治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第六章 明かされた出自と失われた時間

間章 少し前の出来事 ダリア視点

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 部屋の外から騒がしい音がする、何かが砕ける音に火が燃え上がる音がする。

「ルミィ、ダリアあなた達はゴスペルと共に脱出してください」
「脱出だぁ?ヴィーニおめぇそれってどういう事だよ」
「目的を達成したからですよ、父上がここに来たという事は後は倒すだけなので、私は今から参戦してきます」
「お父様?お父様がいるの!?ルミィ会いたいっ!」

 ルミィが椅子から立ち上がると走って部屋の外に出ようとするけどヴィーニが前に立って動きを止める。
その瞬間、ずっと黙ったままだってゴスペルが珍しく焦った顔をしてルミィの手を掴むと……

「邪魔なのっ!ゴスペルは邪魔しないでっ!」
「え?えっ!?」

 俺の目の前で起きたのは見間違いだろうか……、あんなに小さいルミィの姿が一瞬ブレたかと思うとゴスペルが壁に向かって吹き飛ばされる。
受け身も取れずに全身を叩きつけられて苦しそうな声を出しながら、俺の方に戻って来ると何とも言えない顔をして俺を見つめて来る……、何だかその表情がレースに似ていて違和感を感じちまうけど、半分しか血が繋がっていないとはいえ同じ血を分けた兄弟だからどこか似てる所があってもおかしくはないと、自分の中で気持ちを納得させた。

「ゴスペルよぉ、いったい今何があったんだ?」
「……」
「だんまりかよ……」
「ゴスペルだけじゃ分からない、ダリアが話しかけたのは俺の中にいる、エスペランサ?シャーリィ?それともジャックかデュースかな、または……」
「お前だよお前、主人格に話しかけてんだよっ!今のお前は主人格様なんだろ?」

 必死に出ていこうとするルミィを止めるヴィーニを放置してめんどくさいこの男に問いかけるけど……、間違いなくこいつは態とやってやがる。

「そうか……、ルミィは俺と同じギフトと呼ばれる魔力特性持ちで過去に覇王ヴォルフガングが将来制御出来るようにと、国中で名のある武術や魔術等の使い手を王城に集め教育を施そうとしたんだけど、その結果勉強なんてしたくないと癇癪を起して大暴れした時に、訓練を積んでいないのに心器を顕現させその能力が発現すると共に能力限界に到達した、俺と同じ限界に至った器だよ」
「能力限界だぁ?……、何言ってんのか今一分からねぇけど取り合えず感情が昂ると強くなるって事は分かった、で?今にも出て行きそうだけどどうすんだよ」
「ダリアが説得してくれれば一緒に避難してくれる筈だ、ルミィは自分のお気に入りには甘い」
「お気に入りって、確かにこの国に来てからずっと着せ替え人形みたいにされて遊ばれて来たけど……、ふぅわぁったよ、ルミィっ!ヴィーニのいう事を聞くのは納得いかねぇがここはゴスペルと一緒に逃げるぞ?」
「ダリアちゃん?、でもルミィお父様の最後を見たいの、ルミィ分かるの今日でお父様は終わるの、これを見て?」

 ルミィの足元に魔法陣が浮かび上がったかと思うとパゴダ傘と呼ばれるお洒落な傘が顕現する。
それを手に取ると両手で器用にくるくると回しながら閉じるとそのまま横薙ぎにして何もない空間を切り裂いた。

「何なんだよこれは……」
「……ギフト【次元断】、距離を問わずに攻撃を可能にし縦の時間軸を切り裂いて未来を覗き込む能力、大暴れした時は多くの被害を出したけど、心器の能力で誰一人とて死ぬ事は無かった」
「能力って何だよ……」
「分からない、能力は本人が言わない限りは第三者はどういう物か知る事が出来ない……、それに心器の能力は所有者が【どうしたいのか】で最初の能力が決まり、次で【どうありたい】で二つ目の能力に目覚め、最後に【どうなりたい】のかで最後の能力を獲得する……、俺の場合は【自分の力で生き抜く力が欲しい】という思いで複数の人格を得る能力【多重人格】を得て、【福音を制御する】という思いから【思考加速】を得た、そして最後に【誰も傷つけたくない】という思いから【精神隔離】を身に宿したんだ」
「身に宿したってどういう事だよ……」

 それだとまるで自分の身体全体が心器だと言っているみたいで変な気がする。
俺はやった事無いから分からないけど常時顕現させる事とか可能なのか……?、そう思っているとゴスペルは自身を指差す。

「心器は体内ににある……、俺は生まれつき心臓が悪くて生きる為に特殊な魔導具を体内に入れていたんだけど、それが戦場で破損してしまった時に生きたいという思いから、体内に心器を初めて顕現させて以来ずっとここにあり続けている」
「そんなんありかよ……」
「実際にあるからこうして生きているし、俺は俺の心が折れない限り肉体が損傷する事は無いんだよ……、痛みはあるけどさ、さて切り裂かれた空間からそろそろ未来が見えるよ」

 空間から見えた未来は一言で言うと【領主の館の外で大剣を構えたヴォルフガングを、白い髪に赤い瞳を持った大きなドラゴンが全身から炎を巻き上げながら叩き潰す光景】だった。

「……見えた?ルミィはね?お父様が無くなるのはガイストお姉様より弱かったからしょうがない事だと思うの、でもね最後の挨拶だけはしたいって思うの、それっておかしい事?」
「おま、それってどういう事か分かってるのか?」
「分かってるの、だからルミィは行くの」
「待ちなさいルミィ、今あなたが行くと間違いなくあなたも死んでしまう、そんな事兄である私が許しません、必要とあれば実力行使させて頂きます」

 ヴィーニは腰に差している剣を抜くと、ルミィに向けて構える。
その眼は同様に揺れていて戦えるようには到底思えない……

「……ルミィは行くと死ぬの?」
「はい、あなたでは間違いなく死にます」
「ダリアちゃんは私が死ぬの嫌?悲しい?」
「嫌に決まってんだろっ!だから逃げるぞ?」
「……ダリアちゃんが言うなら行くの、ゴスペルいこ?」

……ルミィは心器の傘を消すとゴスペルに近づいて手を繋ぐ、そして俺の方にも手を伸ばすと『ダリアちゃんも手を繋いで?』と笑顔で見て来る。
こんな時に手を繋ぐ必要あるか?と思うけど、いう事聞かないと騒ぎ出しそうだからしょうがなく手を繋ぐ。
まさかこのまま仲良く両手を握って館の中を歩いて逃げるのか?こんな危険な中を?と思っていると、『ヴィーニ、俺達はお前の事が嫌いじゃなかったよ、手間のかかる弟というのは、兄としては愛おしいものだった、だからこれからお前を失う事が悲しいよ』というとルミィから手を放して、俺達を両腕で器用に抱き上げるとそのまま部屋の窓を蹴り破り最上階から外へと飛び出すのだった。
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