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第七章 変わりすぎた日常

1話 懐かしの故郷へ

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 先王ヴォルフガングが無くなってから気付いたらもう三ヶ月も経っていた。
その間にあった事と言えば一言で言い表せられない程だし、ぼくよりもミュラッカの方が詳しいだろう。
何故ならぼく達はというと与えられた部屋で暮らしつつ、ミュラッカの話し相手になったり、場内の騎士や貴族が忙しい為に誰にも構って貰えなくなってしまったルミィのお世話をするくらいしかない。

「とはいえ、そろそろ町に帰りたいな」

 やはりというべきか、この国では珍しい女性の王位継承者というのが原因らしいけど、その程度の事で国内が荒れるなんて面倒くさいことやめてほしいと思う。
何ていうか性別程度でくだらない……

「そうだと思ってお兄様に大事な話何だけどいいかしら?」
「いいかしらも何も言いたいからここに来てぼく達とお茶を飲んでるんでしょ?話してみてよ」
「ありがとうレース兄様、そういう所ほんと大好きよ」
「はいはい」
「何か扱いが雑ね、……拗ねるわよ?って言いたいけど今はこっちの話が大事だから話すけど、ルミィをね?南西の大国【メセリー】に留学させようと思うの、あそこはお母様も子供の頃治癒術を学ぶ為に留学してたから丁度良いかなって、でもね?その為の滞在場所が決まらなくて……」

 つまりルミィをぼく達の家で預かって貰えないかと言いたいのかなって思うけど、本当にあそこでいいのだろうか。
仮にもこの国の王位継承者の一人でもある末の妹なのだから、貴族の屋敷とか然るべき場所の方が安全だと思うけど……

「良いんじゃないレース、この前私が一度帰った時に家の増築依頼をマローネさんを通してお願いしてきたから、そろそろ3階部分も出来てると思うし丁度良いタイミングだと思うよ」
「それは分かるんだけど、一国のお姫様をただの家に住まわせるっていいのかなって本来なら貴族の屋敷とかに滞在させるべきじゃないのかなって」
「そこは気にしないでいいと思うわ?だってレース兄様はこの国の王族だもの、信頼出来ない他所の国の交流が無い貴族よりも安心だもの、だからルミィを預かって貰えないかしら」
「……そこまで言うならいいけど、どれくらいにメセリーに送る予定なの?」
「大体一週間後位ね、今はシン様のおかげで私の身の安全が保障されてるもの、その間に色々と強引にでもやる事を終わらせたいのよ」

 シンのおかげで身の安全が保障されていると言うけど大体先月位だっただろうか。
ミュラッカが王城内を歩いている時に反意を抱いた騎士に襲撃された際に彼に助けられた結果、覇王ミュラッカには恐ろしい程に強い力を持つ近衛騎士がいると噂が広がり、それ以降襲撃される事が無くなったらしい。

「やる事って、ストラフィリアの王としてだよね?ミュラッカちゃんもうずっと休んでないけど大丈夫なの?」
「ダート義姉様、私は全然大丈夫じゃないわ……、出来るなら自分の部屋に引きこもってゆっくりシン様と二人きりの時間を過ごしたいもの、でも今はそんな事をしている時間じゃないから国内の情勢が安定していない内に行動を起こしておくのよ」
「それって大丈夫なの?」
「これも大丈夫じゃないわね、けどこのタイミングだからこそ無理な法案とかも通ったりするのよ、例えばこの国だと実質的に不可能に近い『孤児院の建設』や『貧民の生活保護』等とかね……、前者はお金が有り余っている有力貴族達が財力という力を誇示するという大義名分の元幾らでも出資をさせる事が出来るようになるわね、でも後者の場合は貧民の基準が曖昧な状態で通してしまうと、外国籍の避難民さえ保護しなければいけなくなるから、この場合はストラフィリアの国民のみにしなければいけないわね、だってガイスト姉様のような犠牲者をこれ以上出す訳には行かないもの」
「そこらへんの事はぼく達には分からないから頭の良い人達に任せるよ」

 ミュラッカが覇王になると決めた時に話してくれた事を実現させる為に必要な事だと思うけど、本当に大丈夫なのだろうか。
この国は力がある人が偉く、力が無い人は人権すら守られはしない……、父であるヴォルフガングが変えようとして出来なかった事が本当に出来るのかと思ってしまうけど、彼女なら本当に何代かけてでもやり切るのだろう。

「任せるって言われても、レース兄様とダート義姉様の間に男児が産まれたらこの国に預ける事になるのよ?、もし私が子を成さずに死んでしまった場合王位を継ぐのはルミィになるだろうけど、ルミィも何らかの要因で亡くなってしまったら、あなた達の子がこの国の王になるのだからそこの所自覚して貰わないと困るわ」
「……それは分かってるけど、シンとの間に子供が出来て世継ぎが産まれたら良いんじゃない?」
「確かに、それなら今夜のうちに既成事実を作っておくしかないわね、そう言った経験は無いけど彼は私の身体が好きだって馬車の中で言ってたし、定期的に私の血を飲んでるからもう私がいなきゃ生きていけないと思うからきっと上手く行くわっ!」
「……ミュラッカちゃん?」
「今夜が楽しみね……、待っててねシン様、何かを悩んでいるみたいだけどそんなの私達の間にある愛の前では小さい問題だわっ!」
「……考え込んで自分の世界に入ると会話が出来なくなるのほんと兄妹って感じね」

 確かにぼくも治癒術の新術を開発している時や、魔術の修行をしている時とかミュラッカと同じようになっている気がするから気を付けないといけない気がする。

「という事で、レース兄様達はどれくらいにあちらに帰るの?準備の事もあると思うし出来れば早い方が良いと思うのだけど?例えば今日とかっ!」
「今日って……」
「だって、私とレース兄様の部屋は離れてるとは言え、夜に何か聞こえたとか言われたら嫌だものっ!」
「あぁ……、うんじゃあ、大事な荷物はダートとぼくの空間収納内に入ってるから直ぐに帰らせて貰うよ、でもそうなるとダリアはどうするの?置いてくのも気が引けるというか」
「ダリアなら、ルミィと一緒にそっちに送るようにするからそれまではこっちで、ルミィと遊んでてもらうから大丈夫よ」

 確かにダリアはルミィに凄い気に入られているから丁度良いのかもしれない。
ここ最近ルミィを構うのがぼく達しかいないから、全員が帰ったら妹に寂しい思いをさせてしまうだろうから、ダリアには頑張って貰おう。

「って事で他に話が無いなら帰るけど大丈夫?」
「だいじょ……、あっ!もしメセリーで【魔王ソフィア・メセリー】に会う事があったら、ルミィの留学を受け入れてくれた事に関して、私の変わりにお礼を言っといてくれると助かるわ」
「それ位ならいいけど……じゃあダート行こうか、久しぶりのぼく達の家に」
「うん、やっと私達の家に帰れるのね……、あ、そうだ事後報告何だけど私達の部屋の間の壁を壊して貰って部屋を一つにする事にしたからこれから寝るとは一緒だからね」
「え?なんで?」
「じゃあミュラッカちゃんっ!私達帰るねっ!」

……今ダートは何を言ったのだろうか、理解出来ずに思わず聞き返してしまったけど彼女は無言でぼくの腕を掴んで立ち上がらせると引きずるように部屋を出て行く。
そしてそのまま王城の門を抜け、冒険者ギルドまで行くと転移の魔導具を使って栄花に行き、副団長室の扉から診療所の倉庫へと転移する。
何だろう、この強引な移動の仕方にぼく達が出会ったばかりの腹ペコ少女を思い出してしまうけど、出来れば腕が痛いからもう少し手加減をして欲しかったなって感じてしまう。
そんな事を思いながら倉庫から診療所に行くと、あの時と変わっていない懐かしい風景が広がっていて、帰って来れたんだなっていう懐かしい気持ちになり感動してしまったけど……、何でぼくの診療所で師匠と看護服を着た【魔王ソフィア・メセリー】が働いているのだろうかと、言う余りにも日常から乖離しすぎている非日常に困惑するのだった。
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