治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第五章 囚われの姫と紅の槍

26話 お互いの条件

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 ソラからの提案を聞いて指を口に近づけて噛む仕草をしたスイは、暫く何かを考えているように難しい顔をして黙ってしまった。
それ程までに彼女からしたら悩まざるを得ない内容なんだと思う。

「仮にそれが本当だったとして、その条件を飲んだら私はどうなるの……?指名手配されている以上は命の保証はされないんでしょ?」
「そうだねー、こちら側へ情報を流してくれるなら副団長に掛け合ってあげるよ?」
「団長さんには掛け合わないの?」
「あのグラサン野郎は言ってもどうせ……、『責任は俺が全て取るから現場が起きた事に関しては君達の判断に任せる、その場に合わせて最適だと思ったように動けば良い』としか言わないから事後報告でいいよー」
「上に立つ人としては立派な方ね……、ならこちらからも条件を出すわ?この薬を打たせてちょうだい、安心して毒じゃないわ?私と一緒に行動するなら必要なだけよ」

 彼女はポケットからアンプルを取り出すと先端を、爪で弾いて薬液を底に落とすと先端を折って中の液体を魔術を使い空中に浮かべると、人数分の注射を取り出して一本ずつ中に吸い上げて行く。
カエデのお父さんの考え方はぼくには良く分からないけど、スイからしたら信用が出来る相手に移ったのかもしれない。
それにしてもあれは何だろうか……、空間収納から診察用の鑑定魔術が付与された魔導具の眼鏡を取り出して確認してみたいけど勝手に見て良いのだろうか。

「スイさん、その薬液は何なの?」
「あら?あなたは診察系の鑑定魔術が使えないの?」
「それ用の魔導具なら持ってるけど……」
「ふーん……、なら教えてあげる、この薬液は私が使う毒の魔術が効かなくなる薬よ」
「それって以前俺に使ったのと同じ奴か?」

 ジラルドの質問にスイは『えぇ、そうよ?』と返答すると準備が終わった彼女がぼく達に近づいてくる。

「で?こちらの条件を飲んでくれるの?くれないの?」
「ぼくは良いと思うけど……、クロウとソラさんはどう思う?」
「俺は飲むべきだと思う、それで不要な戦いを避けられるならその方がいいだろう」
「いいと思うよー?俺からしたら利点しかないし、それに冒険者時代の彼女の情報なら頭に入ってるけど、同行者には予め錠剤や注射をしてどく巻き込まないようにする事で有名だったしねー」
「なら決まりね、皆腕を出してちょうだい……痛くはしないから、多分」

 言われた通り腕を出したけど、多分っていったい何だろう。
順番に注射から薬を体内に入れられて行くが何やら皆微妙な顔をしている。
何だか嫌な予感がして来たけど……、ついにぼくの番が来たと思ったら腕に勢いよく注射の針を刺して来たけど血管から明らかにズレた場所に行ったと思ったら一度抜き治して二回目でやっと正しい位置に入った。

「……すっごい、痛いんだけど」
「あなた達の血管の場所が分かりづらいのが悪いのよ、おかげで間違えちゃったじゃない」
「注射じゃなきゃいけなかったの?」
「錠剤だと少なくても効果が出るのに半日掛かるわ?そんなの待てないでしょ?」
「……分かったけど、下手なら下手って言って欲しかったよ」

 ぼくの発言を聞いて気分を悪くしたのか、『うるさいわね……、たまたま失敗しただけじゃない』というけど四人連続して間違える事がたまたまと言えるのだろうか……。
今迄同行して来た人も同じ気持ちになったのかもしれない。

「とりあえずこれで君の条件を飲んだから次は俺の番ねー、詳しい話は後で栄花騎士団の本部で聞くとして一つだけ今聞きたい事があるんだけど、マスカレイドの協力者は誰?」
「協力者?どうしてそんな事を知りたいのかしら?」
「いくらこっちで調べても情報が出てこないんだよね、だから知りたくてさー」
「そう……なら教えてあげるって言いたいけど分からないの、姿を見ている時は誰かは覚えてるのに、離れると名前を思い出せなくなるのよ」
「……なるほど、それだけでも大きい情報だから助かるよありがとー、その情報だけで協力者の出現地域が分かりやすくなるよ、約束通り君の命は保証するしお父さんの事も俺達の方で責任を持つよ」
「……ありがとう、これでもう誰も傷つけないで済むのね」

 彼女はそう言って微笑むと何らかの魔術を使い通路を白い霧に包み込んだ。
一瞬警戒をしてしまうが吸っても体調が悪くなりもしないから、先程の薬が効いているのだろう。

「この霧を吸った人は暫く意識を失う事になるけど、あなた達は薬の効果で効かないから安心して?じゃあ行きましょうか」
「行くって何処に……?」
「そんなの決まってるじゃない、ミントの部屋よ?言ってなかったと思うけど私はここに王女様の世話役として働きに来てるのよ、だから自由に王城内を移動できるしこうやって色々と仕込めたわけ」
「ということはこのまま合流して脱出できれば……?」
「王女様とそのお付きの人が誘拐された事になって暫く国内が荒れるでしょうけどそれ以外は問題なく終わるはずよ」

 ジラルドが嬉しそうな顔をするけど、それって彼からしたら嬉しいのかも知れない、けどトレーディアスの人達からしたらどうなんだろうって思う。
出来れば王様に二人の関係を認めて貰ってから出て行った方がいいとは思うけど、昨日の話を聞いた限りでは不可能なんだろうな……そんな事を考えていると、スイが付いてきてと手で僕たちを促して先頭を歩いて行き僕たちもそれに続いて行く。

「それにしても残念だったなぁ、俺の実力を皆に見せたかんだけどさ」
「……知らないわよそんなのっ!私は痛い思い何てしたくないの!そんなに実力を試したいなら適当な壁でも殴って頭に上った血を落ち着かせなさいよ」
「確かにその方がいいかも知れないなぁ……、このままだと何かやらかしそうだしなっと!」

……そう言ってジラルドが立ち止まり勢いよく壁を殴ったけど、偶々殴り方が良かったのか、それとも偶然脆くなっていたのかもしれない。
穴が空いたと思ったら周囲の壁が崩れ、まるで誰かを持て成す為に作られたかのような豪華な部屋が現れた。
その中には床に寝転んで寝息を立てているダリアと、それを驚いたような顔をして彼女とこっちを交互に忙しく首を動かして見る青い瞳を持ち白い髪を後ろで束ねた身なりの良い少年と、無表情のままこっちを見ている少年と同じ目と髪の色を持った青年がいた。
潜入なのに誰かと見つかるなんて最悪だと思っていると、ソラが真面目な声で『まずいことになったね、Sランク冒険者福音のゴスペルだ、ここは僕が何とかするから皆は先に逃げて』といい手元に心器の剣を顕現させると武器構えるのだった。
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