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第六章 明かされた出自と失われた時間

間章 五大国会議開始

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 ダートとカエデが出て行った後の事……

「会議を送らせてしまって申し訳ない、もう大丈夫だ会議を始めてくれ」

 覇王ヴォルフガング・ストラフィリアは席に戻り静かに座る。
それを見た魔王ソフィア・メセリーが、賢王ミオラーム・マーシェンスの手を耳から話すと……

「ミオラーム様、もう話は終わったので眼を開けて大丈夫ですよ」
「あら?もっと時間がかかると思っていたけど早く終わったのね!じゃあもう果実水を飲んでも良いのかしら!?」

 先程の空気を壊すかのような元気な声で雰囲気が代わり明るい物になって行く。
持ち前の性格なのか、それとも態とやっているのか分からないが賢王を継いだ理由は何となく分かった気がする。
それに先程から寝息を立てていた薬王ショウソク・メイディも彼女の声に反応して目を覚ましたようだ。

「飲んでも構わないが会議はしっかりと参加する様に……」
「分かってるわっ!私はもう立派な賢王ですもの、やるべき事をしっかりとやりますわっ!」
「なら良い、では五大国会議を開始をここに宣言致します、改めまして会議の進行役を務めさせて頂きます。栄花騎士団の団長キリサキ・ガイでございます、本日は宜しくお願い致します、では今回の議題ですが……」

 今回の五大国会議の主な議題はそれぞれの国の情勢報告、現在指名手配されている元Aランク冒険者達の情報提供等があるが……、どうなるだろうか。
護衛の筈のミツネは黙って座ったままだから特に問題は無いと思うが……

「ストラフィリアは、トレーディアスとの間にて行われる婚約がこちらの不手際により、破棄されてしまった事と第一王子が帰国した事位か……」
「トレーディアスはそうだな、ストラフィリアの第二王子が国内で散々暴れてくれた事と婚約破棄された我が娘に新たな婚約者が出来た事位か……、してその婚約者君と娘の護衛に就きたいという者がメイディ出身なのだが、儂の国に国籍を移したいらしいのだが……」
「……俺の方では特に言う事は無いから自由にすればいい、後でそいつの名前を教えてくれ国内に帰ったら手続きをしておく、後メイディの方はいつも通り変化のない退屈な国のままだ、特に報告するようなものはない」
「薬王ショウソク殿のご配慮に感謝する」
「別に良い……それよりも他の二国の報告を早くしてくれ、俺は速く帰りたいんだ」

 メイディは会議の度に特に報告するような物は無いというが、これはお国柄しょうがないのかもしれない。
人族が居ない訳ではないが少人数しかおらず、大多数を占めるのがエルフや獣人と言う長寿の種族が多い為に変化が非常に置きづらいのだ。
とは言え昨今は人族や獣人族と関係を持ったエルフの間に生まれたハーフエルフや、人とエルフと関係を持ち生まれた半獣人と言う新たな種族が増加傾向にあるらしいが、色々と扱いが難しいらしく進展があったら報告すると二十年前の会議であったらしいが、それ以降報告は無しと言う事に違和感しかない。
今回栄花騎士団の団長である俺が進行役になった以上は、これを理由にして視察以外にも最高幹部を送る良い機会だと思う。

「メセリーでは我が国の国民であるレースが、ストラフィリアの第二王子に拉致された事を知ったSランク冒険者【叡智】カルディアが、怒りに身を任せてストラフィリアへと単身乗り込もうとしていたのを止めている位ですね……。とは言え現状第一王子として認知されている以上は外交問題になってしまう為私の方ではどうしようもありません、他にはトレーディアスより第三王女である【ミント・コルト・クラウズ】様がお忍びで、【フェ―レン領:辺境開拓村クイスト】に滞在していた件についての書状を預かっております。内容は婚約者様との婚姻後にこちらに居を正式に移したいとの事で、それに関する支援を惜しまないという件です。こちらとしてはその申し出を断る理由が無いですし、商王クラウズ・トレーディアス様とはこれからも良き関係でありたいと思いますので、是非お受け致します。ただ王女様をただの町に住まわせるわけには行きませんので近いうちに開拓をさらに推し進め開拓都市へと致します、その過程で冒険者ギルドを国内に増やす事になりますがそちらの許可は栄花にて了承を得ております」
「魔王ソフィア殿よ、儂の申し出を受けて頂けたこと心より感謝を申し上げる」
「こちらこそ、互いに実りのある申し出を頂きありがとうございます」

 今の所は特に問題がないただ次はマーシェンスの番だ、内容次第ではミツネに動いて貰わないといけないだろう。

「マーシェンスはそうねっ!先代の賢王マシーナ・マーシェンスが私の前で恨みを買った臣民に暗殺され止むを得なく賢王の座を継がせて頂きましたのっ!、先王はマスカレイドと深く繋がりがありましたからね、国の実権がSランク冒険者の【叡智】マスカレイド・ハルサーに掌握されつつある事が納得行かなかったのでしょう、私も同じ不満を持っていたので気持ちはよく分かりますわね、現に見殺しにしましたもの」
「見殺しとは貴殿は何を言っているのかわかっているのか?」
「……クラウズおじい様、しっかりと理解をしていますわ、継承権があった実の兄達もそうなのですがマスカレイドの手によって生まれる新たな魔導具による贅沢な暮らしにすっかりと腐ってしまい、自分で物事を考える事が出来ない木偶の坊でしたのよ?今は精神を病んだ事にして離宮にて療養して頂いてるわ」
「理解を出来てるなら特に言う事は無い……」
「感謝致します、政は正直私は全然分からないので優秀な摂政官達に全て任せておりますの、変わりに【ミオラーム様は今は玉座にいるだけで良い】って言われたから自由にしておりますのよ?」

 上に立つ人間が必ずしも先頭に立って働く必要が無いとは良く言った話だが、王族となると違う気がする。
だが賢王ミオラームの、出来る者に任せるという事は上に立つ者として必要な能力でもあるから秀でているのだろう。
摂政官もそれを理解しているのかもしれない、それに【今は玉座にいるだけで良い】と言う発言があったという事は将来的に賢王として学ぶべく物を学ぶ事が出来たのなら国政に参加して貰うという事だ。

「皆様ご報告ありがとうございました……、では現在指名手配されている元Aランク冒険者その大本と言われているマスカレイドがマーシェンスに滞在している件に関してだが」
「待って団長さん、マスカレイド達はもうマーシェンスに居ないわよ?私が賢王の座を継いだと同時に国を出て、北へ向かったらしいもの」
「北にだと、つまり【炎精】ガイストと【幻死の瞳】グロウフェレスが俺の国に居るのは……」
「間違いなくマスカレイド達の策略でしょうね、御しやすい人物を王にする事で国を乗っ取るつもりじゃない?」
「……何と言う事だ、会議中で申し訳ないが俺はストラフィリアへと帰らせて貰うっ!」

……賢王ミオラームの言葉を聞いた、覇王は椅子から立ち上がると走って大会議室から出て行ってしまう。
その姿を見て先程のダートとのやり取りを思い出すが、今は娘達が何とかしてくれることを祈るしかない。
栄花騎士団の団員達全員で行けば犠牲を出しながらもマスカレイド達を討伐は出来るだろうが、軍隊を率いて他国に入る訳には行かない以上は組織として動く事が難しいのだ。
これは今日もストレスで胃が痛みそうだなと感じていると、『だから周囲の反対を押し切ってでも第一王女に覇王を継がせろと以前儂は言ったのだ……』と頭を抱えながら商王クラウズが呟く。
そしてこの日が、覇王ヴォルフガング・ストラフィリアを見た最後の日になるのだった。
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