上 下
296 / 547
第七章 変わりすぎた日常

44話 逃走と追跡者

しおりを挟む
 あの後、全員で頭の合った場所に行ったけど……無くなっていた。
もしかして場所を間違えたのかもしれないと思って、周囲を探してみたけど場所はやはり合っている……

「もしかしてだけど……、自分の力で移動した?」
「それはない、頭だけの状態で移動するのは不可能」
「じゃあフィリアはどう思うの?」
「誰かが持ち去った可能性がある、それに戦闘中は余裕が無かったから思いつかなかったけど……違和感がある」
「違和感?それってどういう事ですの?」

 誰かが持ち去った可能性……、ここまで言われたらさすがのぼくでも理解出来てしまう。
フィリアの言う通りだったとしたらあの襲撃は何者かによって仕組まれた事になるし、その場合――

「マーシェンスの関係者がミオの命を狙ったと判断するのが妥当」
「わたく、しの命を?」
「えっと……、フィリアさんどういうことなの?」
「まずはこの場から離れて安全が確保出来た後に話すから着いて来て」

 フィリアが周囲を警戒する仕草をすると、顔でぼく達に行く場所を支持してゆっくりと歩き出す。
取り合えず指示に従った方がいいとは思うけど、どうして今教えてくれないのだろうか。

「着いて来てって、周囲にぼく達以外は誰もいないみたいだから、ここで話してもいいと思うんだけど……」
「もしここで生物兵器を放った何者と遭遇して戦闘になったら、負傷者を運んでいる私達は戦えない以上、ダートだけでは犠牲無しに戻る事は無理だと思う」
「……それならダートの空間跳躍で集落まで移動するのは?」

 それなら安全にここから移動出来ると思うし、そこで少しだけ休憩してスイが眼を覚ましてから都市に戻れば、もし道中ミオの命を狙っている何者かに襲われても問題無く抵抗出来る筈だ。

「無理ね……、相手は私達が何処を経由して来たのか知っている筈、残念ながらこれはただの襲撃ではなくモンスターを利用した事故に見せかけた暗殺、しかも周囲の被害を考えない手段の選ばなさ、そんな相手の前で空間転移を使って魔力の痕跡を残したら集落に生物兵器が放たれる可能性がある」
「フィリアさんの言う通りかなこれはもうただの護衛依頼じゃない、出来たらこのまま相手が退いてくれたらいいんだけど」
「その可能性も無いと見た方がいい、理解出来たなら移動する……、ダートはミオラームの周囲の空間を他の場所に常時繋いで襲撃に備えておいて欲しい、ミオは声を漏らさないように自分の手で口を覆って悲鳴をあげないようにしていて」
「確かにその方が不意を突かれても安全かな……、取り合えずレースは私の隣に着いて来て?その方がミオラーム様を守りやすいから」
「……分かった」

 フィリアの指示の元、彼女を先頭にして今迄来た道に向かって歩いて行く。
このまま集落に帰るのかと思っていると急に方向を変えて進み出す。
いったいどうしたのかと思っていると、歩を緩めてぼく達の隣に並ぶと――

「……フィリア?」
「黙って着いて来るか喋るなら声量を下げて気付かれないようにして、……あなたでは分からないと思うけど私達の後ろのを黒髪で黒いコートを着た全身黒ずくめの人物が樹の上を飛んで追って来てる」
「フィリアさん……、どうして分かるの?」
「私の魔力特性は鷹の目と宵闇、後者は切り札だから教えられないけど……前者の方は特殊でね、魔力で作った不可視の瞳を遠隔に飛ばす事で相手の場所を探る事が出来る、今回は前方を警戒する振りをしながら後方に飛ばして全方位を見てた」
「何で特性が二つあるのか分からないけど……、髪色と服装以外に何か特徴って分かったりするの?」

 限界に到達する事で魔力特性がもう一つ増えるという事は、以前マリステラから聞いてはいたけど……実際に二つ持ってると宣言する人物に出会うのは初めてだ。
多分母さんやマスカレイド……、今迄出会って来たSランク冒険者の人達も持っていたと思うけど、フィリアの言い方的に人に教える事は出来ない程に強い特性なのかもしれない。

「……長い黒い髪に黒い瞳、特に髪の方は染料で染め上げられた不自然な黒さ、服装の方も同じ染料で染めたようね、暗い場所で出会ったら私でもほんの一瞬だけ姿を見失うかもしれない」
「染め上げた黒い髪、ダートそれって……」
「うん、ミュカレーだと思う、でもどうしてあの人が」
「ミュカレー、確か元Aランク冒険者【闇天の刃】で今は父の協力者……、つまりミオを殺してこの子の兄か姉に王位継承させて国を完全に乗っ取るつもり?」
「マスカレイドは確か、マーシェンス周辺の国に潜伏してるって話があったから……ありえるかも」

……もしそうだった場合、無事にここから逃げる事に成功してもミオラームがマーシェンスに戻ったら、何時マスカレイドの手によって殺されしまうのか分からない。
それなら今ここでミュカレーと交戦して討伐した方がいいとは思うけど、ダートだけで戦う事は難しいだろう。
そう思っていると、フィリアが歩を止めて背負っているスイを地面に丁寧に降ろすと……、狙撃銃を立って構えるような姿勢を取る。
すると彼女の手元に心器のライフルが現れ……、音も無く銃口から銃弾を撃ち出すのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

なんで誰も使わないの!? 史上最強のアイテム『神の結石』を使って落ちこぼれ冒険者から脱却します!!

るっち
ファンタジー
 土砂降りの雨のなか、万年Fランクの落ちこぼれ冒険者である俺は、冒険者達にコキ使われた挙句、魔物への囮にされて危うく死に掛けた……しかも、そのことを冒険者ギルドの職員に報告しても鼻で笑われただけだった。終いには恋人であるはずの幼馴染にまで捨てられる始末……悔しくて、悔しくて、悲しくて……そんな時、空から宝石のような何かが脳天を直撃! なんの石かは分からないけど綺麗だから御守りに。そしたら何故かなんでもできる気がしてきた! あとはその石のチカラを使い、今まで俺を見下し蔑んできた奴らをギャフンッと言わせて、落ちこぼれ冒険者から脱却してみせる!!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣

ゆうた
ファンタジー
 起きると、そこは森の中。パニックになって、 周りを見渡すと暗くてなんも見えない。  特殊能力も付与されず、原生林でどうするの。 誰か助けて。 遠くから、獣の遠吠えが聞こえてくる。 これって、やばいんじゃない。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...