治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

文字の大きさ
上 下
306 / 581
第八章 戦いの先にある未来

2話 初めての二人きり

しおりを挟む
 話を聞いた後、今日はもう解散という事になったから診療所の寮からカエデと一緒に家に帰ったけど……。
今日はダートが不在で……、アンとヒジリに新しい戦い方を教わっているらしいけど、最近は心器の短剣の能力をどうすれば上手く扱えるのか、2つ目と3つ目の能力をどうすれば手に入れる事が出来るのか教わっているらしい。
何でもやり方次第ではある程度は欲しい能力の方向性を自分で選ぶ事が出来るらしいけど、それをする為には強い意志が必要になるとかで難しいそうだ。

「えっと……、二人きりですね」
「え?あぁ、うん、そういえばサリッサもいないみたいだね」
「サリッサさんでしたらお買い物に行くとかで暫く外に出ていますよ?、何でも身体を鍛えるのに適した食材があるとかで」
「そうなんだ?」
「えぇ、特にここ数日の間でレースさんの体つきが少しだけ変わってちょっと頼もしくなりましたし、ケイさんの特訓とサリッサさんのサポートのおかげかもですね」

 あぁ通りで最近、ケイとの訓練がある日はたんぱく質と炭水化物のバランスが取れた、栄養価の高い食事が多かったのか。
まぁ、それ以外にも精力剤としても使われる食材が出て来たりするけど、前者は身体作りに必要だから分かる。
でも……、後者の方は確かに体に良いけど取り過ぎると肝機能の低下が起きてしまうから近いうちにサリッサにその事を話しておいた方がいいのかもしれない。
若い内はまだ何とかなるかもしれないけど、それが何年も続いたりする可能性を考えたら治癒術師の立場としては不安だ。
そう思いながらリビングのソファーに座ると何故かカエデがぼくの隣に座って来た。

「あの、こうやって二人きりになるのって初めてじゃありませんか?」
「初めてって治癒術を教える時は二人だったと思うけど……」
「そうじゃ……、そうじゃなくてえっと、こういう関係になってから二人きりって初めてですよね」
「んー、そうだっけ……」
「そうですっ!私もこの家で暮らすようにはなりましたけど……、タイミングがありませんでしたし」

 カエデと婚約状態になってから、診療所の寮から三階の空き部屋に引っ越して来たけど確かにこうやって二人きりになる事は無かった気がする。
特に最近はぼくは大剣の使い方をケイから教わったり、ダートと時間が合う時はアンとヒジリの所に一緒に行ったりしているから、そういう意味では関係が変わりはしたけど彼女に対して何もしてあげられて無いのは確かだ。

「ならゆっくり話でもする?」
「はい、じゃあ……ゆっくり出来るようにお茶を淹れてきますね?
「それならぼくも手伝うよ」
「いえ、気持ちは嬉しいですけど旦那様はゆっくりしていてください、それに疲れていると思うのでお茶菓子も出しますね?この前栄花に一度戻って買って来たんです」
「あぁ、うん」

 何ていうか栄花の女性は基本的に結婚したら家庭に入るいらしいけど、そのせいか男性がキッチン……、あちらでは調理場に入る事を良く思わない人が多いらしい。
サリッサの時もそうだけど、正直料理をする事が好きだから複雑な気持ちになる。
そういう意味ではこうやって座って待ってるだけというのも落ち着かない、取り合えず立ち上がってキッチンへと歩いて行くと……

「カエデ、やっぱりぼくもやるよ」
「……んもう、気持ちは嬉しいですけど栄花で男が調理場に立ってるって知られたら男の人達から笑われてしまいますよ?」
「んー、ここは栄花じゃないからいいんじゃない?それに栄花の男性も一人の時はちゃんと自分でやるんでしょ?、それなら自分の事は自分で出来るようになった方がいいと思うけど」
「確かにそうですけど……、レースさんの事は私が全部面倒見るから大丈夫ですよ?、それにダート姉様やサリッサさんもいますし、別に出来なくても……」
「それだと将来的に何も出来なくなってしまうから嫌だよ、皆が体調を崩したりしたらどうするの?」

 特にこれから先新しく家族が増えたりもするだろうし、そうなった場合家の事をぼくもしっかりと出来た方がいいだろう。
それに子供は親に似ると共に周囲の環境を見て育つというし、現にぼくのこうやって考え込んでしまう性格はマスカレイドに似ているし、考えて居る事が顔に出る所はストラフィリアの前王【ヴォルフガング・ストラフィリア】に似ている。
そういう意味では育ての父と血縁上の父両方に似てしまっているし、育ての母であるカルディアの影響を受けている所が多いから将来家族が増えた時に見本になれる親でありたい。

「……しょうがない人ですね、でもレースさんはお茶の淹れ方は分からないでしょう?」
「紅茶なら淹れた事あるけど違うの?」
「温度が大分違うんですよ?物によっては紅茶と同じ温度でさっと出して香りを楽しむお茶もありますけど、詳しくは今度ダートお姉様を交えて教えてあげますので今は湯呑を用意してリビングのテーブルに置いといてください、それをしてくれるだけでも充分嬉しいので」
「あぁ……、うん分かった」

……確かにそう説明されたらお茶を淹れた事が無いぼくにはそれ位しか出来る事が無い。
そう思いながらカエデが栄花から持ってきた湯呑という独特な形をしたお茶を飲む為のカップを食器棚から取り出してリビングに戻ると玄関の方からノック音がする。
するとキッチンの方から『折角の二人きりだったのに……、レースさん私は今手が離せないのでお願いします』というカエデの声がしたけど、既に湯呑をテーブルの上において対応する為に玄関に向かっているから問題無い。
取り合えず誰か確認する為に玄関の扉を開けるとそこには……、中年期に差し掛かっているだろう顔付きにお洒落に整えた髭を生やした紳士服を来た男性が立っているのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ニートの俺がサイボーグに改造されたと思ったら異世界転移させられたンゴwwwwwwwww

刺狼(しろ)
ファンタジー
ニートの主人公は一回50万の報酬を貰えるという治験に参加し、マッドサイエンティストの手によってサイボーグにされてしまう。 さらに、その彼に言われるがまま謎の少女へ自らの血を与えると、突然魔法陣が現れ……。 という感じの話です。 草生やしたりアニメ・ゲーム・特撮ネタなど扱います。フリーダムに書き連ねていきます。 小説の書き方あんまり分かってません。 表紙はフリー素材とカスタムキャスト様で作りました。暇つぶしになれば幸いです。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

俺! 神獣達のママ(♂)なんです!

青山喜太
ファンタジー
時は、勇者歴2102年。 世界を巻き込む世界大戦から生き延びた、国々の一つアトランタでとある事件が起きた。 王都アトスがたったの一夜、いや正確に言えば10分で崩壊したのである。 その犯人は5体の神獣。 そして破壊の限りを尽くした神獣達はついにはアトス屈指の魔法使いレメンスラーの転移魔法によって散り散りに飛ばされたのである。 一件落着かと思えたこの事件。 だが、そんな中、叫ぶ男が1人。 「ふざけんなぁぁぁあ!!」 王都を見渡せる丘の上でそう叫んでいた彼は、そう何を隠そう──。 神獣達のママ(男)であった……。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...