治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第九章 戦いの中で……

8話 限界のその先

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 超越のその先……、いったい何があるのだろうか。
そう思いながら黙って聞いていると……

「まず心器を扱える実力者は、SとAランクの中間にいると言われているんだけどね……、これには理由があるんだよ」
「理由?」
「心器は固有の能力を扱えるようになるのと同時に、使えば使う程その人の適正や能力が飛躍的に上がるんだよ、しかもそれが限界を超えてね……だから顕現させている間はそれくらいの実力があるのさ、勿論あんたもだね」
「あぁ……だから長杖と大剣を出している時は魔術が使いやすくなってるんだ……、【高速詠唱】の能力のおかげだと思ってた」
「能力のおかげもあると思うけど、心器の補正もあるだろうね……」

 他にも長杖を出している時は、普段よりも少しだけ身体が動かしやすくなっている気がする。
もしかして……ライさんが心器を出して【怪力】を常に使うようにと言っていたのは【薬姫】メイメイから貰った薬と合わせて、耐えられる身体を作りながら適性や能力を伸ばして限界に至る為もあるのかも……?

「それと限界の先にいるSランク冒険者達になんの繋がりがあるの?」
「そりゃああんた……、あいつ等は心器の能力を最大限にまで高めてるんだよ、そうなるとどうなると思う?」
「……もしかして二人分の能力値があるって事?」
「分かりやすく言うとそうなるね……ただ滅多な事では本気にならない、つまり相手にするのなら実力を出される前に確実に仕留めるしかないよ」

 確実に仕留める……つまりマスカレイドやシャルネと戦う場合、格下だと油断している間に倒すしかないという事かもしれない。

「一応本気を出されても、一部例外を除いて栄花騎士団の最高幹部が三人いたら相性次第では倒せるようになってるらしいね、あたいの場合は北の大国【ストラフィリア】にいるあんたの兄【福音】ゴスペルと相性が良いらしいけど、やりあった事が無いから分からないね……、でもやりあったら確実に言える事は死ぬって事さ」
「相性が良いのに死ぬの?」
「そりゃあね……、特にSランク冒険者は他にも共通する切り札があるんだよ」
「共通する切り札?」
「なんかさっきから小さい子供みたいな返し方だね……まぁいいけど、それぞれが一人で国を滅ぼせる程の切り札を持ってるらしいんだよ、本当かどうかは見たこと無いから本当かは分からないんだけどね」

 たぶん……それに関しては本当の事だと思う。
以前師匠であり母でもある、Sランク冒険者【叡智】カルディアに辺境都市クイストで魔術を教わっている時に感じたあの底なしに感じる位の魔力、それに本人がぼくに教えようとしてくれた自身の切り札である【魔導砲】という名の固有魔術。
火、水、土、風と言う四つの属性を一つに混ぜ合わせて直線状に打ち出すらしいけど、原理は分かってもぼくには使う事が出来なかった。
雪の魔術を使うのに使う属性は【火、水、風】の三つだから、土属性を扱った事が無かったのも使う事が出来ない理由だと思う……でも実際に一度見せて貰った時は、威力をかなり抑えたらしいけど目の前にあった大きな樹が一瞬で灰になってしまったのを覚えている。
もしあれが最大威力で放たれていたらと思うと国が一つ滅びてもおかしくないだろう。

「……師匠に一度見せて貰ったけど本当に出来ると思うよ」
「それを聞いて戦えと言われてもやりあいたいとは思えなくなったよ、あたいは自分の身の方が大事だからね」
「栄花騎士団最高幹部の人って皆仕事に関して責任感があると思ってたんだけど……」
「責任感と命を捨てるのは違うんだよ、あたいは職人だよ?職人の仕事は死ぬことではなく作る事さ……死んだ後に遺作が評価される事はあるけどね、あたいは生きて評価されたいし、何時か武器だけじゃなくて色んな人が便利に感じる物を作りたいのさ」
「なるほど……」

 その気持ちは分からないでもない。
ぼくも新しい治癒術を作る時は、知的好奇心と興味本位が殆どだけど……色んな人の助けになったらいいと思う日もある。
別に評価は求めてはいないけど、今まで治せない症状とかが生きている間に治せるようになるのなら、何度でも挑戦してぼくの出来る範囲で治癒術を発展させたいと思う。

「さて……、やる事はやったしそろそろあたいは帰るかね」
「帰るって戦いには参加してくれないの?」
「しないよ?あたいの仕事は武器を作る事だからね、騎士団の中にはあたいの武器を待ってる人がいるのに、個人の事情で死にに行くなんてしたくないよ、それに今回の相手はSランク冒険者と同じ実力者が二人もいるんだろ?仮に参加したら命がいくつあっても足りないよ、それに今回は姫ちゃんがランを呼んだから大丈夫な筈だよ……あの子はあたいよりも強いからね、あぁでも……」

……トキが暴れすぎてボロボロになってしまった訓練場を見渡しながら困ったような顔をして『帰る前にここを治してからかねぇ……レース、あんたはライのとこに戻って首都にに帰りな、あたいはここを治してから栄花に帰るよ』と言うとぼくの背中を押して訓練場から出されてしまう。
すると中から『あぁ……こりゃギルド長に何て説明すりゃいいのかねぇ、とりあえず修理に必要な素材を集めてから考えようかね』という声が聞こえてくる。
これはいつまでもここにいても邪魔になりそうだなと感じて、武器を空間収納の中へとしまうとライさんの元へと戻るのだった。
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