360 / 536
第八章 戦いの先にある未来
54話 賢王の技術と自壊のコード
しおりを挟む
義肢の中に走る電流の感覚が何て言うか、内側から身体をくすぐられているようでこそばゆい。
別に耐えられない訳では無いけど、意識しておかないと反射的に身体が動いてしまいそうになる。
「レース君、大丈夫か?……結構しんどそうな顔をしているから、辛かったら止めるよ?」
「……くすぐったいのを耐えてるだけだから気にしないでいいよ」
「それなら続けるけど、君には大事な家族がいるんだから無理だけはしないようにね」
少しだけ言葉でやり取りをした後、ライさんが解析に集中する為に静かになる。
取り合えず終わるまでは邪魔したら悪い気がするから、マスカレイドの事を考えてはみるけど……彼がマーシェンスでしていた事はミオラームやスイから聞いてはいたけど、断片的な事ばかりで全てを知っているわけじゃない。
もしこの本の中に、ストラフィリアでマスカレイドが話してくれた目的の続きを知る事が出来るのなら、どのような内容であれこの目で見て知りたいけど……薬王ショウソクが言っていた。
『俺達は元の世界へ戻るべきだ』
この言葉の意味がどうにも頭の中で引っ掛かる。
世界の成り立ちは知っているし以前、シャルネに身体を奪われた時に出会ったマリステラから更に詳しく聞いたけど、もしかしてそれ以上の何かがあるのかもしれない。
「……レースくん、もう解析は済んだから大丈夫、無理をさせて悪かったね」
「あぁいえ、これも必要な事だと思うから大丈夫だよ」
「そう言ってくれると助かるよ、おかげで本の回路を安全に外せそうだ」
「安全にって、そのまま取り除いたら何か良くない事とかあったりするの?」
「無理に外すとその回路が使い物にならなくなるのだけど、それ以上に厄介なのがマスカレイドの作品には自壊コードというのが組み込まれていてね、扱いを間違えると魔導具その物が魔力へと変換されて消失してしまうんだよ」
……という事は、あの時ぼく達が戦った生物兵器に使われていた魔導具にもあったという事だろうか。
当時は触ったりせずにそのままにしてしまったけど、もしその場でその事を知らずに魔導具の知識がある人が下手に振れていたら、独自の言語を喋っていた頭部を見つける事すら出来ずに消えてしまったのかもしれない。
「ただ、レース君の義肢を解析していて理解が出来たのだけれど、マーシェンスの賢王ミオラームの技術は末恐ろしい……」
「……え?」
「君には分からないかもしれないけど、完璧に義肢の回路に組み込まれている……しかもだ、自壊コードが作動しても、トキの心器によって義肢に付与された【不壊】の効果で自壊する事が防がれるようになっている、それに……」
「それに?」
「敢えて作動させる事で、一瞬だけ義肢そのものを魔力に変換する事も可能だ……、そもそもこのコード自体が時間に換算して一秒程しか効果を発揮しないからこそ出来る方法になるが、出来れば使わない方がいいと思う」
使わない方がいい……、その言葉の意味を理解しようとするけど何でか分からない。
そんな便利な使い方が出来るなら利用した方がいいと思うんだけど……
「君の疑問は最もだと思う……、こんな聞いただけで色んな使い方が出来る物を使うなという方が酷な話だ、……これはもしもの話になるのだけれど、将来何らかのきっかけがあって魔導具の知識を得て回路に触れる時が来て、この機能を使わざるおえない日が来たのなら死を覚悟する事になる」
「死を覚悟する?」
「あぁ、一瞬だけ魔力に変換され物質を通り抜けるようになるという事は、義肢の接続部はどうなると思うかい?、そこの部分も合わせて魔力に変換されてしまう……つまり、そこにあるのは剥き出しになった肉と骨……そして血管と神経だ、治癒術師の君なら分かる筈だ」
「……つまり体内に空気中の菌やウィルスが直接体内に入る?」
「その通り、それがたった一秒だったとしても何が起きるのか分からない、特にそれが戦闘中だった場合、返り血や舞った土埃が入ったら致命的だよ」
そこは確かにライさんの言う通りで、土の中にいる細菌や人の血液を関して感染症にかかる可能性がある。
これは確かにやらない方がいいだろう……
「その顔は、……良かった理解出来たようだね」
「うん、これで理解出来なかったら治癒術師として問題しかないよ」
「レース君がまともな治癒術師で良かった……、教会所属の治癒術師と違って話が通じるのも助かるよ」
「……教会所属になった人達はほら、皆がそうだとは言わないけどお金目当ての人が多くなるし、教会に収める金額のノルマを達成する為に自ら戦場に行っては負傷者から金品を巻き上げる事もある位だからしょうがないよ」
「そんな宗教組織に治癒術師達の大半が所属しているという事に頭が痛くなる……、我らが騎士団の団長は何を考えているのだろうな……本来であればそのような害にしかならない組織は解体するべきだと思うのだが」
……ライさんが複雑な顔をして溜息を一つ吐いた後『悪いね愚痴ってしまったよ……、今の事は忘れてくれると助かるかな』と困ったように笑う。
そして真剣な顔をしたかと思うと『さて……話してる間に集中力が戻って来たから回路の取り外し進めるかな』と言って作業を開始するのだった。
別に耐えられない訳では無いけど、意識しておかないと反射的に身体が動いてしまいそうになる。
「レース君、大丈夫か?……結構しんどそうな顔をしているから、辛かったら止めるよ?」
「……くすぐったいのを耐えてるだけだから気にしないでいいよ」
「それなら続けるけど、君には大事な家族がいるんだから無理だけはしないようにね」
少しだけ言葉でやり取りをした後、ライさんが解析に集中する為に静かになる。
取り合えず終わるまでは邪魔したら悪い気がするから、マスカレイドの事を考えてはみるけど……彼がマーシェンスでしていた事はミオラームやスイから聞いてはいたけど、断片的な事ばかりで全てを知っているわけじゃない。
もしこの本の中に、ストラフィリアでマスカレイドが話してくれた目的の続きを知る事が出来るのなら、どのような内容であれこの目で見て知りたいけど……薬王ショウソクが言っていた。
『俺達は元の世界へ戻るべきだ』
この言葉の意味がどうにも頭の中で引っ掛かる。
世界の成り立ちは知っているし以前、シャルネに身体を奪われた時に出会ったマリステラから更に詳しく聞いたけど、もしかしてそれ以上の何かがあるのかもしれない。
「……レースくん、もう解析は済んだから大丈夫、無理をさせて悪かったね」
「あぁいえ、これも必要な事だと思うから大丈夫だよ」
「そう言ってくれると助かるよ、おかげで本の回路を安全に外せそうだ」
「安全にって、そのまま取り除いたら何か良くない事とかあったりするの?」
「無理に外すとその回路が使い物にならなくなるのだけど、それ以上に厄介なのがマスカレイドの作品には自壊コードというのが組み込まれていてね、扱いを間違えると魔導具その物が魔力へと変換されて消失してしまうんだよ」
……という事は、あの時ぼく達が戦った生物兵器に使われていた魔導具にもあったという事だろうか。
当時は触ったりせずにそのままにしてしまったけど、もしその場でその事を知らずに魔導具の知識がある人が下手に振れていたら、独自の言語を喋っていた頭部を見つける事すら出来ずに消えてしまったのかもしれない。
「ただ、レース君の義肢を解析していて理解が出来たのだけれど、マーシェンスの賢王ミオラームの技術は末恐ろしい……」
「……え?」
「君には分からないかもしれないけど、完璧に義肢の回路に組み込まれている……しかもだ、自壊コードが作動しても、トキの心器によって義肢に付与された【不壊】の効果で自壊する事が防がれるようになっている、それに……」
「それに?」
「敢えて作動させる事で、一瞬だけ義肢そのものを魔力に変換する事も可能だ……、そもそもこのコード自体が時間に換算して一秒程しか効果を発揮しないからこそ出来る方法になるが、出来れば使わない方がいいと思う」
使わない方がいい……、その言葉の意味を理解しようとするけど何でか分からない。
そんな便利な使い方が出来るなら利用した方がいいと思うんだけど……
「君の疑問は最もだと思う……、こんな聞いただけで色んな使い方が出来る物を使うなという方が酷な話だ、……これはもしもの話になるのだけれど、将来何らかのきっかけがあって魔導具の知識を得て回路に触れる時が来て、この機能を使わざるおえない日が来たのなら死を覚悟する事になる」
「死を覚悟する?」
「あぁ、一瞬だけ魔力に変換され物質を通り抜けるようになるという事は、義肢の接続部はどうなると思うかい?、そこの部分も合わせて魔力に変換されてしまう……つまり、そこにあるのは剥き出しになった肉と骨……そして血管と神経だ、治癒術師の君なら分かる筈だ」
「……つまり体内に空気中の菌やウィルスが直接体内に入る?」
「その通り、それがたった一秒だったとしても何が起きるのか分からない、特にそれが戦闘中だった場合、返り血や舞った土埃が入ったら致命的だよ」
そこは確かにライさんの言う通りで、土の中にいる細菌や人の血液を関して感染症にかかる可能性がある。
これは確かにやらない方がいいだろう……
「その顔は、……良かった理解出来たようだね」
「うん、これで理解出来なかったら治癒術師として問題しかないよ」
「レース君がまともな治癒術師で良かった……、教会所属の治癒術師と違って話が通じるのも助かるよ」
「……教会所属になった人達はほら、皆がそうだとは言わないけどお金目当ての人が多くなるし、教会に収める金額のノルマを達成する為に自ら戦場に行っては負傷者から金品を巻き上げる事もある位だからしょうがないよ」
「そんな宗教組織に治癒術師達の大半が所属しているという事に頭が痛くなる……、我らが騎士団の団長は何を考えているのだろうな……本来であればそのような害にしかならない組織は解体するべきだと思うのだが」
……ライさんが複雑な顔をして溜息を一つ吐いた後『悪いね愚痴ってしまったよ……、今の事は忘れてくれると助かるかな』と困ったように笑う。
そして真剣な顔をしたかと思うと『さて……話してる間に集中力が戻って来たから回路の取り外し進めるかな』と言って作業を開始するのだった。
1
お気に入りに追加
130
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる