界では空間魔術を座標と言われる物で認識してて──」

 空間魔術に関しての説明を聞いてぼくにわかる範囲は……、術者の視点をAとしてそこを中央の座標に設定し、そこから距離を詠唱に設定することで空間を跳躍したり、指定した空間を薄く圧縮する事で不可視の刃を作り出すとか出来るなど色々と難しい事ばかりであんまり頭に入ってこない。

「……私の説明の仕方あんまりよくないかな」
「いや、内容が専門的であんまり頭に入ってこないだけかな」
「んー、ならどう説明すればいいのかな……、あそうだ、空間収納ってあるでしょ?あれって空間を切り裂いて袋状にした後に中に物を入れる事が出来るんだけど、その空間って術者の後ろにずっとあって取り出したいときにいつでも取り出せるんだけど本来は道具袋の中にある空間を広げて沢山物が入るようにするとかしかできないの、それってなんでだと思う?」
「……今まで感覚で練習して使ってたから分からないかも」
「そっかぁ……」

 ダートが残念そうな顔をするけど……教えて貰った事に関して上手く理解できないでいるぼくのせいだからあんまり気にしないで欲しい。

「なら、レースはどうしたら覚えやすいとかある?ほら、お義母様やマスカレイドと居た時ってどうやって治癒術や魔術を最初教わったの?」
「確か師匠からは手を握って貰って魔力の波長を合わせて貰った後に、一緒に使ってみたりとか……、後はマスカレイドからは魔力の流れを見ろと言われて直接同じ魔術を使うのを見せられたかな」
「んー、それならレースに魔力の波長を合わせて貰って私が直接空間魔術を使ってみるね?」
「それはいいけど……妊婦さんに魔力の波長を合わせて魔術を使った経験が無いから心配かも」
「大丈夫だと思うよ?もしかしたら三人分の波長を合わせられたりして?なんかそれっておもしろそうかも、ねぇレース早速やってみよ?」

 そう言ってぼくの手を握ると楽しそうにこっちを見る。
……さすがにまだお腹の中の子供を感じる事は出来ないだろうけど、ダートが楽しそうだから意識を集中して魔力の波長を合わせて行く。

「……ん?あれ?魔力が本当にもう一つある?」
「でしょ?不思議だよね、私はほらお母さんになるから感覚的に魔力が分かるけどお父さんだとこういうの分からないでしょ?だから感じてみて欲しかったの」
「……何ていうか凄いね」
「うん、凄いでしょ?……じゃあ空間魔術を使うね?」

……ダートの中にぼくの魔力が入り込んで行くと、それが一つの原理に従い形を変えて行く。
ぼく達を起点に軸を置き、その後縦と横に合わせた図面が頭に浮かんだかとそこに部屋の風景が重なって行き少しだけ離れた所に座標を合わせる。
そしてダートが片手に持っていた短剣を何もない空間に向けて縦に振ると、そこが切り裂かれ開いた空間の先にこの部屋の壁が映し出されるのだった。
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