治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第九章 戦いの中で……

11話 独り立ちの考え方

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 部屋の扉を開けるとダートと楽しそうに話しているカエデの姿が見える。
お腹の中に子供がいると分かってから付きっ切りでダートの世話をしてくれているけど、正直ぼくも出来る事なら側にいたいけど……

『レースさんは能力を使ってる以上、起きてる間は危ないんですからお姉様の事は私に全部任せてください』

 と言われ起きてる間は、食事中と夜に同じベッドで横になっている時に話す以外出来ていない。

「レース?今日は遅かったね」
「……ぼくの武器が出来たから受け取りに行ってたからね」
「義肢と同じ素材で作って貰った武器だよね、ちょっと見てみたいかも」
「別にいいけどその前に、カエデのお客さんがいるんだけどいいかな」
「お客さん?私今日は誰か来るなんて聞いてないよ?」

 ぼくの後ろからランが出てくると、カエデが驚いた顔をして椅子から立ち上がりこっちに駆け寄って来る。

「ランちゃん!?」
「ん、呼ばれたから来たの」
「……ソラさんの事があるから来てくれないかと思ってた」
「おにぃはおにぃ、私は私なの、もう私は大人だから独り立ちする時期なの、だから友達のカエデちゃんのお願いを聞いて直ぐに来たの」
「ランちゃんありがとう!」

 ぼくの隣で仲良さげに抱き合ってるけど、カエデは歳が近い友達相手だと丁寧な口調じゃなくなるんだなぁって思う。
いや、それがおかしいっていうわけではないけど意外な一面を見ているようなというか、いつもとは違う彼女を見ているみたいでなんだか落ち着かない。

「ぼく達にも砕けた口調で話してくれていいのに……」
「あ、えっと……ほら、レースさんとお姉様は年上ですし、やっぱりそこはちゃんとしなきゃって」
「私も出来れば砕けた口調で話して欲しいな……」
「カエデちゃん……家族にいつまでも丁寧に話さなくて良いの、将来子供が出来た時に子供に対してもこうするのはちょっと違うと思うの」
「……でも、年上の人にはちゃんとしないと」

 家族になるのに年上とか気にしないでいいのに……。
でも無理して合わせるよりは、カエデの居心地が良いようにしてくれればぼく的にはそれでいい。

「カエデちゃん、私達は大丈夫だから安心して?」
「……なら少しずつでいいですか?」
「うん、それで大丈夫だよ」
「お姉様……、レースさんありがとうございます」
「ん、距離を縮めるのは大事なの……それにこれから一緒に私も住むんだから私も家族なの」

 ……ん?ランが一緒に住むの意味が分からない。

「えっと……、ランこれから一緒に住むってどういう?」
「独り立ちして自立しようにも住む家が無いの……、だからこの戦いが終わったらレースの家に住まわせて貰って、私の群れを作るの」
「ランちゃん?急に住むって言われてもレースさんが困っちゃうよ?」
「でも、私は行く場所が無いの……だからお願いなの」
「そういう事なら少しの間いさせてあげてもいいと思うよ?、ほら私はまだ動けるからいいけどこれから先お腹が大きくなったら、診療所で働いたり冒険者としての活動が出来なくなるし、その時にサリッサさんだけじゃ家の事をするのに限界があると思うし、その時に私の代わりに動ける人が居た方がいいと思うの」

 確かにダートの言う通りだと思う……、ぼくが家事をやろうとするとサリッサが嫌がるだろうから出来ないし、カエデは栄花騎士団の副団長と言う立場もそうだけど、辺境都市クイストの冒険者ギルドで、ギルド長をしているジラルドの補佐をしなければいけないから家の事をする余裕は無い筈だ。

「そういう事なら構わないかな、ランには住む代わりに家の事をしてもらう……よ?」
「……スン、スン、この匂い、なるほど」

 ランがいきなりぼくとカエデを見て顔を近づけると何故か匂いを嗅ぎ始める。
……もしかして臭かったりするのだろうか。

「カエデちゃんからレースの匂いがするの……、もしかして繁殖したの?」
「繁殖!?してないよ!?……まだ正式な夫婦になったわけじゃないのに、婚前交渉をするわけないじゃない!」
「……ん?じゃあどうしてなの?」
「えっと……それは、あのレースさんとお姉様三人で同じベッドに入って寝てるだけで」
「なんだ同衾はしてるの、じゃあ繁殖はもう少ししたら起きそうなの……猫の獣人族である私は婚前交渉してても気にしないから安心して欲しいの、だって繁殖期になると雌が複数の雄の子を産む事も良くあるし」

 ……猫の獣人の倫理観で言われても反応に困る。
それに複数の雄ってそれは何て言うか不純すぎて良くない。
二人目の奥さんを貰うぼくが言うのもどうかと思うけど、信頼できるパートナーとの間に関係を持つべきだと思う。

「私はそういうの無理だからっ!大事な事は結婚してからするの!……それよりもランちゃん、もしかして群れを作るって」
「ん、沢山の雄を婿として捕まえて沢山子供を産んで強い群れを作るの、だってこれは大人になった猫の獣人族としての本能で逆らう事が出来ない事なの……適齢期のうちに私よりも強い雄を沢山捕まえるの」
「ランちゃんより強い男の人って……、それこそSランク冒険者位しかいないよ?」
「それならSランク冒険者の雄を捕まえるの」

……そう言いながらムフーっ!と自信ありげな顔をするランの姿を見て反応に困ってしまう。
とはいえ獣人族には各々の種族にあった増え方があるのは聞いたことがあるけど、実際に見ると言葉に詰まる。
そんな事を思いながらダートを見ると『……とりあえずランちゃんの話が終わったみたいだから、レースの新しい武器を見たいな』と新しいおもちゃを欲しがる子供のような顔をして椅子から立ち上がると近づいて来るのだった。
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