治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

文字の大きさ
上 下
174 / 579
第五章 囚われの姫と紅の槍

27話 ヴィーニ·トゥイスク·ヴォルフガング

しおりを挟む
「しかし、なんであのオッサンが増田先生の憧れなんだ?」
 昨日は紬と増田を宥めるので終わってしまったが、この疑問が解決していないぞと俺は気づく。
 昼休み。これからまた惚れ薬開発の時間となるのだが、そもそもなぜ増田は朝倉のストーカーなんてやっているのだろうか。
「調べろよ」
 そんな俺の疑問につっけんどんに言ってくれるのは、よく解らない展開になっているのに、まだ付き合わされている大狼だ。
「調べて出てくるのか?」
 俺が訊くと
「国家魔法師の資格を持っているんだったら、魔法省に色々と登録されているはずだろ。アクセス申請すれば、すぐに朝倉先生の情報を教えてくれるはずだ」
 大狼が大元に問い合わせろよと冷たい。
「面倒だよ。ってか、わざわざ魔法省にそんなこと問い合わせたくねえし」
 俺は勘弁と、この話題を打ち切った。
 ちなみに何かと出てくる魔法省は、そのまんま、魔法に関することを一手に引き受けている省庁だ。隕石衝突の混乱後にすぐに設置され、国家魔法師の認定から危険魔法動物の特定まで、なんでもやらされている省である。そして、この魔法学院も魔法省の管轄となっている。
「ふっ。仕方がない。私が教えてやろう」
 と、そこに昼飯を購買に買いに行っていた佳希が、偉そうにふんぞり返ってくれる。おかげで大きな胸が強調されまくっていた。
「調べたのか?」
 俺は突き出された胸をこっそり目で堪能しながら、魔法省に問い合わせたのかと訊く。
「そんな面倒なことをしなくても、増田先生に聞けばいいだけだ。私は朝倉先生を尊敬する同志。そのことを伝えたら、色々と教えてくれた」
「あっそ」
 なんという恐ろしい共通の話題なんだ。俺は呆れつつも、それで問題の発端となっている朝倉への拗らせはどうなっているのかと訊ねる。
「ああ。これを見てくれ」
 佳希はそう言うと、白衣のポケットからコピー用紙を取り出した。広げられたそこには、二十年前の新聞が印刷されている。
「なになに。『天才少年現る! 十五才で国家魔法師に特別認定された朝倉小太郎』って、ええっ!?」
 俺はその新聞記事を読んで、思い切り仰け反ってしまう。
「そう。ビックリだろ。魔法学院に飛び級という制度があることも初めて知ったが、朝倉先生の魔法能力は飛び抜けているらしいんだ。この翌年には国家間の魔法対抗試合に出て、当時世界一位の称号を手に入れている」
「くう。あのオッサン、どこまで天才なんだよ」
 俺は、あのボサボサ頭のオッサンにこれだけ秘められた能力があるのが信じられんと、がしがしと頭を掻き毟る。
「増田が憧れる理由は解った。でも、今は魔法薬学の権威なんだよな。その間に何があったんだ?」
 大狼は俺からコピー用紙を奪い取ると、朝倉の人生に一体何がと真剣な目だ。
「確かに、今は国家魔法師の記章を白衣のポケットに入れちまう、適当なオッサンだぜ」
 なんで朝倉関係でこんなに謎が出てくるんだよと、俺はやれやれと溜め息を吐く。しかし、身近にとんでもない人物がいたことが発覚したわけだ。そりゃあ、今をときめく増田も、二十年前だから子どもながらに衝撃を受けたはずで、思わず追い掛けてしまうことだろう。
「何なんだろうな」
「もう、天才同士で勝手にやっていてくれって思うな」
 俺と大狼の意見が珍しく一致した時
『緊急警報! 魔法師指揮下にないアンデッドを確認!! 学生の皆さんは、至急校舎内に避難してください』
 と頭の中に思念伝達が鳴り響く。
「魔法師指揮下にないアンデッドって」
「野良アンデッドか。昨日の騒動ですっかり忘れていたけど、増田がグラウンドの近くで見たって言ってたぞ」
 そうだ。昨日、紬のことがなければ、増田は朝倉とアンデッドの捕獲に向うはずだった。
「きゃあああ」
 と、校舎の外から悲鳴が聞こえた。誰かがアンデッドに出くわしてしまったらしい。
「この近くかよ」
「マジか。野良は危険だぞ。凶暴化していることが多いんだ」
 驚いて廊下に出る俺を追い掛けながら、大狼は注意しろと警告してくる。
「凶暴化」
「ああ。アンデッドってのは、そもそも凶暴なものだからな」
「マジで」
(そういう情報、もう少し早く言って欲しかったぜ)
 昨日、紬を探しに出た時に出会わなくてよかった。あと、友葉をからかって悪かったなと思う。
 と、そっと外を覗いてみると
「なんでこっちに来るのよ~!?」
「げっ、胡桃!」
 なんと、胡桃がアンデッドに追い掛けられていた。アンデッドはマントに帽子と、この間大狼が連れてきたのと同じ格好をしているが、体格からして男であるらしい。
「こっちだ」
 と、そこに話題の朝倉が箒で駆けつけ、胡桃の白衣を掴んで引っ張り上げる。が、アンデッドはさらに追い掛け、胡桃の白衣を掴んで一緒に箒に乗ろうとする。
「いやあああ。なんで付いてくるの!? ってか臭っ!!」
 胡桃は自分の白衣を掴むアンデッドにパニックだ。
「くっ」
 そして、二人分の重さが掛かって、朝倉がバランスを崩しそうになる。箒が不安定にふるふると震え始めた。
「拙いぞ」
「行くしかないな」
 俺たちはそれを見て、避難している場合じゃないと校舎から飛び出す。
「先生」
「アンデッドを引き剥がしてくれ! 攻撃はこちらから防ぐ!!」
 朝倉は根性で箒の制御をすると、俺たちに助勢してくれと頼んだ。
「了解」
「腕と足を折るんだ」
 頷く俺と、アンデッドに容赦ない大狼の指示が飛ぶ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

処理中です...