上 下
244 / 536
第六章 明かされた出自と失われた時間

50話 願いを叶えてやる

しおりを挟む
 シンの喉をミュラッカの血が通る度に彼女の身体が反応するように痙攣する。
大丈夫なのかと心配になるけど、今はダートだけではやはり抑えきれそうにないから急いでぼくも前に出ると……

「……小僧、お前さえいなければこんな面倒な事にならないですんだのにな」
「面倒な事ってレースが何をしたというの?」

 全身に深い傷を負いながらも戦闘と続けて居るトキを無視する様にマスカレイドがこちらに歩いてくる。
いったいどうしてと警戒するけど、大きな音を立てて心器の魔導工房が崩れて行く異様な光景に思考が追い付かない。

「グロウフェレスが撤退をしたというから急いで向かって見たら、ガイストという優秀な戦力がここまで深手を負っており応急処置をしたが、味方の迎えを待っている間にこの状況だ、これを面倒と言わずに何て言えばいい」
「マスカレイド達の事情でしょ?ぼく達には関係ない……」
「お前は暫く見ない間に自分の意志をそうやって口にして行動するようになり、実際に俺から見ても脅威に感じる程に成長をした……、これは俺の計算外だし成長という無限の可能性に驚きを隠せない」
「えっと……?」
「だからこそ小僧いやレース、お前を倒すべき敵として認識する事にしたとはいえ、現に俺が持ち込んだ魔導具の獣達を作る為の素材は使い果たした……、忌々しい事にあのドワーフのせいでな、だからこそ魔導工房から核を抜いてここまで来たという訳だ」

 マスカレイドの腕には巨大な大砲のような筒が抱えられていて、砲身の中には白と黒い光が渦巻いている。
そうしている間に全ての獣を破壊しつくしたトキが両手に黒い戦斧を持ってこっちに向かって突撃するが……

「がっ!?」
「邪魔だ土臭いドワーフ風情が、俺の作品を許可なく武器に変えた罪は重いぞ」
「トキさんっ!?」

 飛び掛かって来たトキを魔導工房の核である砲身から放たれた魔力の塊で撃ち落とし意識を刈り取ると再びこっちを見る。
その姿はぼくの知るマスカレイドでは無く、顔に感情が篭り本当にぼく達を忌々しく思っている事が嫌でも伝わる程だ。

「おかげで俺の最高傑作である魔導人形達を作り出す事が出来なくなったのは計算外だ、だからこそ俺の計算を越えた行動を起こしたレースとダートに聞きたい、後そこのお前等と似た魔力を持ったお前もだ」
「……聞いて答えるとでも?」
「答えたくなければ答えなければいい、ダート、お前は元の世界に戻りたいと思わないか?」
「あなたは何を言ってるの?」
「俺はお前を元の世界に戻す事が出来る、お前が望むならレースも連れて故郷へと返してやろうと思うのだがどうだ?」

 ダートとダリアの表情が驚きに染まる。
それはそうだろう、元の世界に帰る事を二人は多分諦めていたと思うし、こういう魅力的な提案をされたら驚き戸惑うのも当然だ。

「私は……」
「さぁ俺の手を取れ、そうすればお前の本当の願いを叶えてやると約束しよう、この世界に慣れたとはいえ恋しい筈だ産まれた世界が、会いたいはずだお前の事を愛してくれていた両親に、そして共に暮らしたい筈だ愛しい家族と、考えても見ろお前が居なくなったことでお前の家族は大事な時間を失った、取り戻したいとは思わないか?あの頃の幸せを、失われた時間を取り戻し幸せになりたいとは思わないか?」
「ダート、耳を貸しちゃダメだっ!」
「ダ、母さんっ!」

 優しい口調でダートに語り掛けるマスカレイドを見ると胸の中で黒い感情が浮かんで来る。
おまえがそれを言うのかと、自分の欲を満たすためだけに彼女をこの世界に引きずり込んだおまえがどうしてそんな事を言えるのかと……

「俺ならお前がこの世界に来た時と同じ時間にあちらに帰してやれる、それはお前もだレース、お前も過去に戻りたいとは思わないか?今の能力を持ったままであの頃に戻れたらどうなると思う?お前は親に捨てられる事無く、ストラフィリアの第一王子として幸せな生活を送り何不自由ない環境で家族に愛されていた事だろう、そうして戻ったレースはこう思う訳だ『ぼくがあの頃失くした物はこんなに大切でかけがえの無い者だった』とっ!……、俺はお前のそんな大事な思い出になる筈だった失われた時間を取り戻す事が出来る」
「……そう」
「そこの小娘もだ、俺の見立てが間違えでなければルディーの手で産まれた二人の遺伝子を受け継いだ子供な筈、子であるのなら親の幸せを、親であるのなら子の未来を思うものだろう?、だがお前は母親から生まれた存在では無いから心のどこかでこう思っている筈だ『私は本当の娘じゃない』と、ならば俺がお前を二人の本当の娘にしてやる、世界とは面白い物で過去に戻って未来を変えても必ず二人はめぐり逢うだろう、その時に二人の間から生まれた愛の結晶にしてやる」
「おめぇ正気か?」
「あぁ正気だとも、何故なら俺は【黎明】の二つ名を持つマスカレイドだぞ?、常に新しき物を作り出すという事は過去を知るという事だ……、だが残念な事に少しだけ力が及ばない事があってな、だからお前たちにこうやって話した事でお願いしたい事がある、どうかお前たちの未来の為に俺に力を貸して助けてくれないか?」

 失われた時間は帰って来ないから今を一生懸命生きなければいけないんだ。
それなのに過去に戻ってやり直す?何を言っているのだろうかマスカレイドは……、でもとても優しい口調で言う彼を見てると信じていいのかもしれないと気持ちになりそうになる。
おかしい、敵の筈なのにどうして……、それに何だろう聞いてると心地よくて引き込まれそうになりそうで……、この人になら付いて行っても大丈夫だって気持ちが湧いて来て……

「レースさん、ダート義姉様、ダリアさんっ!マスカレイドの言葉に耳を傾けないでっ!引き込まれて戻れなくなるっ!戻って来て!」
「ダリアちゃん!、ダメ行かないでっ!」

……その時だった、カエデが今迄聞いて事が無いような大きな悲鳴の用な声を出してぼく達に抱き着いて来る。
それと同時にダリアの方もルミィが手を引っ張って大声を出していた。
ハッとしてぼく達は顔を上げ前を見るとそこには、何時の間に現れたのかガイストを抱き上げて何処かへ運ぼうとしているケイスニルの姿と、髪を鮮やかな赤に染めたシンが顔色の悪いミュラッカを片手で抱き寄せながら心器の剣をマスカレイドに向けて構えている姿が映るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...