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第五章 囚われの姫と紅の槍

21話 王城への潜入

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 王城の前に着くと冒険者ギルドの職員と冒険者達が城門前で騎士達と揉めていた。
その人数は数える事が嫌になりそうな程に多くて、ぼく等がその中に紛れて城内に潜入したとしても気付かれる事は無さそうな気がする。
けどそこで勝手な事をしてしまうと準備をしてくれているソラ達の努力が無駄になってしまうからまずは合流しないと……

「ソラさんは何処にいるのかな」
「そうですね……、確認して見ます」

 カエデは通信端末を取り出して通信時とは違う操作を行うと、空中に地図が浮かび上がり一つの点が現れる。


「彼なら城門から右に行って途中で左に曲がった所にいるみたいですね」
「えっと……、カエデちゃん今のは?」
「あぁ、そういえばお姉様達には説明していませんでしたね、これは団長や副団長だけが使えるシステムでして、通信端末を持つ人達の居場所が分かるようになってます」
「という事はぼく達の居場所も分かるの?」
「それは当然です、心器を扱える人物を管理する必要がありますしそれに……」

 もしかしたら他にも理由があるのかな……。
そんな風に思っているとカエデが顔を真っ赤にして口を開く。

「日頃お世話になってるお姉様とレースさんに何かあった時直ぐに助けに行けますからねっ!」
「姫ちゃんは本当に良い子なの、私も何かあったら助けてくれる?」
「えっと……、どちらかというと助けられる方だと思うけどその時は頑張るね?」
「なら王城内で何かあったらお願いするの」
「うんっ任せて!……じゃあ皆さん合流しましょうか」

 カエデを先頭に城門から右に暫く行くと途中で壁伝いに左に曲がって真っすぐ歩くと、少しずつ周囲の景色が海に変わって行き足元も徐々に歩ける範囲が狭くなっていく。

「この近辺だと思うんですけど……」
「ソラさん達いないけどどうしたんだろ?」

 周囲を見渡しても王城の壁以外は地面と海しかない。
それにしてもこの国に来てから始めて海を見たっていうのもあるのかもしれないけど、近くで見ると余りの広大さに驚かされてしまう。
上から反射する日の光が、下からもこちらに向かってきて思っている以上に暑く感じるし何よりも独特な匂いが不思議な感じだ。
慣れている人なら気にならないのだろうけど、ぼくからしたらまるで異世界に来たような錯覚を覚える。

「……ーい、おーい、ここだよーっ!」
「ソラさん、そこに居たんですねーっ!」
「姫ちゃんそうだよー、余りに無防備だったから先に入って様子見してたー、今から縄梯子を降ろすから上がってきてーっ!」

 頭上から声が聞こえたかと思うと頭上から縄梯子が降りて来る。
上がって来てという事だから来いという事だけど、誰から先に上ればいいだろうか。
何かあった時用にぼくが最後になって上の人を支えるのもありかもしれない。

「……レースさん、先に上ってください」
「え?ぼくは最後の方が良くない?」
「先に上って下さいっ!私はまだ着物を着てるからいいですけど、お姉様とランちゃんはスカート何ですっ!見えちゃったらどうするんですか!」
「いや……、別に見えても興味ないからどうでもいいんだけど?」
「興味ある無しでは無くてですねっ!見られる側の気持ちを考えてくださいっ!」

 そんな大声で騒いだら王城内の騎士達にも聞こえてしまう気がするけど、大丈夫なのだろうか……。
ダートは何か『興味ないって、私に魅力が無いの……?』って何か難しそうな顔をして呟いてるし、ランの方は顔を真っ赤にしながら耳を逆立てて『いいから行くのっ!』と怒っている。
本当になんだこれとは思うけど、これは大人しく従った方が良さげだから縄梯子を掴んで足を掛けるとゆっくりと昇って行く。

「あ、レースくんが先に来たんだー、てっきり一番最後に来るものかと思ってたよー」
「そうしたかったんだけど……、カエデにスカートを穿いてる人がいるから最初に行けって言われたから」
「作戦中は気にする必要ないと思うんだけど……、姫ちゃんはまだ若いから私情を挟んじゃうのかもねー、ランはぼくの自慢の妹だからそこんとこ気にしないと思うけどー」
「えっと……、してたよ?」
「……まじで?人族の雄に興味が無いと思ってたのに、どうして君相手に恥じらいを?まさかランの好みの顔か匂いでもしてたか?」

 ソラの顔から表情が消えるとぼくを睨みながらそんな事言う。
好みの顔って言われても困るし、匂いって言われると何か臭いって言われてるようで嫌だ……。

「この話は仕事が終わってからにしよう……、でも妹はぼくより強い雄以外には渡さないからそこの所勘違いしないようにね」
「えっと勘違いも何もぼくにはダートがいるから……」
「それならいいけど獣人族は基本的に一夫多妻だからね?強い雄に雌が集まって子を成して一つの群れを作るんだ、これは俺達の本能なんだよ、理性があるから皆がそうなるって訳では無いけど若い世代ほど流されやすくなるから気を付けるようにね」
「そんな事言われても困るんだけど?」
「それなら必要な時以外は妹に近づきすぎないで欲しいかなー、ん?」

 縄梯子から勢いよく青白い光が飛び出すと、ソラに向かって走って行くと彼の頭を勢いよく叩く。
それに続いてダートとカエデも上がって来たけど……、状況が呑み込めていないようだ。

「おにぃっ!余計な事を言わないでなのっ!私はそんなのじゃないのっ!」
「分かった、分かったからっ!俺が悪かったよー、ごめんねー?」
「……分かればいいの、私はただ姫ちゃんが懐いてる雄がどんななのか気になっただけなの」

 ランはカエデを指差しながらそう言うと、慌てたような仕草で顔を真っ赤にする彼女の姿があった。

「ランちゃん!?何言ってるの!?」
「狼や猫科の獣人族は人族よりも鼻がいいから分かるの、隠せないの」
「カエデちゃん?私のレースは誰にも渡さないからね?」
「い、いりませんよこんな人っ!それにまだ私にはそういうのは速いですっ!」
「おーい、皆さーん、ここが王城ていうの忘れてない?潜入中だよー?」

 ソラさんがそう言いながら皆に注意をしてくれるけど、何ていうかこんな人って言われるのも何かそれはそれで嫌な気がする。
もうちょっと他の言い方は無いようなものか……、何でいざこれから潜入だというのにテンションを下げられなければ行けないのか。

「カエデちゃん?いくらレースだからって、こんな人って言っちゃダメだよ?言われた側の事を考えて?……後ね、他の人からしたらこんな人でも私からしたら一番の人なの……、バカにしないでくれるかな」
「あ……はい、レースさん、お姉様ごめんなさい」
「謝ってくれるなら別にいいよ、それよりもソラさんが言うように今は潜入中だから気持ちを切り替えようよ」
「はい……、皆さんすいませんでした」
「私もごめんなさいなの……、気遣いが足りてなかったの」

 カエデとランが頭を下げて謝罪の気持ちを表けど、何というかカエデから感じる緊張が解れた気がするから結果的には良かったのかもしれない。

「取り合えずこのまま外にいるよりも早く王城内に入ろうよー、中に入ったらそのままレースくんは俺に付いて来てね?ジラルドくん達を中の安全な場所で待機させてるとは言え、あんまり長く待たせたくないからさー」
「……わかった」
「姫ちゃんは陽動の方お願いねー」
「はい、お姉様、ランちゃんここからが本番です……頑張りましょう」
「それじゃ、皆で頑張ろ―っ!」

……ソラの号令に合わせてぼく達は彼の後ろに付いて王城内に入って行く。
そして途中でダート達と分かれたぼくはそのままソラに付いて行き、ジラルド達の場所へと向かうのだった。
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