治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第八章 戦いの先にある未来

56話 事前報告と事後報告

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 この本の内容の何処にマスカレイドの動機があるのだろうか。
そう思って本を手に取って他に何かないかと探して見ると……最後のページが不自然に厚い。
気になって指で触れると一部だけ僅かな厚みの違いがあるし、試しに爪を立てて見ると何かが引っ掛かる感覚がある。

「レースくん?そんな念入りに調べてどうしたんだい?」
「えっと……、何か最後のページのここなんだけど、触ると厚みがあってさ」
「厚みが?」

 ライさんが本をぼくから受け取ると同じように触れて確かめるけど難しい顔をしてしまう。
何か問題でも起きたのだろうか……

「確かに中に何かあるようだけど、この国で保存されている本を勝手に傷つけて取り出す訳にはね」
「でも事情を話せば許してくれるかも?」
「……それなら良いのだけどレース君、薬王ショウソク・メイディの許可を得るべきだと思うよ」
「そうかな……」
「事前報告と事後報告は違うからね、どっちが相手の印象がいいのか考えてみようか……例えばだけど事前にこういう事がしたいですって予め連絡されたらどう思う?」
「多分、内容を聞いて許可を出すかどうか考え、あっ…」

 ライさんの言う事前報告と事後報告、確かにやる前に連絡して貰った方が安心する事が出来る。
それに先に知っていれば周囲の人に相談して状況にあった判断が出来ると思う。

「その顔は何となくでも分かったみたいだね、事後報告だったらどうなるかな?治癒術師としての立場で考えて見るともっと分かりやすい筈だよ、例えばそうだね君の診療所で働いている人が君の許可なく重症患者を受け入れ治療を開始したらどうかな」
「……出来れば予め報告をして欲しいかな」
「その判断が出来るなら問題無いね……、ただ仮に事後報告するなら自分の裁量の範囲で責任が取れる場合のみって覚えておいた方がいい、それを踏まえた上で再度レース君の提案を聞かせて貰っていいかな」
「この本を薬王ショウソクの元に持って行って本の中に入っている物を取り出していいか聞いた方が良いと思う、現状のぼくは彼に信頼されてないし……この状態で更に問題を起こしたら今よりも最悪な結果になってもおかしくない気がする」
「うん、今の話だけでそうやって自分で答えを出せるのは立派だね……、カエデ姫が想いを寄せる理由も分かる、俺は君の事が気に入ったよ」

 そう言って笑いかけるライさんを見てどんな反応をすればいいのか分からなくて、思わず言葉に詰まってしまう。
ただぼくの事が気に入ったという事は彼の信用を得る事が出来たのかもしれない。

「アキラの弟子と聞いた時は正直どんなめんどくさい子が来るのかと、……内心不安だったけど思った以上に素直な人で安心したよ」
「めんどくさい子って……」
「弟子は師匠に似ると言うからね?」
「確かに少しは影響受けてるとは思うけど、アキラさんは何て言うか歳の離れた友人みたいな感じじゃないかな」
「なるほど、そういえば弟子の他にも他国に友人が出来たと以前騎士団本部に戻って来たに時に珍しく嬉しそうに話していたね、それ以降ずっと辺境都市クイストに入り浸っていたから困ったものだよ」

 そう言って本を手に持ったまま立ち上がると……

「さて、レース君には悪いけど俺はこれで失礼させて貰うよ、この本をまずは薬王に見せて来ないと行けないからね」
「え?それならぼくも一緒に行くよ」
「いや、今の君は薬王に合わない方がいいと思う、昨日謁見の間に大きな穴を空けたのはアキラから聞いているけど、その状態で更に新しく問題を持ち込むのは余りにも良くないと思うからね」
「でも、必要な事だと思うし……」
「確かにこれは必要な事だね、とは言え現状の君の立場を考えるとあまりにも良くない……、それにこう見えて俺は騎士団では団長、副団長に次ぐ立場にあるからさ、こういう時に矢面に立って行動するのは上に立つべき人の責務だよ、現に今の君は俺達の任務に協力してくれているという立場だからね、部下のようなものさ」

 部下のようなもの……その言葉に驚きはしたけど、ライさんがぼくの事を気遣ってくれているのを感じて嬉しくなる。
何て言うかこの人と接していると本当に安心するというか、共にいる事で人として成長出来るかもしれない、そんな気持ちにさせてくれて何て言うか本当に不思議な人だ。

「じゃあ俺はもう行くからレース君は部屋に戻って、今日一日はゆっくり休んだ方が良い……、明日からは俺とハスを交えた全員で戦闘時の連携と現状の戦力の確認をするから忙しくなるからね、……それに何て言えばいいかな」
「ライさん?」
「我らがカエデ姫が目を覚ました時に、最愛の人がいなかったら寂しがるかもしれないからね……、早く戻って奥さんとカエデ姫を安心させてあげて欲しい」
「カエデが寂しがるかは分からないけど、ダートは確かに心配するかも……」
「カエデ姫は君が思っているよりも中身は幼い少女だからね、間違いなく心配してると思うよ……、さて俺はこのまま行くよ」

……そう言うとライさんは書庫を出て階段を降りて行く。
彼を見送った後にぼくも椅子から立ち上がり、ライさんの言うように早く部屋へと戻るのだった
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