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第六章 明かされた出自と失われた時間

45話 最期の言葉

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 まるで人の形をしたモンスターのような見た目に一瞬治癒術に使う魔力が切れそうになるけど、今は戦闘中だと気を引き締める。
実の姉にあたる人物だとはいえ、ここまで姿が変わったという事は母親がドラゴンに姿を変えてその身を食料としたのと何かの関係があるんだろうか。
もしかしたら人族とドラゴンとの間に産まれたから両方の特徴を併せ持っているのかも?、それに母を食す事で人化の術が使える事になったと言っていたから、普段は本当の姿を隠す為に使っているのかもしれない。

「もしかして、心器と精霊を扱う術を使う時は人化の術が使えない?」
「……この姿を見ただけでそこまで見破るとは素晴らしい観察眼じゃな、だが少しだけ違うのぅ、正解は精霊をその身に宿して一体となる時は使う事が出来ないじゃな、そして紅焔よっ!そのままヴォルフガングを拘束せよっ!あれさえ動かねば他の者等怖くはないっ!」

 ガイストの身体から炎の塊が離れるとヴォルフガングに纏わり付こうとする。
咄嗟に切り払い距離を取ろうとするが、切っ先に触れると同時に姿を一匹の小さなトカゲへと姿を変えて駆け上がると彼の着ている鎧の上に張り付くようにしがみ付き、全身を炎に包み込んでしまう。

「父様っ!、レース父様がっ!」
「大丈夫ぼくの治癒術で……、あっ」

 魔力の糸が精霊の炎に焼かれて切れてしまった。
……本来なら切れない筈なのに、やっぱり即席だから糸の強度が足りなかったのかもしれない。
ダメだ、このままだとヴォルフガングが殺されてしまう。

「安心するがいいぞ、我は父以外の血縁を殺す気は無いからのぅっ!、ヴォルフガングに罪あれど子には罪が無いのじゃからな……、だがこのままでは戦いが終わった後に武器を取り我に仇討ちに来るかもしれんからな……、圧倒的な力量差を見せて心を折って置こうでは無いかっ!」

 曇った鏡を服の袖で拭き綺麗にして、今度は自分の方に向けると……

「……それにこの程度でヴォルフガングが死ぬわけが無いからな、奥の手を出すなら今じゃろ?【鏡よ鏡、姿を映すは我の望みし姿なり、気高き母と同じドラゴンの身を我にっ!】」

 呪文を唱え終わると同時にガイストの身体が白く輝く鱗に覆われて行き、身体も大きく変化して行く。
そして背中には大きな翼が生え、頭部に至ってはトカゲのような顔に白い髪と赤い瞳とその姿はモンスターそのものだ。

「これはまさかドラゴン!?、しかもこの威圧感はグロウフェレスと戦った時に見た固体よりも遥かに強い……、兄様、義姉様、私達では到底叶う相手じゃないわ」
「レースっ!ミュラッカちゃんの言うようにここは一旦逃げよう!?」
「でもこのままじゃ、ヴォルフガングがっ!」

 二人に逃げるように言われるけどそんな事出来る訳がない、ヴォルフガング……、いや父がこのままだと殺されてしまう。
そんな事何が許される筈がない、でもミュラッカはともかくダートはぼくが逃げないと離れないだろうしどうすれば……

「ミュラッカの言う通りじゃ、死にとう無ければ離れているが良いっ!」
「ごめん、ぼくはヴォルフガングの事が心配だから行けない、逃げるなら二人で逃げて欲しい」
「……分かったそれなら私も残る、だってもうレースと離れたくないもの、レースだって私がこういう判断をするって分かってるよね?」
「うん、でも出来るならダートには安全な場所に行って欲しかった……、ミュラッカごめんっ!ぼく達はここに残るから行くなら一人で逃げてっ!」
「そんな事言われたら、逃げるなんて出来ないわよ」

 逃げようとしたミュラッカが戻って来ると、ヴォルフガングを包み込んでいた炎が再び、炎の塊に戻るとその身をドラゴンへと変えたガイストの元へと戻って行き、全身を赤く燃え上がらせ
その身を更に変化させて行く。
そして解放されたヴォルフガングは、焼け爛れた全身から煙を上げながら大剣を構えているけれど、どう見ても何時命が消えてしまってもおかしくない程の重傷だ。
早くぼくが使える治癒術で身体を作り直さなければ……

「……レース、俺の傷を治さないで良い、どっちにしろこの傷だ、治る前に命が尽きる方が早い」
「でも……、それじゃあ」
「良いんだ、これは俺の行いが招いた結果だからな、どうなろうと受け入れる準備は出来ている、それにだ、道を踏み外した娘を止めてやるのは親の責任であり、国を守るのは王としての責務だ……、だからこそ俺は今俺の出来る事をする、それにだ……、俺達が戦っている間に他の者がルミィ達をこの場から遠ざけてくれたようだからな、後はもう心残りは無い」
「父様……、いったい何をなさるつもりなの?」

 ヴォルフガングの手から心器が消えたかと思うと、周囲の雪を手元に集めて大剣を作り上げる。
それと同時にその身を炎を纏った魔竜としか言いようがない、更なる異形なドラゴンへと姿を変えたガイストが全身から炎を吹き出しながらぼく達の父を睨みつけて笑う。

「この場で心器を消すとは、戦う気も無くして死を選んだようじゃなっ!」
「そうだな、だがその前に別れの一言位言わせて貰うぞ、ミュラッカよ、お前を正式な王位継承者として認める、俺の亡き後の国はお前の自由にするがいい……」
「父様……?」
「レースよ、お前には歴代の覇王が代々継承し続けて来た心器【スノーフレーク】を死後譲り渡す、これは父親として今迄何もしてやれなかったが故の償いだ……、例えどのような事があったとしてもお前の側でこれからは見守らせて貰おう……、それにだ過去に心器を二つ持っていた人物がいたらしいぞ?何でもそいつは自分の心器を発言した後に他者から譲り受けたそうだ、つまりお前がそうなったらいいなという俺の理想の押し付けだな」
「……えぇ?」

 死に際にそんな理想を押し付けられても、正直どんな反応をすればいいのか分からないから反応に困ってしまう。
眼に涙を浮かべているミュラッカのように泣けばいいのだろうか、それとも勝手な事をするなと怒ればいいのだろうか……、こういう時どうすればいいのかな。

「……困ったような顔をしないでくれ反応に困る、だがそういう所が俺に似ているのは正直嬉しくもあるが、それでトラブルに巻き込まれないように気を付けろ、そしてダート、こんな息子だがこれから先宜しく頼む、そして孫の顔を見せてくれた事感謝するぞ」
「あ、はい……」
「ヴィーニに関しては、国外に追放するなりなんなり自由にするがいい、ルミィはそうだな、あれは大分我が儘な所があるから、出来れば海外に留学させて一度世界を見せろ、後は……ゴスペルに【お前はもう自由だ】と前覇王から命令だと伝えておいてくれ、以上だ……」

 何をそんなに清々しい顔をしているのだろうか、何でそんなに満たされた表情をしているのだろう。
ぼくにはその意味が理解出来ない、これから死ぬ人の感情が分からない。

「……長い遺言は終わったようじゃな、ではその命狩らせて貰うぞっ!」
「さぁフランメよ、どうせもう長くはない命、五大国の王たる真の意味を見せてやろう!」

……全身から炎を吹き出しながら大きなドラゴンの前脚がヴォルフガングへと向かって振り下ろされる。
衝撃でその場に留まる事が出来なくなったぼく達は勢いよく吹き飛ばされてしまうが、何とかまだ地表に顔を出している建物の屋根とかに掴まる事で態勢を整える事が出来た。
そしてぼく達がヴォルフガング達の方を見ると周囲の雪が完全に解け土が見えている風景の中で……【我が身に封じし神の力をここに開放する、神器解放:ディザスティア】という声が聞こえたと同時にその身を、ガイストと同じ大きさを持つ巨人へと変貌させると背中から数えきれない程の腕を生やして、それぞれの手に骨で出来た剣や槍等の武器を持つ化物へと姿を変えるのだった。
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