上 下
230 / 540
第六章 明かされた出自と失われた時間

38話 天狐

しおりを挟む
 口の中に牙が無いという事は上下に2本ずつあるらしい、吸血用の歯を抜いて差し歯にしたという事なのだろう。
とは言え種族特有の能力で血液を接種する事が出来ればどのような傷でさえ一瞬で感知すると言われているモンスターだった筈だから、血を吸っていないという事は事実何だと思けど……

「俺を殺すとは恐ろしい事を言うな……、レース、ダートお前らは術が解けた以上は他と違い問題無く動けるだろ、一緒に戦え」
「何処まで力になれるか分からないけどやってみるよ」
「任せて、私達三人でグロウフェレスを倒して早くヴィーニの所へ行こう」
「……アキラの弟子にしては反応が素直だな、トキっ!お前ももう動けるだろ、おまえはどうする?前線に出て戦うか?」
「さっきまで死にかけてた相手に何を言うんだい、あたいは姫ちゃんとミュラッカを担いでサリアが隠れてる所に行かせて貰うよ」

 トキがゆっくりと立ち上がると未だに動けないカエデに近づいて肩に担いで、ミュラッカの元へ行くけど彼女はそのままよろけて立ち上がって、何故かぼく達の方へと歩いてくる。

「私は大丈夫だからカエデ様の事をお願いするわ、重要な戦いに王族が参加しない何てありえないもの」
「……そうかい、ならあたい達は安全なところで待機させて貰うよ、頑張りなミュラッカ」
「言われなくても頑張るわよ、レース兄様とダート義姉様、それにシン様に任せっきり何てみっともないわ」
「ならお前も戦力に入れるが……、くれぐれも足を引っ張るなよ?」
「足なんて引っ張らないわ、最初から本気で行くから」

 トキがそのままサリアの隠れている樹の後ろに行くと、『何でこっちに来るのっ!?僕戦えないって!』と声が聞こえたけど、『うるさいねぇっ!戦えないなら弱ってるあたい等の面倒を見なっ!傭兵団の副団長ならそれ位出来んでしょっ!』と一喝されて以降、こっちに声が聞こえなくなったから彼女にカエデの事を任せても大丈夫だろう。

「何でサリアさんは戦わないのでしょうね、何度も言いますがこの中で一番実力があるのは彼女なのに、これでは私とあなた達の間で実力差が開きすぎて一方的です」
「戦いたくない人を無理矢理戦場に出すのは違うんじゃないかな……、それに一方的かどうか何て分からないよ、ぼく達はあなたを倒して急いでヴィーニ達の所へ行くから負けるのはグロウフェレスの方じゃないかな」
「いいますね人間、それなら是非やって見せてください」

 グロウフェレスが両手に持っている御札を地面にばら撒くと、そこから見た事もない異形の生物が現れる。
額に御札を付けて頭部に角が2本生えている上半身裸の巨人の怪物に、人の頭部に大きな瞳と耳元まで裂けているように見える着物を来た女性、そして最後に出て来た異形が明らかに異彩を放っていた……。

「なにこれ、レースは見た事ある?」
「いや、無いかな……、ミュラッカは?」
「ストラフィリアでは見た事が無いモンスターね……」
「あれは……、山奥に生息しているモンスター【ドラゴン】、主にメイディに生息している事で有名で必要とあれば人に身に化けて村に降りて来る事がある、そして最初に出て来たのは戦う事を生きがいとする種族【ギガンテス】、生まれつき発達した全身の筋肉を武器にする亜人だな、最後が【モノアイ】、栄花に生息している亜人で生物の若い個体、それも生まれて間もない幼児に自身の一部を寄生させる事で肉体を作り変える事でのみ固体を増やす事が出来る寄生型の種族だ、それも全て冒険者ギルドの依頼でグロウフェレスが捕えた固体だ」
「その中でもこちら側に来てくれた方達です、彼等はその身を私の御札に封じる事で必要な時に力を貸してくれるのですよ、さぁ行きますよ皆さん、白髪の男性とゴールドアッシュの女性の二名以外は自由にして構いません」

 グロウフェレスの声に反応した三体が一斉に動き出す。
ギガンテスは近くに生えている樹を根元から引き抜き棍棒のように振り回して迫り、ドラゴンはその大きな身体で器用に雪の上を走る。
そして……、モノアイは腕を触手のように作り変えてぼく達の方へ音を切りながら迫るが……

「シン様どうしてっ!」
「……俺の能力は、傷付けばつく程力を発揮するっ!」

 鞭のようにしなる触手に皮膚を裂かれ、樹の棍棒により吹き飛ばされあらぬ方向に曲がった手足を使い器用に起き上がるシンは、眼を紅く輝かせながら敵を見ると、自身の服の中から赤黒い色をした液体の入っている瓶を取り出して封を開けると勢いよく飲み干す。
すると彼の髪が赤黒い色から真っ赤に染まって行く、まるで赤黒い血液が酸素を得る事で赤く染まって行く現象に似ているけどどういう事なのだろうか……、それに損傷した身体が傷を残して元の形に戻って行く。

「今飲んだのは定期的に抜いている俺の血液を保存した物だ……、自分の血を接種する分には問題は無いからな、それにこういう使い方も出来るっ」

 自分の傷口から出る血液を剣の形に変えて、モノアイの触手を切り落とすと元の血液に戻り雪の大地を赤く染め、どうやって相手の傷口から出る血に干渉しているのか、内側から真っ赤な針と赤黒い色の針が飛び出してボロ雑巾のようにその場に倒れてしまう。
その亡骸を踏みつぶしながら樹の棍棒を横薙ぎにしてシンを吹っ飛ばそうとした一撃を、間に入ったミュラッカが魔術で作り上げた氷雪の盾で受け止めると、心器の大剣で棍棒を根元から切断する。

「何故俺を庇ったミュラッカ」
「ヴァンパイア特有の血液を媒介にして発動する魔術だと分かっていても、私が惹かれた人が傷付く何て見たくありませんっ!」
「……ならお前が俺の負傷を止めて見せろ、この国を平和な世界にするんだろう?」
「当然よっ!じゃないとあなたは隣に居させてくれないでしょ?」
「……好きに言ってろ、誰が俺の隣に居るか決めるのは俺が決めるし、お前が誰の側に居たいかはお前が決めろ」
「はいっ!、レース兄様、ダート義姉様っ!そっちにドラゴンとグロウフェレスが行きますっ!」

……ドラゴンの背に乗ったグロウフェレスの顔が狐に変わると、手足が獣になり着物を来た姿になる。
そして狐特有の甲高い鳴き声を上げると四本の尾に御札をそれぞれ貼り付け『さぁ、ここからは化かし合いのない実力の勝負です、決死の覚悟で掛かって来てください』というと、それぞれの尾に火、水、土、風の魔力で形成して不敵な笑みを浮かべるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...