上 下
346 / 536
第八章 戦いの先にある未来

41話 メイメイの謝罪

しおりを挟む
 切り裂かれた空間を通るとそこは宿の部屋では無く、様々な道具で溢れた場所で様々な薬が棚に並んでいるのが見える。
ここは何処なんだろうか、首都である事は間違いでは無いのだろうけど……

「……試薬用の棚?」

 とりあえず部屋の中を歩いて見ると試薬棚と書かれた物が眼に入る。
製造番号と効能がそれぞれの瓶に書いてあるけど、どうやらメイメイに渡された薬が改良された物らしい。
念の為何が変わったのか確認して見ると、エルフ族と比べ人族の間で効果が切れる時間が少なかった事に関する内容のまとめと共に、改良後にどうなったのか書かれているけど、どうやら若い個体程効果が切れるまでの時間が早く、老いれば老いる程長く続くようだ。

「これを見る限り加齢による代謝の低下で効果が伸びたって言う事だけど、改良後服用者代謝を下げ効果を長持ちさせる事に成功したみたいだけど、これ改良しない方が良かったんじゃないかな」
「んー、やはりレース殿もそう思うのじゃ?余も作ったは良いが長時間代謝が落ちた場合の危険性を考えるとどうかと思うておったんじゃよ」
「……メイメイ」

 部屋の扉が開くと外からメイメイが入って来る。
まるでぼくがここにいるのを予め知っていたかのように話しかけて来るけど、もしかしてライさんがカエデに連絡をしてくれたのだろうか。

「くふふ、驚いておるのぅっ!実はのぅ転移先をここに指定したのは余なのじゃよっ!」
「……移動させるならダートのいる所にしてくれたら良かったのに」
「精神が不安定になってる状況でいきなりレース殿を転移させたら何が起こるか分からんでは無いか、これは余なりの気遣いじゃよ……、まぁそれは建前なのじゃがちょっと二人で道すがら話をしたかったのが本題じゃな」
「話?別にいいけどどうしたの?」
「んー、取り合えず遠回りしながら話すのじゃよ」

 遠回りって早くダートの所に行きたいのにな……。
そう思いながら部屋を出て着いて行くとメイメイが何やら申し訳なさそうな顔をしてぼくの顔を見て来て……

「あー、そのなんじゃ?お主には悪い事をしたのぅ……、まさか種族間の違いで基礎代謝の差がここまであるだなんて思って無かったのじゃ」
「いや、予め何が起きるのか分からないのを理解した上で受け取って使ったんだから謝らないでいいよ」
「じゃがのぅ……、余は薬師じゃよ?それなりのプライドがあるのじゃよ、だからお詫びになるのかは分からぬが、出来る範囲で良ければ何でもやるのじゃ」
「んー、結果的に元の腕よりも使いやすくなったからそこまでしなくてもいいんだけどなぁ」
「それはそれで複雑なのじゃが……、何か無いのかのぅ?とは言っても余を嫁に欲しいとか言うのは駄目じゃぞ?いくら可愛らしい見た目をしているとはいえ一国の姫じゃからな、婿になりたいと言うのなら考えんでも無いのじゃが、お主にはもうダート殿とカエデちゃんがおるじゃろ?求め過ぎるのは良くないからのぅ、じゃからそれ以外にって……何じゃそのめんどくさそうな人を見るような顔は」

 ……めんどくさいと思ってしまっているのは確かだ。
何故お詫びでメイメイとそのような関係にならなければいけないのか、ぼくにはダートとカエデがいれば充分なのに、これ以上増える何て事を想像して見ると正直言って無理がある。
これから先の事を考えてもいつかは家族が増えるだろうし、その時に妻に当たる人が複数人いたらどう思うだろうか、二人いる時点でも心配なのにそれが三人ってなったらどうすればいいのかぼくにはわからない。

「まぁちょっと思う所があってさ……、でもそうだね、何でもしてくれるって言うなら婚姻以外でお願いを聞いて貰っていいかな」
「婚姻以外で?まさかお主……、余が可愛いからと不埒な事をする気じゃないじゃろうな!?ダメじゃダメじゃ!婚姻前の交渉など認められないのじゃ!」
「どうしたらそんな考えになるのか分からないけど違うから大丈夫だよ」
「何じゃ欲の無い奴じゃのぅ、年頃の若い男性はそういうのに弱いと思ったのじゃがな」
「確かに一部の人はそうだろうけど、幼い身体の女の子に対してそんな感情を抱くのは一握りの人位だよ……でさ、お願いしたい事なんだけどメイメイが作った薬を定期的にぼくの診療所に届けて貰ってもいいかな、勿論試薬とかじゃなくて治療に使う薬の方なんだけど」

 協力要請に従うついでにあわよくばメイディから薬を仕入れる為の伝手が出来たらと思っていたけど、それがメイメイなら問題無いだろう。
むしろ理想的な取引だと思うし、相手がこの国の王族となれば……これ程信用出来る相手はいない筈だ。

「んー、余の薬で良いのなら幾らでも作って届けてやっても良いのじゃが……、診療所と言う事は行商をしているシャルネに届けて貰えば良いと思うのじゃが、それではダメなのかのぅ?」
「……事情があって頼る事が出来ないんだ、詳しくは皆と合流してから話すよ」
「何やら訳ありのようじゃな、まぁ取り合えずその願いを聞くが、何なら余が作った新薬も届けて良いかのぅ、あぁそんな顔して警戒せんでも良い、ちゃんと人族にも合わせて効果のある薬の方を届ける方にするから安心するのじゃよ」
「それは助かるけど……金額の方は結構高くなるんじゃない?」
「んー、金額の方は新薬に関してはこちらがお願いする方じゃからなタダで送るけど変わりにそうじゃなぁ、余が直接薬を届けに来てやるのじゃ!そうすればお友達のダリアちゃんに会いに行けるからのぅ!って事で宜しく頼むのじゃ」

……そう言って笑顔になると鼻歌交じりにスキップを始めるメイメイを見て、こうすると年相応の女の子なんだなぁって思うけど……、定期的に他国の姫が遊びに来ることを知ったらメセリーの【魔王】ソフィア・メセリーの胃にその内穴が空きそうだなぁと心配になるが、これに関しては戻った時に暫くストレス発散に付き合ってあげた方が良いのかもしれない。
そんな事を思いながら通路を歩いているとメイメイがこちらを見て『着いたのじゃ、ここにお主の愛しいダート殿とカエデちゃん達がおるからのぅ、先に入って感動の再開をしてくるのじゃよ……余は空気を読んで少しだけ間を置いてから来るから安心するのじゃ!』と言って、部屋への扉を開けると勢いよく背中を押して来るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...