上 下
283 / 536
第七章 変わりすぎた日常

33話 依頼の説明

しおりを挟む
 凄い勢いで咽るスイを見て何があったのかと心配になるけど、それよりも自分の事を自らメスガキと名乗った事の方が気になる。
ダートもこの子何言ってるの!?って言いたそうな顔をして目を見開いているし、ミオラームの護衛として着いて来ているSランク冒険者のフィリアも何も言わずに眉間に皴を寄せて難しそうな顔をしていた。
そして……、冒険者ギルド職員のエレノアはと言うと……

「ミオラーム様っ!?何を言うてはるん?……、いきなり自分の事をメスガキだなんて名乗ってそういうの良くないんよっ!」
「良くない……?あ、そういえばスイ様が言ってましたわね、偉い人は自分を偉いと自慢しないと、これは失礼致しましたわ?やり直させて頂きます」
「え、あのそういう事じゃ無いんよ、メスガキと言うのはですね……」
「ん?言葉の意味は分からりませんが、良い意味なのでしょう?だから良いのですっ!」
「エレノアさん、ミオはこういう子だから出来ればそのままにしといてあげて……?」

 スイはいったい何をミオラームに教えているのか……。
相手は南東の大国の賢王だから、本当の意味が分かったら首を飛ばされてしまっても文句は言えないだろう。

「改めまして、私は南東の大国マーシェンスの王、賢王ミオラーム・マーシェンスですわっ!この度は私の護衛を引き受けて頂けた事感謝致します、特にレース様……、あなたにお守り頂けるなんて嬉しすぎて舞い上がってしまいそうですわっ!」
「舞い上がってって何を言ってるの?」
「レース?、ミオラーム様に何をしたの?」
「……思い当たる事が無いから分からない」
「酷いですわレース様……、王位を継いで以降、徐々に自分が自分で無くなっていく感覚があった状態で自分を失いつつあった私に、最終的に暴走し決闘までしてしまったとはいえ、身を挺して守り正気に戻してくれた、心の底から思いを寄せているお方ですわっ!」

 ダートの目線が……、こちらを射抜くように鋭い。
決闘の事に関しては伝えてはあったけど、まさかミオラームからそんな思いを向けられている何て思わなかったから、反応に困ってしまう。

「……ミオラーム、気持ちは嬉しいけどぼくにはもうダートがいるから」
「でも、あなたは王族ですから妻の一人や二人いて当たり前でしょう?」
「そうかもしれないけど、ぼくの隣には彼女がいればそれでいいよ」
「誠実ですのね、私そういう所ますます気に入りましたわぁっ!」
「ミオ、そろそろ本題に入らないと何時までも本題に入れないんだけど?」

 今度は耳まで赤くしたダートがぼくの肩を両手を使って殴って来るけど、何かしてしまったのだろうか。
そんな事を思っていると、フィリアがミオラームの頭を手で鷲掴みにして、表情も変えずに力を入れる。

「痛い痛いっ!痛いですわフィーっ!」
「ならちゃんと話を進める努力をしないとダメよ?」
「分かりました、分かりましたですわぁっ!」
「あの……、取り合えず依頼の話を進めて大丈夫なんかな」
「えぇ、お願いね、私達は適当な所に座るから」

 フィリアは何故かぼくの対面の位置に座ると、ミオラームがその膝の上に座る。
椅子が沢山あるんだから他の所に座ればいいのにと思っていると、フィリアの表情がとても満足そうに緩んでいるからこれでいいのかもしれない。
……久しぶりに会ったから忘れてたけど、この人は幼い子供の世話をするのが大好きだった筈だから、今もそれが変わっていないんだと思う。

「……では、皆様の準備が出来たようなので説明を致しますね、もし途中で疑問に思った事等がありましたらいつでも仰ってください」
「分かりましたわっ!」
「ミオ……、あなたは護衛側なのだから聞かれたら応える側」
「そうだったのだわ……、では何でも聞いて欲しいのだわっ!特にレース様っ!」

 ……何て言うかめんどくさい、何でこの子はそんなにぼくの事を気に入ってしまっているのか。
問題が起きたら嫌だから、依頼中は極力距離を取った方がいいのかもしれない。
それにダートが不安になるだろうし……

「レースは依頼中ミオラーム様の近くにいてあげてね?」
「……え?」
「その方が守りやすいと思うの、だから嫌だと思うけどお願い」

 耳元でそう呟いてくるダートに思わず驚いてしまう。
彼女の事だから嫌がると思っていたんだけど……

「出来れば私語は止めて欲しいんよ……」
「あ、ごめんなさい」
「では……、説明となりますがこの度の依頼はメセリーの王である、魔王ソフィア・メセリー様から、現在開拓中である辺境の森に、マーシェンスの魔王ミオラーム・マーシェンス様が視察に行くとの事でお三方に護衛依頼を受けて頂く事になりました、ここまでで何かありますか?」
「なら聞きたいのだけど、何故レースがこの依頼を受けている?」
「はい、レース様は冒険者になったばかりなんけど、ギルド長と栄花副団長の許可の元実力に関してはCランク以上の者があると判断され、Bランクへの昇格する権利を得る為に参加する事になりました、他には誰かありますか?」

 エレノアがぼく達を見るけど、誰も手を上げて無いのを見て再び口を開く。

「でしたら続けさせて頂きます、ミオラーム様が行かれる場所は森の奥地であり、そこでは現在魔族と呼ばれる我々に近い知能を持った種族と、異業種と呼ばれる異常な進化を遂げたモンスターが確認されております、それ等の脅威から護衛するのがこの度の依頼となります」
「エレノア様、私からも一つ言いたい事があるのですけど、大丈夫かしら?」
「ミオラーム様、どうしたんですか?」
「異常種の件なのですが、これに関しては私の国であるマーシェンスが関係しておりますて、今は既に追い出し国外に追放したのですけど、Sランク冒険者【黎明】マスカレイド・ハルサーが行った魔導具と生物の融合実験とと言う物がありまして、二つを合わせる事で魔科学兵器以上の戦力を得ようとして……」

……という事はぼくがダートに出会って直ぐの時に出会った、あの異常種もその被害に合った生物なのだろうか。
それを踏まえて姿を思い出すと、あの二本足で立ち、両手には長く鋭い鉤爪を持ったトカゲのような見た目に、尻尾に蛇の顔を持った存在は、明らかに一般的に知られる異常種と比べても異様でしかない。
マスカレイドはいったい何処まで禁忌を犯せば気が済むのだろうかと、彼の行いに理解が出来ない自分がいるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

処理中です...