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第七章 変わりすぎた日常

2話 残念な魔王

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 どうしてここに魔王がいるのだろうか、師匠と暮らしている時に何度か連れ帰って来た時があるから顔とかは知っている。
それにあの綺麗な水色の髪と瞳にお洒落な眼鏡見間違う事無く、メセリーの王であり師匠の弟子という名の被害者【魔王 ソフィア・メセリー】だ。
彼女とは何度か話した事もあるけど……、このタイミングで会う事になる何て思ってもいなかった。
出来ればこのまま気付かれる事無く二階に行きたいけど……

「「あっ」」

 目が合ってしまった、一番気付かれたくないタイミングで魔王と目が合ってしまった。
出来れば気付かれる事無く二階へとダートと二人で逃げたかったけど、魔王から逃げる事は出来なかったみたい。

「レ、レースさぁん!やぁっと帰って来たんですねぇ!?」
「あら、レースちゃん帰って来たのねぇ?心配してたのよ?」

 二人の声を聞いて、診療所に来ている患者さん達がぼくの方を見るけど……、アキラさん達はどうやら今はいないみたいで何とも寂しい気がする。

「すいません、色々とあって戻るのが遅くなりました……、そういえばアキラさん達がいないみたいですけど」
「栄花の人達ねぇ?、彼等なら本職の方が忙しくなったらしくて暫く留守にするそうよ?」
「あぁ……」

 確かにあの一件以来、カエデも栄花騎士団の仕事が忙しいみたいで姿を見ていない。
何でもマスカレイドが言っていた【南東の大国マーシェンス】周辺の国に潜伏するという発言をヒントに捜索をしているらしいけど、アキラさん達がいないという事は彼等にも団長から命令が下ったのだろう。

「それならスイは?、ダートからぼくが居ない間診療所で働いてくれるって聞いたんだけど」
「あぁあの子ねぇ?、治癒術の腕は確かに優秀だったけど注射は上手くできないし、治癒術以外の基本的な技術が独学だったせいもあるのか滅茶苦茶で酷かったから、私の家のレースちゃんの部屋にもある治癒術師の基礎に関する本を渡して教育してるのよぉ」
「あっ……」
「でねぇ?、人体の基礎を教える為に一度手を握って貰って内側から破壊した後に治癒術で治すって事を繰り返してたら、可愛らしい悲鳴上げちゃってとっても可愛かったわぁ」
「お義母様何やってるんですか?それにこの綺麗な女の人はもしかして……」

 ぼくがそうやって治癒術を教わったりして来たから当時はこれが普通だと思っていたけど、カエデに教えたりしている内に、これは普通じゃないと気付けた。
正直、普通の人なら麻酔無しで身体の内側を破壊されたら気が狂う程の痛みがあるだろうからやるべきものじゃないだろう。
カエデには、やりたいと言われたからやったけどね……

「大事な治癒術の教育よぉ……、あら?そういえばダーちゃんはこの子に会った事無かったわねぇ、ほら自己紹介してソフィちゃん」
「あ、はい、私はこの国の王【魔王ソフィア・メセリー】と申します、ダート様の事はカルディア様から何度もお話しを聞いております」
「やっぱり魔王様!?何で魔王様がここにいらっしゃるのですか!?」
「それはですね……、レースさんがストラフィリアへと連れて行かれた後カルディア様が我を忘れたように怒り狂い、国境を越えて突撃しようとしたりしたので何とか頑張って止めた結果……『ならレースちゃんが帰って来るまでの間、診療所で働きなさい』と言われてしまいまして、公務を何とか朝と夜の間で終わらせては直ぐにここに通う生活……、私、私もう嫌だよぉ!王城のお部屋の中で本に囲まれて、紅茶の香りを楽しみながらゆっくり休みたいよぉ!」
「あら?、そういうけどソフィちゃんがこの都市にいるのは視察の為でしょう?」

 都市?ここは町だった筈だけど……、聞き間違いだろうかそれに視察ってぼくがいない間に一体何が?

「レースちゃん、考えが顔に出てるけど詳しくはソフィーちゃんが答えてくれると思うから私は仕事に戻るわねぇ?、患者さんを放置は良くないでしょ」
「あぁうん、ありがとう……」
「今日は私が全部やっとくから、レースちゃん達はソフィちゃんと上でゆっくりしててちょうだい」
「ありがとうございますお義母様」

 師匠が心器の鉄扇を広げて優雅な足取りで患者達の元へ行くと、多分診察の効果がある治癒術を使ったのだろう。
周囲の人達に魔力を送ると恐ろしい速度で同調させて一瞬で治療を終えてしまった。
そんな光景を見ながら三人で二階に上がると懐かしいリビングとかが見えて安心してしまうけど、三階への階段が増えていたりしてダリアの部屋とかが出来たんだなって気持ちになる。
でも……、これでぼくとダートの部屋が繋がっているのかと思うと夜どんな気持ちで寝ればいいのか分からない、朝起きたらまた腕が変な方向に曲がっているのだろうか、それならまだいいけどもしかしたら折れてしまうかもしれない。
後は頭を何故か腕の上に置かれた結果、感覚が無いあの腕が無くなってしまったのではと感じる嫌な不快感を味わう事になったりするのかもと思うと夜が不安だ。

「レース?何か今迄に無い位難しい顔してるけどどうしたの?」
「あ、いや、色々と考え事してただけだから大丈夫だよ、その何ていうか辺境の町の事を師匠が都市と呼んでたりとか、ソフィアさんが視察に来てるとか状況が呑み込めなくて……」
「……それは確かにそうかも、私がこの前一度戻って来た時も何だか妙に人が多かったりお店が増えたりしてて凄い違和感があったもの」

 ……上手く誤魔化せたようで安心するけどこれが顔に出ないように必死に我慢する。
ただ、そんなぼくの方を見て二人が変な生き物を見るかのような顔をしているけど、多分今のぼくは凄い表情をしているのかもしれない。

「えっと、苦悶に満ちたような顔が凄い気になるけど見なかった事にしますが、レースさん達はここが【王室属領:辺境開拓都市クイスト】に先々月程前から変わったのですよっ!」
「……王室属領?」
「あら、分かりませんか?、えっとですね、私が直接管理する領地になったという事です、本来であれば領主を変えたくなかったのですが、ここに冒険者ギルドや教会に商人ギルド等という都市や街に必ずなくては行けない物を建てようとしたところ、何故か冒険者崩れの荒くれ者達を連れて私の元へ脅しに来るという意味の分からない事をされたので、サクッと拘束して斬首した後に彼の一族の中で比較的まともな人を新領主にしましたが……、都市を治められる器では無いので頂いてしまいました」
「頂いたってソフィアさんあなた……」
「……少しだけ待ってください、下に声が漏れないようにするので」

 ソフィアの全身に魔力の光が灯ったかと思うとそれが二階全体を覆っていく。
すると下から聞こえていた、患者さん達や師匠の気配が無くなりぼく達の呼吸の音しか聞こえなくなる。

「これで良しっと……、さて聞いてくださいよぉっ!だってレースさんしょうがいんですよぉっ!西の大国【トレーディアス】との約束でミント王女とその旦那様のジラルドさんがこの都市に滞在する様になってしまいましたし、しかも旦那様に関してはここで冒険者ギルドの長をやるっていうんですよっ!?、それに来週には南東の大国【マーシェンス】から【賢王ミオラーム・マーシェンス】様が五大国会議でいきなり『辺境の都市ってどういう所か気になるから是非遊びに行かせてちょうだいっ!』って言いだした結果、来週に来ることになっちゃったし、そんな色んな意味でヤバい状況の時に新領主にここの管理お願い何て言ったら、間違いなく夜逃げされちゃうんですぅっ!そうしたら私の仕事増えて更に忙しくて本が読めなくなっちゃうですぅっ!そんなの嫌なのぉっ!」
「えっ!?レース、魔王様の様子が急におかしくなったけど大丈夫なの!?」
「……あぁ、いつもの事だからほっといてあげて、騒いで吐き出せば勝手に落ち着くから」
「本当は新領主さん、凄い能力高くて都市を任せられる程に優秀だけど、そんな人を潰したくないのぉっ!むしろこんなに能力高いなら首都に来てよぉっ!王城勤めしてあわよくば私の旦那様になって欲しいのにぃっ!私カルディア様のせいで婚期逃して絶賛行き遅れなのっ!、あわよくば私の事を良く知ってるレースくんと……とか考えてたら、ダートさんっていう可愛いお嫁さん貰っちゃうし辛いよぉっ!」
「……あぁ、うん相変わらず残念な人だね」

……あぁ、久しぶりにこの人と話して思うけど、普段はお淑やかで知的な美人なのにどうして素が出るになるとここまで残念な人になるのだろうか。
それに相変わらず凄い早口で殆んど何を言ってるのか殆んど分からなかったけど、ダートの雰囲気が一瞬怖くなったから凄い事を言ったのかもしれない、そんな事を思っていると『それに来週になったら、ルミィ王女を留学させたいからお願いします何て新しい覇王に言われて急に決まるし勘弁してよぉっ!』と半泣き状態で叫ぶ魔王ソフィアを見て、ぼく達は何とも言えない顔をするのだった。
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