治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

文字の大きさ
上 下
252 / 579
第七章 変わりすぎた日常

4話 限界への至り方

しおりを挟む

 セシリアが遅い朝食を食べている間に、出発の準備もすっかり整っていたので、早速、大国ゼフィランスに向かうコトを告げる。

 とにかく、アゼリア王国の権力が届く範囲から、逃げないとね
 思い入れも何にもない、あの国の為に、もう、あんな苦しい思いしたくないし

 グレンは少しだけ微妙な顔をしたが、何も言わずに頷いて、今までセシリアが使っていた椅子とテーブルを馬車の中にしまい、御者台へと向かう。

 お腹が、ポテポテコロコロした感じになったレオと、グリフォンの雛
 私の周りを走る姿、なんか可愛くて、癒されるわぁ~……

 ほっこりしているセシリアの視線の先で、ルリは、ちょっと首を傾げてから、楽しそうに走り回っていたレオとグリフォンの雛を捕獲する。

 「アタシは、こいつら連れて先に入ってるよ…リアもユナも、さっさとはいっといで」

 ルリはそう言って、捕まえた2人を左右の腕に抱えて、馬車の中に入っていた。

 うふふふ……おチビちゃん達も、馬車に入ったコトだし、私達も入りますか

 「それじゃ、私達も馬車に入ろうか、ユナ」

 「うん」

 ユナと手を繋ぎ、セシリアは楽し気に馬車に乗るのだった。
 全員が馬車に乗り、忘れ物が無いコトを確認し、グレンは馬車を出発させた。

 「あっ…動き始めた……たぶん、この馬車って、それなりに良いモノなんだろうけど、けっこう振動がきついよねぇ………」

 セシリアの言葉に、ルリが首を傾げる。

 「こんなモンじゃないのかい?…アタシが檻に入れられて乗せられたモノはもっとガタガタいってたけど?」

 「う~ん……ユナは記憶が無いから…わからないなぁ……」
 
 などと話している間に、レオとグリフォンの雛は、セシリアが寄りかかるのに使っていたクッションのひとつに、ひっつい2人で眠っていた。

 「あらあら……もう、ねむっちゃったのねぇ~…ふふふふ…可愛いわぁ~…」

 異種族だけど、兄弟みたいに育ってくれるかなぁ~…
 それにしても、はたから観たアレは、いっちゃなんだけど

 かなり、面白かったなぁ……はぁ~……
 この世界って、ラノベあるある的に、ろくな娯楽が無いからねぇ……

 ずぅ~っと、つらく苦しい生活だったけど、今は自由なんだから
 これからの今生は、豊かなスローライフを目指すわよ

 勿論、それには豊かな食生活も欠かせないわ
 大国…それも帝国と付く強国なら、色々な作物の種とかもあるだろうし

 辺境に行く前に、色々と仕入れないとねぇ………
 香辛料に、作物の種、出来れば薬草の種も欲しいわねぇ

 下手すっと、お金よりも、物々交換が主流のところもあるだろうしね
 ……っと、今日こそは、グレンに金貨とかの価値を聞かないと

 たしか、デュバインが崩したお金も入れたって言ってたけど
 何処にいれたのかなぁ?

 次の休憩の時にでも、探して聞かないとね
 ああ、あと、聞こうと思っていたコト思い出したわ

 「あっ…そうだ…ルリ、聞こうと思っていたんだけど、昨日のお肉とか、どうしてんの?」

 「うん?どうしてんの?ってはどういう意味だい?」

 「いや、だって…魔道具の冷凍庫とか無いでしょ?あのままだったら、腐っちゃうでしょ?」

 セシリアの説明に、ルリがなるほどと言う表情で頷く。

 「ああ、そういう意味かい……それなら、ほら…あの一角に積み込んで、アタシが《時止め》の魔法をかけておいたよ」

 その言葉で、ルリが特殊な魔獣であるコトを、改めて知る。
 同時に、させなくて良い魔力の消費をさせたことに罪悪感を感じる。

 なんと言っても、今のルリは、極度な栄養失調に魔力だって不安定た妊娠中なのだから。
 できるなら、出産した後、身体が癒えるまで、無理をさせたくないと思ったいただけに、自分の失態に頭痛を覚えつつ言う。

 「えっとね……その……アイテムボックスあるんだけど」

 セシリアの言葉に、バッと振り返ったルリが言う。

 「本当に?」

 「うん…この腕輪がアイテムボックス…あと、マジックポーチもあるよ」

 私の言葉に、ルリは脱力して言う。

 「そういうのは、早く言って欲しかったわぁ……アイテムボックスやマジックポーチがあるなら、アタシが無理して《時止め》使わなくてよかったんじゃない………」

 クテっとしてみせるルリに、セシリアは腰に着けなおしたばかりのマジックポーチをはずして言う。

 「なんなら、マジックポーチ、ルリが持つ?」

 セシリアの言葉に、ちょっと悩む素振りをみせてから、ルリは首を振って言う。

 「いいや、それだったら、そのマジックポーチはユナに持たせな……アタシは狩りをするから、持っているのにむかないよ」

 「ああ…そっか……それじゃ、このマジックポーチはユナが持っててね」

 昨日の魔獣も、ルリが獲ったって言ってたっけ
 解体されていたから、どんな魔獣だったか知らないけど

 たぶん、聞かない方が良いよね……
 正体を知って食べられなくなるのはイヤだもん

 「はい……ユナが持つね………ルリお姉ちゃん、マジックポーチに入れるから、もう《時止め》をはずして良いよぉ…魔力を食うんでしょ」

 「ああ、助かるよ……流石に、ずっと《時止め》を維持すると、魔力が減るからねぇ……こんなに、弱った身体じゃなきゃぁ……たいしたコトないんだけどねぇ……はぁ~…」

 ルリが《時止め》を解除したと同時に、ユナが壷などに入ったモノを次々としまう。
 そして、今着ないような衣類など、直ぐ使わないモノを次々とマジックポーチに入れて行く。

 保存食や水の壷なども、すべてマジックポーチの中に消え、馬車の中が広くなったコトで、セシリアはちょっと落ち込む。

 嗚呼…いくらテンパリ状態だからって、気付こうよ私
 最初からこうしたら、もっと馬車の中を広く使えたんだよねぇ

 「ふふふふ…随分と広くなったねぇ……これなら、アタシも本体の姿なっても良いねぇ…昨日、リアが毛皮を被っても寒そうに寝てたからね……本体で添い寝してやれるよ」

 ルリの言葉に、セシリアは内心でちょっとウホッとする。

 うわぁ~…モフモフのルリの添い寝……凄く楽しみぃ~……うふふふ

 猫型魔獣のルリに、もふりついて寝る夢想にちょっとうっとりするセシリアに、ルリが尋ねる。

 「そう言えば、あの『隠蔽結界』とかいうヤツ解いたのかい?」

 ルリの言葉に、セシリアは馬車の天井の上を視る。

 あははは………張ったまま忘れていたわ………どうしようかなぁ?
 このままでも、大丈夫だとは思うけど…ここは、それとなくルリに聞いてみよう

 「あっ…張ったままだったわ……でも…このままでも支障ないから良いかな?」

 セシリアの言葉に、ルリは頭痛を覚えたようにこめかみに指先をあてていう。

 「あるに決まっているだろう……リアは、弱っているんだよ」

 と、静かな叱責に、肩を竦め、ペロッと舌を出し、てへぺろをしつつ、隠蔽結界を解除するのだった。

 今の私がやっても、可愛くないかもだけど、てへぺろしかないわ
 あ~あ…ルリに怒られちゃった


 







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...