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第六章 明かされた出自と失われた時間

8話 トキの姉御 ダート視点

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 声は成人女性の物なのに、身長は私よりも遥かに低く見える。
確か私の背の高さが百五十cm位だったから、それよりもかなり小さいという事は百二十五から百三十cm位だろうか。
人族と比べたら少しだけ尖って見える耳と女性のドワーフの特徴として有名な女児のような体系、ストラフィリアに存在する希少な種族っていう話は有名だけどこの目で見る事が出来る日が来るなんて思わなかった。
それにミディアムヘアの綺麗な茶色い髪と灰色の瞳をした可愛らしい少女は、口を栗のように尖らせると……

「ごめんね姫ちゃん!あたいがこんな冷血漢のいう事を聞いた通りにっ!この通りだっ!変わりに頭を下げるから許してくれ!」
「あの、トキさんこれに関しては私にも悪い所があったと思うので……」
「いいや、姫ちゃんは大事な人を助けたいんだろ?そこに何が悪い事があるってんだいっ!大事な人が大変な時に助けてあげてぇっていうのは人として何も間違えとらんやろ!……それに普段お世話になってる人の旦那を助けたいとか、優しい子になってあたいは嬉しいわ」
「でもシンさんには凄い怒られてしまいましたし……」

 この人がカエデちゃんが言っていたトキさんなんだと思うけど、事前情報として聞いていたよりも良い人な気がする。
それに何ていうのかな姉御肌っていう感じがして安心出来るような……?

「あれはこいつが遠回しに頼むなら金を出せって言おうとしてるけど、上手く言えなくてくどくど言ってるだけだからっ!なぁっ!」
「……そりゃそうだろ、どうして俺がタダ働きしなければいけないんだよ、こいつが最初からお金を出すなら最初からやるって言うわ」
「なら最初からそう言えばいいだろ?、それにあたいらはこれから王城に行くんだからついでにパパっとやればいいだろ?何の為に最高幹部になって高い金貰ってるんだい」

 確かにやるならお金が欲しいって言うのは分かるけどそれは冒険者に良くある考え方で……、もしかしたらシンさんは元冒険者なのかも、でもそれよりも今はトキさんが言った『これから王城に行く』と言う事が気になってしまう。
もしかしたら二人に付いて行ったらレースに会えるかもしれない……。

「あの……気になったんですけど、王城に行くってどういう事ですか?」
「あぁ、あんたがカエデちゃんがさっき言ってた、ダートだよね?言った通りこれからあたいらは王城に行くんだよ、あたいはストラフィリア出身で古郷は首都のここだからね、土地勘があるから視察に良く回されんだけどその時に王城内も見回る事があんだよ、まぁついでに武器職人でもあるからね、装備のメンテナンスもしてやってんだわ」
「ならそれに付いて行けばレースに会えますか……?」
「ん?それは分からないけど、あんたと姫ちゃんはあたい等に同行するという依頼を受けた事になってるみたいだから、その時に別行動して探せばいいだろ?覇王様からも許可を得て狼が描かれた紋章を貰ってるみたいだし、そのまま客室を用意して貰って滞在しても問題無い筈だ……、そん時はあたい等も民宿からそっちに移るわ」

 それを聞いたシンさんが嫌そうな顔をしたけど、そんな事なんてどうでもいいと言わんばかりに強引に事を進めて行くトキさんを見て、彼に拒否権は無いんだなって感じる。
カエデちゃんが言ってた、相性が良いっていうのはもしかしたらこういう事なのかもしれない……、多分理由が無いと動こうとしない彼とそんな事お構いなしに行動する彼女というチームは絶妙なバランスなんだと思う。

「とりあえず話はこれ位にしてさ……、あたいは相手の魔力を見ると心器が使えるかどうか分かんだけど、心器が使えんだろ?武器作りの参考に見せてくれないか?」
「え……、あの」
「お姉様、ここは見せてあげてください」
「う、うん、これです」

 手元に私の髪色と同じゴールドアッシュの刃に、淡褐色の持ち手を持つ心器の短剣を顕現させるとトキさんが金属の籠手を両手に装着して手に取る。
術者以外は持てないんじゃとは思ったけど、もしかしたら触る為の特別な物なのかもしれない。

「あたいが何で触れるのかって気になるみたいだけど、この手袋はあたいが心器で作り上げたもんでね?あたいの心器は鍛冶工房をその場に顕現させて手持ちの素材で武器や防具を作る事が出来んだけど、その時に一つだけ能力を付与出来んだ、これは他人の心器に触れる事が出来る能力がある感じだな……、そしてあたいは武器上の物を鑑定する魔術が使える、つまりだっ!あんたの獲物の能力が見れるっ!」
「また始まったか……、ダートだったな、話が長くなると思うから適当に聞き流しときな」
「話が長いって何だいっ!今は見るだけだよっ!……たくよぉ、それよりもこの心器の能力は『次元断』ね、今はこれ一つだけかい、主に空間を断ち切る防御不能な一撃必殺特化みたいだけど範囲が刃が届く範囲と強力な反面、効果範囲が狭い心器化、これくらいならあたいが作った武器で再現できそうだね、ありがとさん返すわ」

……そう言ってトキさんが私に心器を返してくれると『でもあんたの心器の強度が低いから、今は必要な時以外は使わない方がいいかもしれないな』と助言をしてくれるけど多分、私の精神面がまだ未熟なのもあるのかもしれない。
そんな事を思っていると、カエデちゃんの通信端末が急に鳴り出して『お姉様、レースさんから通信が……』と画面を見せて教えてくれる。
その瞬間私は反射的に通信端末を手に取ると彼の声を聞きたくて通信に出てしまうのだった。
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