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第五章 囚われの姫と紅の槍
27話 ヴィーニ·トゥイスク·ヴォルフガング
しおりを挟む「しかし、なんであのオッサンが増田先生の憧れなんだ?」
昨日は紬と増田を宥めるので終わってしまったが、この疑問が解決していないぞと俺は気づく。
昼休み。これからまた惚れ薬開発の時間となるのだが、そもそもなぜ増田は朝倉のストーカーなんてやっているのだろうか。
「調べろよ」
そんな俺の疑問につっけんどんに言ってくれるのは、よく解らない展開になっているのに、まだ付き合わされている大狼だ。
「調べて出てくるのか?」
俺が訊くと
「国家魔法師の資格を持っているんだったら、魔法省に色々と登録されているはずだろ。アクセス申請すれば、すぐに朝倉先生の情報を教えてくれるはずだ」
大狼が大元に問い合わせろよと冷たい。
「面倒だよ。ってか、わざわざ魔法省にそんなこと問い合わせたくねえし」
俺は勘弁と、この話題を打ち切った。
ちなみに何かと出てくる魔法省は、そのまんま、魔法に関することを一手に引き受けている省庁だ。隕石衝突の混乱後にすぐに設置され、国家魔法師の認定から危険魔法動物の特定まで、なんでもやらされている省である。そして、この魔法学院も魔法省の管轄となっている。
「ふっ。仕方がない。私が教えてやろう」
と、そこに昼飯を購買に買いに行っていた佳希が、偉そうにふんぞり返ってくれる。おかげで大きな胸が強調されまくっていた。
「調べたのか?」
俺は突き出された胸をこっそり目で堪能しながら、魔法省に問い合わせたのかと訊く。
「そんな面倒なことをしなくても、増田先生に聞けばいいだけだ。私は朝倉先生を尊敬する同志。そのことを伝えたら、色々と教えてくれた」
「あっそ」
なんという恐ろしい共通の話題なんだ。俺は呆れつつも、それで問題の発端となっている朝倉への拗らせはどうなっているのかと訊ねる。
「ああ。これを見てくれ」
佳希はそう言うと、白衣のポケットからコピー用紙を取り出した。広げられたそこには、二十年前の新聞が印刷されている。
「なになに。『天才少年現る! 十五才で国家魔法師に特別認定された朝倉小太郎』って、ええっ!?」
俺はその新聞記事を読んで、思い切り仰け反ってしまう。
「そう。ビックリだろ。魔法学院に飛び級という制度があることも初めて知ったが、朝倉先生の魔法能力は飛び抜けているらしいんだ。この翌年には国家間の魔法対抗試合に出て、当時世界一位の称号を手に入れている」
「くう。あのオッサン、どこまで天才なんだよ」
俺は、あのボサボサ頭のオッサンにこれだけ秘められた能力があるのが信じられんと、がしがしと頭を掻き毟る。
「増田が憧れる理由は解った。でも、今は魔法薬学の権威なんだよな。その間に何があったんだ?」
大狼は俺からコピー用紙を奪い取ると、朝倉の人生に一体何がと真剣な目だ。
「確かに、今は国家魔法師の記章を白衣のポケットに入れちまう、適当なオッサンだぜ」
なんで朝倉関係でこんなに謎が出てくるんだよと、俺はやれやれと溜め息を吐く。しかし、身近にとんでもない人物がいたことが発覚したわけだ。そりゃあ、今をときめく増田も、二十年前だから子どもながらに衝撃を受けたはずで、思わず追い掛けてしまうことだろう。
「何なんだろうな」
「もう、天才同士で勝手にやっていてくれって思うな」
俺と大狼の意見が珍しく一致した時
『緊急警報! 魔法師指揮下にないアンデッドを確認!! 学生の皆さんは、至急校舎内に避難してください』
と頭の中に思念伝達が鳴り響く。
「魔法師指揮下にないアンデッドって」
「野良アンデッドか。昨日の騒動ですっかり忘れていたけど、増田がグラウンドの近くで見たって言ってたぞ」
そうだ。昨日、紬のことがなければ、増田は朝倉とアンデッドの捕獲に向うはずだった。
「きゃあああ」
と、校舎の外から悲鳴が聞こえた。誰かがアンデッドに出くわしてしまったらしい。
「この近くかよ」
「マジか。野良は危険だぞ。凶暴化していることが多いんだ」
驚いて廊下に出る俺を追い掛けながら、大狼は注意しろと警告してくる。
「凶暴化」
「ああ。アンデッドってのは、そもそも凶暴なものだからな」
「マジで」
(そういう情報、もう少し早く言って欲しかったぜ)
昨日、紬を探しに出た時に出会わなくてよかった。あと、友葉をからかって悪かったなと思う。
と、そっと外を覗いてみると
「なんでこっちに来るのよ~!?」
「げっ、胡桃!」
なんと、胡桃がアンデッドに追い掛けられていた。アンデッドはマントに帽子と、この間大狼が連れてきたのと同じ格好をしているが、体格からして男であるらしい。
「こっちだ」
と、そこに話題の朝倉が箒で駆けつけ、胡桃の白衣を掴んで引っ張り上げる。が、アンデッドはさらに追い掛け、胡桃の白衣を掴んで一緒に箒に乗ろうとする。
「いやあああ。なんで付いてくるの!? ってか臭っ!!」
胡桃は自分の白衣を掴むアンデッドにパニックだ。
「くっ」
そして、二人分の重さが掛かって、朝倉がバランスを崩しそうになる。箒が不安定にふるふると震え始めた。
「拙いぞ」
「行くしかないな」
俺たちはそれを見て、避難している場合じゃないと校舎から飛び出す。
「先生」
「アンデッドを引き剥がしてくれ! 攻撃はこちらから防ぐ!!」
朝倉は根性で箒の制御をすると、俺たちに助勢してくれと頼んだ。
「了解」
「腕と足を折るんだ」
頷く俺と、アンデッドに容赦ない大狼の指示が飛ぶ。
昨日は紬と増田を宥めるので終わってしまったが、この疑問が解決していないぞと俺は気づく。
昼休み。これからまた惚れ薬開発の時間となるのだが、そもそもなぜ増田は朝倉のストーカーなんてやっているのだろうか。
「調べろよ」
そんな俺の疑問につっけんどんに言ってくれるのは、よく解らない展開になっているのに、まだ付き合わされている大狼だ。
「調べて出てくるのか?」
俺が訊くと
「国家魔法師の資格を持っているんだったら、魔法省に色々と登録されているはずだろ。アクセス申請すれば、すぐに朝倉先生の情報を教えてくれるはずだ」
大狼が大元に問い合わせろよと冷たい。
「面倒だよ。ってか、わざわざ魔法省にそんなこと問い合わせたくねえし」
俺は勘弁と、この話題を打ち切った。
ちなみに何かと出てくる魔法省は、そのまんま、魔法に関することを一手に引き受けている省庁だ。隕石衝突の混乱後にすぐに設置され、国家魔法師の認定から危険魔法動物の特定まで、なんでもやらされている省である。そして、この魔法学院も魔法省の管轄となっている。
「ふっ。仕方がない。私が教えてやろう」
と、そこに昼飯を購買に買いに行っていた佳希が、偉そうにふんぞり返ってくれる。おかげで大きな胸が強調されまくっていた。
「調べたのか?」
俺は突き出された胸をこっそり目で堪能しながら、魔法省に問い合わせたのかと訊く。
「そんな面倒なことをしなくても、増田先生に聞けばいいだけだ。私は朝倉先生を尊敬する同志。そのことを伝えたら、色々と教えてくれた」
「あっそ」
なんという恐ろしい共通の話題なんだ。俺は呆れつつも、それで問題の発端となっている朝倉への拗らせはどうなっているのかと訊ねる。
「ああ。これを見てくれ」
佳希はそう言うと、白衣のポケットからコピー用紙を取り出した。広げられたそこには、二十年前の新聞が印刷されている。
「なになに。『天才少年現る! 十五才で国家魔法師に特別認定された朝倉小太郎』って、ええっ!?」
俺はその新聞記事を読んで、思い切り仰け反ってしまう。
「そう。ビックリだろ。魔法学院に飛び級という制度があることも初めて知ったが、朝倉先生の魔法能力は飛び抜けているらしいんだ。この翌年には国家間の魔法対抗試合に出て、当時世界一位の称号を手に入れている」
「くう。あのオッサン、どこまで天才なんだよ」
俺は、あのボサボサ頭のオッサンにこれだけ秘められた能力があるのが信じられんと、がしがしと頭を掻き毟る。
「増田が憧れる理由は解った。でも、今は魔法薬学の権威なんだよな。その間に何があったんだ?」
大狼は俺からコピー用紙を奪い取ると、朝倉の人生に一体何がと真剣な目だ。
「確かに、今は国家魔法師の記章を白衣のポケットに入れちまう、適当なオッサンだぜ」
なんで朝倉関係でこんなに謎が出てくるんだよと、俺はやれやれと溜め息を吐く。しかし、身近にとんでもない人物がいたことが発覚したわけだ。そりゃあ、今をときめく増田も、二十年前だから子どもながらに衝撃を受けたはずで、思わず追い掛けてしまうことだろう。
「何なんだろうな」
「もう、天才同士で勝手にやっていてくれって思うな」
俺と大狼の意見が珍しく一致した時
『緊急警報! 魔法師指揮下にないアンデッドを確認!! 学生の皆さんは、至急校舎内に避難してください』
と頭の中に思念伝達が鳴り響く。
「魔法師指揮下にないアンデッドって」
「野良アンデッドか。昨日の騒動ですっかり忘れていたけど、増田がグラウンドの近くで見たって言ってたぞ」
そうだ。昨日、紬のことがなければ、増田は朝倉とアンデッドの捕獲に向うはずだった。
「きゃあああ」
と、校舎の外から悲鳴が聞こえた。誰かがアンデッドに出くわしてしまったらしい。
「この近くかよ」
「マジか。野良は危険だぞ。凶暴化していることが多いんだ」
驚いて廊下に出る俺を追い掛けながら、大狼は注意しろと警告してくる。
「凶暴化」
「ああ。アンデッドってのは、そもそも凶暴なものだからな」
「マジで」
(そういう情報、もう少し早く言って欲しかったぜ)
昨日、紬を探しに出た時に出会わなくてよかった。あと、友葉をからかって悪かったなと思う。
と、そっと外を覗いてみると
「なんでこっちに来るのよ~!?」
「げっ、胡桃!」
なんと、胡桃がアンデッドに追い掛けられていた。アンデッドはマントに帽子と、この間大狼が連れてきたのと同じ格好をしているが、体格からして男であるらしい。
「こっちだ」
と、そこに話題の朝倉が箒で駆けつけ、胡桃の白衣を掴んで引っ張り上げる。が、アンデッドはさらに追い掛け、胡桃の白衣を掴んで一緒に箒に乗ろうとする。
「いやあああ。なんで付いてくるの!? ってか臭っ!!」
胡桃は自分の白衣を掴むアンデッドにパニックだ。
「くっ」
そして、二人分の重さが掛かって、朝倉がバランスを崩しそうになる。箒が不安定にふるふると震え始めた。
「拙いぞ」
「行くしかないな」
俺たちはそれを見て、避難している場合じゃないと校舎から飛び出す。
「先生」
「アンデッドを引き剥がしてくれ! 攻撃はこちらから防ぐ!!」
朝倉は根性で箒の制御をすると、俺たちに助勢してくれと頼んだ。
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