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第六章 明かされた出自と失われた時間

30話 お説教と惚気

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 ……時は夕飯時、ぼくはミュラッカ達の前で床に座らせられている。
理由は少し前にやってしまった心器の新しい能力確認のせいだけど、まさかあそこまで事が大きくなる何て思わなかった。
打ち出した先が村の外側だったから良かったけど、通った後の地形が変わってしまい周囲を覆うようにして氷雪の道で覆われてしまっていて、もしこれが村に放たれていたら恐ろしい事になっていたと思う。

「事情は義姉様達から聞いたけど……、目を覚まして直ぐに何てことをしてるの?」
「心器の能力が増えてたから試してみようかなって」
「能力が増えてる理由も知ってるけど、試してみようっていう思い付きで屋敷の壁を壊すってほんと何考えてるのよ」
「……ごめん」
「……もう、取り合えずやっちゃった事に関してはしょうがないし修理費は私が出すからいいけど、ダート義姉様ちょっと聞きたい事があるんだけどいい?」

 修理費を妹に負担して貰う兄ってどう見ても良くない気がするからここはぼくが出すって言いたいけど、この国に来て自分でお金を稼いでいないから出せる物がない。
ミュラッカの言うように思い付きで軽率な事をして壁を壊したりしたのはぼくだから、今回ばかりは怒られてもしょうがないと思ってはいたし、現にこうやってぼくの部屋に来た瞬間に『今から怒りますので反省してるならその場に座りなさい』と言われた時はもうダメかと思った。
彼女の氷のような冷ややかな目線は人によってはトラウマになりそうだと思うし、一緒に付いて来たダートとカエデは『あぁまたやらかしたなこの人』とでも言いそうな顔でぼくを見ていたのもそう感じた理由だけど、新しい能力に関して検証して情報を得たいという知識欲に従ったせいだから、どう見ても自業自得でしかない。

「えっとミュラッカちゃんどうしたの?」
「……兄様は義姉様やダリアさんと暮らして居た時もこんな事してたりしたの?」
「んー、ここまで酷いのは無かったけど、考え事してたり新しい治癒術を作ろうとしてる時は自分の世界に入り込んで私達の声が届かない事が多かったかなぁ、特に魔術の練習を始めた時は自室でいきなり雪の魔術を試しだして床一面雪まみれにした事とかあるから、レースはこういう人何だねって私の中では割り切る事にした感じかな」
「割り切る事にしたって……、義姉様が兄様と正式に婚姻を結び、ストラフィリアの王族に入る事になったら立派な妃殿下となるのだから、悪い事はちゃんと言わないといけないと直らないわよ?」
「でも、レースは私達がこういう所やだって言ったら次からやらないようにしたりしてくれるし……」

 ダートがミュラッカの事を呼び捨てでは無く、ちゃん付けで呼んでいる。
ぼくが操られている間に二人の間に何があったのかは分からないけど、その間により親密な関係になったりしたのだろうか。
もしそうなら兄として、ダートと妹の中が良くなってくれるのは凄い嬉しい事ではあるんだろうけど、話の内容的には聞いていて嬉しい物では無いから何とも複雑な気持ちだ。
確かにぼくは研究や検証になると集中しすぎて周りが良く見えなくなったりしていまって、過去にそれで何度か徹夜してしまったりする度に、ダートから心配されたからそれ以降はやらないようにはしていたけど……、それ以降特に何も言われなかったから直せたのかもしれないと思ってはいたが、どっちかというと彼女の方がぼくの事を受けて居れてくれて許容してくれていた事を今改めて聞いて申し訳ない気持ちになる。
これは何ていうか、ミュラッカから悪い事はちゃんと言わないと直らないと言われる程に酷い所だと思うから、意識して治す努力をしなければいけないと思う……、そうしないと家族に我慢させ続けてしまうから、そういう事をぼくは出来ればやりたくないし、周りに我慢させるというような無理を強いるような事をしたくない。

「なるほど、義姉様の言い分は分かったわ、言われて学び改善出来るという事はこれからは私もどんどん言うから覚悟して貰うわよ?」
「あぁうん、出来れば言われる前に直すように頑張るけど、出来て無かったらお願いするよ」
「……、レース兄様のそういう所はどう見てもお母様譲りなので言われる前に直すのは難しいとは思うけど、信頼してるからね?」
「うん……」
「ミュラッカちゃん大丈夫だよ、レースには私がいるから直せない所は私が側で支えて補ってあげればいいし、そういうお互いの悪い所を理解して補い合って行くのも夫婦ってものでしょ?」

 ダートの発言を聞いたカエデが、メモ帳を取り出して『やはり夫婦という関係はお互いを支える物ですよねっ!』と言いながら何かを書いているけど、今はとりあえずそういうのは止めて欲しい。
ただ彼女を見るとマリステラが言っていた言葉を思い出してしまうけど……、『あなたに対して絶賛初恋中』というあの発言の意味が理解出来ないでいる、彼女に好意を持たれるような事をした記憶が無いし、そもそもぼくとカエデの関係は治癒術を教える側と教えられる側でしか無い。

「確かに義姉様の言う通りかもしれませんね……、兄様の足りない所を支えてあげてね」
「勿論そのつもりだけど、ミュラッカちゃんはシンさんとはどうなったの?」
「どうなったって言われても……、私達の関係なので」
「私とレースの関係には口出ししたのにそれは無いんじゃない?、でもそう言うなら一つだけで対えてくれたら許してあげる、戦いには勝ったの?まけたの?」
「最初は優勢だったんだけど、途中で奥の手とやらを使われて負けたわよ……、あの能力は何としてでもストラフィリア王家の血に入れたいわね」

 あのミュラッカが負けたっていう事実に驚くけどそれ以上に、シンが勝ったという事実の方が信じられないでいる。
あの三人で戦っても勝てなかった圧倒的な実力者からどうやって勝つ事が出来たのだろうか……。

「シンさんは、傷を負って血を流せば流す程強くなりますからね……、それ故にアキラさんやトキさんと相性が良いのでチームを組む事が多いんですよね」
「アキラさんと?」
「えぇ、二人と組む場合どうしても仲間に被害が出てしまうのですが、シンさんは血を媒介にする武技と魔術を使う剣士なので組ませられるとしたら彼しかいないんです」
「カエデ様、それは余りにも彼が不憫では?」
「えぇ、ですが彼の性格的に組ませられる相手がその二人しかいないので、もしミュラッカ様が彼をストラフィリアに引き入れたいというのでしたら私は止めません、ですが本人の意思を尊重してあげてください」

 血を媒介にする武技や魔術というものが何か凄い気になるけど、それ以上にアキラさんと組んでいたという事が気になる。
あの人が誰かと行動する姿が想像出来ないから尚の事かもしれない……。

「そこは勿論尊重致しますが、必ず来たいと言わせるわ?だってその為の努力をするもの」
「ふふ、ミュラッカ様の事を応援させて頂きますね」
「ありがとうございますカエデ様、一度断られたからって絶対に諦めませんわ!」

……何だか二人して自分の世界に入っているけど何をしているだろうね。
それにずっと部屋の隅でぼく達を見てビクビクしている虹色の少女は何なんだろうと思っていると『えっと……、話が終わったなら本題に入りたいんだけどぉ……、これって大丈夫なの?』って話かけて来るけど、この人が誰なのか分からなくて困惑してしまうのだった。
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