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第五章 囚われの姫と紅の槍

間章 解き放たれた翼 ミコト視点

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 あの件は私が悪かったと思うけど、次の日になっても兄貴が私の頭の中に直接話掛けてくるのは如何な物か……。
昨日は折角面白い事が出来たのかもしれないのに台無しにされたし、そのストレスを解消する為に美味しいご飯を食べようとしたのに何で邪魔をされなければいけないのかな?

『台無しも何も無いだろう、昨日の事を繰り返すようで悪いが貴様は人が聞きたくないと言う事を無理矢理伝える程に性格が捻じ曲がっているのか?』

 性格が捻じ曲がるのは当然じゃない?だって私はこの数十年間ずっと教会に幽閉されているんだのよ?。
たまに外に出れるとしてもそれは教祖を名乗るうさん臭いおじいさんが、私が奇跡を使うのに相応しい対価を支払って貰ったからという理由位だ。
お金で人助けをする気なんてないし、ましてや私の力は見世物ではない。
それなのに何で幽閉されていいように使われているんだろうね。

『前から言っているがそんなに嫌なら逃げればいいだろう?』
「兄貴に言われなくても分かってるわよ……、でも私が出て行ってしまったら助かる筈の命も助からなくなるでしょ?」

 私がいなくなることで助けられる筈の命が無くなる事を許容する事が出来ない。
それって凄い怖い事で、折角人を救う事が出来る力があるのに活かせないのは良くない事な気がする。

『それも前から言っているが、不特定多数の為に自分を犠牲にする必要は無い』

 それは兄貴の価値観であって、私の価値観じゃないの。
私は自分の命よりも周囲の命を優先してしまうし、それが常識なんだ。
押し付けないで欲しい、放っておいて欲しいのにどうしてこの人は時間を見つけてはこうやって私に話かけてくれるのか理解が出来ない。

「――兄貴は自由でいいよねっ!人族なんかと結婚する為に本来の能力を私に封印させて弱くなってさっ!それで自分を好きになってくれた人と一緒になれて幸せだから上から目線で偉そうにっ!何なの!?自由がない私を見て笑ってるの!?何で私ばかりこんな思いをしなくちゃいけないの!?ねぇっ!なんでよっ!」
『……』
「黙ってないで何か言いなさいよっ!私をここから連れ出してやるとかっ!自由にしてやるとかさっ!でも口では何とでも言えるから兄貴が言う言葉なんて絶対信じて何てあげないわっ!……それに今だってこうやって私の気持ちを読み取りながら楽しそうに笑ってるんでしょ!?ふざけないでよっ!こうやって話す位なら今すぐ私を助けに来なさいよっ!こうやってさっ!都合が悪くなったら直ぐに黙って逃げる兄貴の事なんて大っ嫌いっ!」

 ……ほんとはそんな事少しも思っていない。
これは私の八つ当たり……、兄弟姉妹の中で唯一可愛がってくれるお兄ちゃんだからつい当たってしまう。

『そうか、貴様の気持ちを考えずに悪い事をしたな……』
「あ……その、えっと違うのよ?今のは言い過ぎたっていうか……あのね?」
『それ位分かっている……だから』

 扉が勢いよくこちら側へと吹き飛ばされて頭上を通過して壁にぶつかる。
何が起きたのか理解出来ずに固まっていると外から誰かが入って来たけど、フードを目深にかぶり、僅かに見える顔も覆面を付けている為分からない。

『首都の騒動を利用して仲間に救出を頼んだ……、今日から貴様は自由だ』
「おぉっ!あんたがアキラの妹かぁ!!、ほらっ!直ぐにここを出るぜ!?」
「もう大丈夫だ……、これから君の事は栄花騎士団が保護するから安心して欲しい」
「だ、だれぇ!?あに……おにぃちゃん!?この人達誰なの!?この流れっておにぃちゃんが助けに来る流れじゃないのぉ!?」
『行きたいのは山々なのだが診療所の仕事が忙しくてな……、何っ!?次は老人のマッサージだと!?いい加減にしろっ!その程度の事で一々来るなっ!……ミコトすまない話はいずれ時間が出来た時にしよう』
「え?ちょっとお兄ちゃん!?」

 それ以降幾ら頭の中で兄貴に話しかけても反応がない。
診療所で何をしているのか分からないけどどうやら本当に忙しい用で心配になる……。
根はまじめな人だから無理をしなければいいんだけど、奥さんが止めてくれるから大丈夫かな

「今の音はミコト様のお部屋からだっ!賊かもしれん早くお守りしろっ!」

 遠くから慌ただしい声が聞こえてくるけど、本当に賊だったら私に勝てる訳がないのに教会の人間は本当に私の事を便利な置物としか思っていないみたいで溜息が出る。

「来んのはぇぇなぁ!しょうがねぇな、ここは俺が適当に暴れとくからおまえはミコトさんを安全な所へ!」
「任された……、だがやり過ぎないでくれよ?始末書を書くのは俺なのだから」
「分かってるって!、じゃあ任せたぜ?」

 やたらと声が大きい方が両手に銃を顕現させて部屋の中に発砲する。
銃口から出るのは鉛玉ではなく炎の玉でそれが部屋を瞬く間に火の海にすると……、武器を消してフードと覆面を取り素顔を晒す。
そこには特徴的な赤い髪と教会所属の術者が着る修道服を着た青年の姿があった。

「おーい!助けてくれぇっ!賊がミコト様の部屋に火を放って外にっ!」

 彼はそういうと声がする方に駆け出して行くと同時にもう一人が私をいきなり抱き上げると、指先から何かを飛ばして窓を割ると教会から飛び出す……。

「ちょっと!いきなり危ないじゃない!あなた達何を考えてるの!?」
「後で説明するので今は静かにして貰いたい」
「なっ!あなたねぇっ!私を誰だと思って!」
「誰でもいい、君は俺の仲間の妹でしかないのだから……、後舌を噛むかもしれないから口を閉じて欲しい」
「っ!?」

 彼は器用に壁に脚を付けて垂直に上るとそのまま屋根伝いに首都内を逃走して行く。
素直に口を閉じて無かったら確かに舌を思いっ切り噛んで怪我をしていたかもしれない……。

「ここまで来れば問題無い」

 人のいない路地裏を見つけるといきなり飛び降りて地面に着地する。
そしてゆっくりと降ろしてくれるが、路地裏から見える首都内の景色は何やら慌ただしくて落ち着きがない。

「えっと……、取り合えず教会から助けてくれてありがとう……なんだけど、この状況って何なの?」
「それは俺も人伝に聞いただけなのだけど……」

 彼が分かりやすい用に身振り手振りで説明してくれるけど……、レースくん達はいったい何をしているのかと心配になる。
娯楽に飢えてる私からしたら凄い楽しそうなんだけど、一般的な範疇から見たらやってる事は異常だ。
囚われた仲間を助ける為とは言えそこまでやるのは正直どうかしてるとしか思えない。
でも……

「兄貴の友達を助ける為って面白い事してるじゃない、私にも何かやらせなさいよ」
「やらせるも何も元より協力して貰う予定だったから乗り気ならありがたい……、ミコトさんに治して貰いたい物があるんだがやって貰えるか?」
「治して貰いたい物ねぇ……、私の手にかかれば何でも治せるからいいけどって……うわぁこれは酷い」

 彼は空間収納の魔術が付与されているのだろう腰のポーチから、透明な箱の中で液体に浸けられた頭部だけの何やら配線だらけの物体を取り出して私に見せて来る。
これを直せと……?

「俺の仲間がとある国に潜入している時に分け合って確保したのだけれど、この人物が今回の作戦に必要だと判明してな……治して貰いたい」
「ま、まぁいいけど……」

 箱を彼から受け取ると頭を液体から取り出して状態を診る。
へぇ……こんな状態でも生きてはいるって凄いなぁ、やってる事は異常だけど技術は本物だ。
そう思いながら背中に天族の羽を出現させると力を使う為に頭部に光の輪を出現させる。

「……おぉっ!」
「うるさいから黙ってて」

 光の輪と羽は天族が本来の力を使う為に必要な器官で、私達兄弟姉妹はこれを外に出している時だけそれぞれが司る力を使う事が出来る。
私の力は命を司る、周囲の生命の魔力や空気中にある自然に発生した魔力を手荷物頭部へと集めて行くと、徐々に身体をあるべき姿へと再生させていくが……。

「身体は戻せたけど精神は無理、心が焼き切れてここにいないし」
「……そうか、だが身体が元に戻ったならそれで良い感謝する」

 肉体の再生と共に配線が自然と外れ生前の姿には戻ったけど生きている限り失った心は戻せない。
一度死んでから蘇生させるならそこから戻せるのに勿体ないと思うけど、どうやらそれでいいそうだ。

「とりあえず俺は今から仲間のヒジリと合流して渡さなければ行けないのだけど……、君一人で栄花まで行けるか?」
「あら?最後までエスコートしてくれると思ったのにがっかりね……、いいよ?久しぶりの外だから寄り道しちゃうと思うけどそれでもいいなら場所は分かるから行くよ?」
「あぁそれで構わない……ではこの度は世話になったっ!」

……そう言うと彼は足元に雷を纏うと、凄い速度で家屋の屋上へと上がって何処かへと行ってしまう。
さっきもそうやって上まで上ったののかぁって思いながら路地裏から出て、首都内をぶらぶらしていると遠くからレースくんの姿が見えるけど彼は私に気付いてないみたいだからどうでもいい。
取り合えず今は手に入れた自由を楽しもうと思いながら人混みの中に消えて行くのだった。

【――その日トレーディアスから、争いの抑止力となるSランク冒険者が消えた】
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