300 / 547
第七章 変わりすぎた日常
48話 禁忌の治癒術の危険性
しおりを挟む
あの後二階の居住スペースに行ったらリビングのソファーでサリッサが眠っていた。
そしてぼく達が戻って来たのに気付くと、キッチンに歩いて行って温めた料理を出してくれると……
『本日お帰りになられるのか分かりませんでしたが、お二人のお食事を用意してお待ちしておりましたので……、冷めないうちにお食べ下さいね?』
と言うと頭を深く下げて――
『では、私はもう日が暮れたので先に休ませて頂きます……、あ、後お二人のお部屋の方ですが外に音が漏れないように防音対策しておきましたのでご安心して、夜をおやすみくださいね』
……その後、何とも言えない気まずい雰囲気になったけど、特にあったとしても今日の反省会以外にはする事が無く気が付いたら朝になっていた。
「……で?私の手が治るって言ってたけどどうやって治すの?」
今日は診療日の休診日だから、集中してスイの治療を行う事が出来る。
だから起きて直ぐ朝食を食べる前に彼女の元に行ったけど、既に起きてぼくの事を待っていたようで――
「スイ、起きてたの?」
「起きてるわよ、禁忌指定された治癒術をこの目で見る事なんて滅多にないし」
「見るって言っても……、使う時に麻酔を体内に入れて眠らせて体から寝てるうちに終わると思うよ?」
「……それだと見れないじゃない、嫌よそんなの、痛みの方は薬で何とかするから麻酔無しでやって欲しいんだけど?」
「ぼくが言うのもどうかと思うけど……、正気?」
人の失われた部分を再生する治癒術を作ったぼくが言うのもどうかと思うけど、正直それを見たいというのはどうかと思う。
スイがそういうのなら見せてあげたいけど……、以前自分に使った時の気が狂いそうな程のあの痛みは正直耐えるだけでも精一杯だったから、彼女がそれに耐えられるのか心配でしかない。
だって肉体強化の適正が斥候型だから、使うと五感が敏感になりやすい部分がある以上、薬で幾ら痛みを和らげたり感覚を麻痺させたとしても、抑えるのに限界がある筈だ。
そう思っている間にスイが自身の腰に下げている道具袋から、薬の入った注射器を取り出すと自分で刺して体内へと入れる。
「治癒術で薬の効果が出るを早くしたから、これで行けるわ?」
「……本当にいいの?」
「えぇ、思い切ってやってちょうだい」
「分かったけど、後悔しても知らないからね」
心器の長杖を手元に顕現させると、それをスイの失った手に当てて魔力を集中して行く。
彼女の脳内にある身体本来の形を引っ張り出すイメージをしながら、魔力を同調させて行き……、手の周囲を魔力で覆うようにすると……
「あ、これ、あなた何考えてるの!?」
「何って……、失くした部分を作り直すんだけど?」
「作り直すって、これはそんなんじゃ――」
その瞬間スイの眼を大きく見開かれる。
まるで痛みとは違う何かを耐えるように、歯を食いしばるその顔はとても苦しそうだけど本当に大丈夫なのだろうか。
とは言えそうしている間にも骨が形成されて行き、その上に血管と神経が細い糸のように伸びて行く。
そして周囲を覆うように筋肉が切断面から伸びて、指を動かすのに必要な筋が指先へとゆっくりと繋がると
「んんっ!?」
……スイの口の中で歯が折れる音がした。
このままだと口内を必要以上に傷つけてしまい、出血により喉が詰まった結果上手く呼吸が出来なくなってしまう。
そうなってしまった場合、切断面の再生以前の問題だから一度手の方に回している魔力を止めて開いてる方の手で彼女の顔に触れて口を開けると、もしもの為に予め用意しておいた清潔な布を口に入れてこれ以上かみ砕かないように噛ませながら、治癒術で出血を止める。
「……だから止めた方がいいって言ったのに」
「んあんっ!んんっん!んんにぁんんいん!?」
「喋ると傷が開くかもしれないから黙ってて」
「……」
「大丈夫、もう終わるから」
そして再び長杖に魔力を通すと手の再生を再開する。
筋肉と筋が剥き出しの状態から脂肪、真皮、表皮と形成されて行き……、指先には傷一つない綺麗な爪が生えて行く。
後は繋がった血管を機能させる為に、魔力を血液へと変換し、神経に脳から発せられる電気信号が通る様にと、彼女の脳に指令を送って作り直された親指の指先から小指までゆっくりと関節を順番に動かして、機能に問題が無いかを調べて無事に人体の一部として接続されている事を確認した。
そして魔力の同調を切って治療を終えると……
「……終わったから、もう口の布を取っていいよ」
「あなた、カルディア様以上の異常者よ」
いきなり母さんよりも異常だと言われてしまい困惑する。
あの人なら正直、今のぼくよりもレベルが高い治癒術が使える筈だし、この禁忌指定された術ももっと効率的に、更にはより危険性を排除した安全な方法で使う事が出来る筈だ。
正直その方が異常だと思うんだけどな……
「……ふぅ、でもありがとう、おかげでどうして禁忌指定されたか正しく理解出来たわ」
「正しくってどういう事?」
「この術は人の寿命を確実に削るって事……、失われた部分を治すのではなく強引に体全体を細胞レベルで作り変える事で文字通り作り直す、それにより本来の細胞の寿命を無視した異常な分裂が行われるという事は……、損傷部分の範囲が大きければ多い程寿命が大きく削られるって事よ」
「……、作ったぼくが言うのもどうかと思うけどそんなリスクがあるだなんて思っていなかった」
「でしょうね……、正直人の手で生み出してはいけないレベルの術だもの、今回は私がお願いして使って貰ったけど、次からは何があっても使っちゃダメよ、やり過ぎたらあなた……禁忌を犯した存在として指名手配されて、過去の私みたいに討伐対象になるわよ」
……そう言って難しい顔をするスイは『……でもこの術なら応用出来れば父を戻す事が出来そう』と言いつつ、口の中に手を突っ込むと治癒術を発動させて何かをしている。
いったい……、どうしたのだろうかと思っていると『折れて砕けた歯を治癒術で固めて元に戻したのよ、さっきの禁忌の術でもこうやって使えばデメリットは減らせるでしょ?』と笑顔で言うのだった。
そしてぼく達が戻って来たのに気付くと、キッチンに歩いて行って温めた料理を出してくれると……
『本日お帰りになられるのか分かりませんでしたが、お二人のお食事を用意してお待ちしておりましたので……、冷めないうちにお食べ下さいね?』
と言うと頭を深く下げて――
『では、私はもう日が暮れたので先に休ませて頂きます……、あ、後お二人のお部屋の方ですが外に音が漏れないように防音対策しておきましたのでご安心して、夜をおやすみくださいね』
……その後、何とも言えない気まずい雰囲気になったけど、特にあったとしても今日の反省会以外にはする事が無く気が付いたら朝になっていた。
「……で?私の手が治るって言ってたけどどうやって治すの?」
今日は診療日の休診日だから、集中してスイの治療を行う事が出来る。
だから起きて直ぐ朝食を食べる前に彼女の元に行ったけど、既に起きてぼくの事を待っていたようで――
「スイ、起きてたの?」
「起きてるわよ、禁忌指定された治癒術をこの目で見る事なんて滅多にないし」
「見るって言っても……、使う時に麻酔を体内に入れて眠らせて体から寝てるうちに終わると思うよ?」
「……それだと見れないじゃない、嫌よそんなの、痛みの方は薬で何とかするから麻酔無しでやって欲しいんだけど?」
「ぼくが言うのもどうかと思うけど……、正気?」
人の失われた部分を再生する治癒術を作ったぼくが言うのもどうかと思うけど、正直それを見たいというのはどうかと思う。
スイがそういうのなら見せてあげたいけど……、以前自分に使った時の気が狂いそうな程のあの痛みは正直耐えるだけでも精一杯だったから、彼女がそれに耐えられるのか心配でしかない。
だって肉体強化の適正が斥候型だから、使うと五感が敏感になりやすい部分がある以上、薬で幾ら痛みを和らげたり感覚を麻痺させたとしても、抑えるのに限界がある筈だ。
そう思っている間にスイが自身の腰に下げている道具袋から、薬の入った注射器を取り出すと自分で刺して体内へと入れる。
「治癒術で薬の効果が出るを早くしたから、これで行けるわ?」
「……本当にいいの?」
「えぇ、思い切ってやってちょうだい」
「分かったけど、後悔しても知らないからね」
心器の長杖を手元に顕現させると、それをスイの失った手に当てて魔力を集中して行く。
彼女の脳内にある身体本来の形を引っ張り出すイメージをしながら、魔力を同調させて行き……、手の周囲を魔力で覆うようにすると……
「あ、これ、あなた何考えてるの!?」
「何って……、失くした部分を作り直すんだけど?」
「作り直すって、これはそんなんじゃ――」
その瞬間スイの眼を大きく見開かれる。
まるで痛みとは違う何かを耐えるように、歯を食いしばるその顔はとても苦しそうだけど本当に大丈夫なのだろうか。
とは言えそうしている間にも骨が形成されて行き、その上に血管と神経が細い糸のように伸びて行く。
そして周囲を覆うように筋肉が切断面から伸びて、指を動かすのに必要な筋が指先へとゆっくりと繋がると
「んんっ!?」
……スイの口の中で歯が折れる音がした。
このままだと口内を必要以上に傷つけてしまい、出血により喉が詰まった結果上手く呼吸が出来なくなってしまう。
そうなってしまった場合、切断面の再生以前の問題だから一度手の方に回している魔力を止めて開いてる方の手で彼女の顔に触れて口を開けると、もしもの為に予め用意しておいた清潔な布を口に入れてこれ以上かみ砕かないように噛ませながら、治癒術で出血を止める。
「……だから止めた方がいいって言ったのに」
「んあんっ!んんっん!んんにぁんんいん!?」
「喋ると傷が開くかもしれないから黙ってて」
「……」
「大丈夫、もう終わるから」
そして再び長杖に魔力を通すと手の再生を再開する。
筋肉と筋が剥き出しの状態から脂肪、真皮、表皮と形成されて行き……、指先には傷一つない綺麗な爪が生えて行く。
後は繋がった血管を機能させる為に、魔力を血液へと変換し、神経に脳から発せられる電気信号が通る様にと、彼女の脳に指令を送って作り直された親指の指先から小指までゆっくりと関節を順番に動かして、機能に問題が無いかを調べて無事に人体の一部として接続されている事を確認した。
そして魔力の同調を切って治療を終えると……
「……終わったから、もう口の布を取っていいよ」
「あなた、カルディア様以上の異常者よ」
いきなり母さんよりも異常だと言われてしまい困惑する。
あの人なら正直、今のぼくよりもレベルが高い治癒術が使える筈だし、この禁忌指定された術ももっと効率的に、更にはより危険性を排除した安全な方法で使う事が出来る筈だ。
正直その方が異常だと思うんだけどな……
「……ふぅ、でもありがとう、おかげでどうして禁忌指定されたか正しく理解出来たわ」
「正しくってどういう事?」
「この術は人の寿命を確実に削るって事……、失われた部分を治すのではなく強引に体全体を細胞レベルで作り変える事で文字通り作り直す、それにより本来の細胞の寿命を無視した異常な分裂が行われるという事は……、損傷部分の範囲が大きければ多い程寿命が大きく削られるって事よ」
「……、作ったぼくが言うのもどうかと思うけどそんなリスクがあるだなんて思っていなかった」
「でしょうね……、正直人の手で生み出してはいけないレベルの術だもの、今回は私がお願いして使って貰ったけど、次からは何があっても使っちゃダメよ、やり過ぎたらあなた……禁忌を犯した存在として指名手配されて、過去の私みたいに討伐対象になるわよ」
……そう言って難しい顔をするスイは『……でもこの術なら応用出来れば父を戻す事が出来そう』と言いつつ、口の中に手を突っ込むと治癒術を発動させて何かをしている。
いったい……、どうしたのだろうかと思っていると『折れて砕けた歯を治癒術で固めて元に戻したのよ、さっきの禁忌の術でもこうやって使えばデメリットは減らせるでしょ?』と笑顔で言うのだった。
1
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
修学旅行のはずが突然異世界に!?
中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。
しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。
修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!?
乗客たちはどこへ行ったのか?
主人公は森の中で一人の精霊と出会う。
主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。
ハイスペな車と廃番勇者の少年との気長な旅をするメガネのおっさん
夕刻の灯
ファンタジー
ある日…神は、こう神託を人々に伝えました。
『勇者によって、平和になったこの世界には、勇者はもう必要ありません。なので、勇者が産まれる事はないでしょう…』
その神託から時が流れた。
勇者が産まれるはずが無い世界の片隅に
1人の少年が勇者の称号を持って産まれた。
そこからこの世界の歯車があちらこちらで狂い回り始める。
買ったばかりの新車の車を事故らせた。
アラサーのメガネのおっさん
崖下に落ちた〜‼︎
っと思ったら、異世界の森の中でした。
買ったばかりの新車の車は、いろんな意味で
ハイスペな車に変わってました。
なんで誰も使わないの!? 史上最強のアイテム『神の結石』を使って落ちこぼれ冒険者から脱却します!!
るっち
ファンタジー
土砂降りの雨のなか、万年Fランクの落ちこぼれ冒険者である俺は、冒険者達にコキ使われた挙句、魔物への囮にされて危うく死に掛けた……しかも、そのことを冒険者ギルドの職員に報告しても鼻で笑われただけだった。終いには恋人であるはずの幼馴染にまで捨てられる始末……悔しくて、悔しくて、悲しくて……そんな時、空から宝石のような何かが脳天を直撃! なんの石かは分からないけど綺麗だから御守りに。そしたら何故かなんでもできる気がしてきた! あとはその石のチカラを使い、今まで俺を見下し蔑んできた奴らをギャフンッと言わせて、落ちこぼれ冒険者から脱却してみせる!!
起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣
ゆうた
ファンタジー
起きると、そこは森の中。パニックになって、
周りを見渡すと暗くてなんも見えない。
特殊能力も付与されず、原生林でどうするの。
誰か助けて。
遠くから、獣の遠吠えが聞こえてくる。
これって、やばいんじゃない。
風ノ旅人
東 村長
ファンタジー
風の神の寵愛『風の加護』を持った少年『ソラ』は、突然家から居なくなってしまった母の『フーシャ』を探しに旅に出る。文化も暮らす種族も違う、色んな国々を巡り、個性的な人達との『出会いと別れ』を繰り返して、世界を旅していく——
これは、主人公である『ソラ』の旅路を記す物語。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~
月見酒
ファンタジー
俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。
そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。
しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。
「ここはどこだよ!」
夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。
あげくにステータスを見ると魔力は皆無。
仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。
「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」
それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?
それから五年後。
どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。
魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!
見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる!
「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」
================================
月見酒です。
正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる