治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

文字の大きさ
上 下
158 / 581
第五章 囚われの姫と紅の槍

14話 戦場の経験

しおりを挟む
 取り合えずジラルドの無事が確認出来たから、次はクロウの事が気になるけど彼の治療は終わったのだろうか。
ぼく達がジラルドを起こしに行っている間に、クロウの事を治療しとくと言っていたから大丈夫だと思うんだけど……

「ジラルド……、今クロウの治療をミコトさんに頼んでるんだけど様子を見に行ってもいいかな」
「クロウが?……あいつが教皇の治療が必要になる位の傷を負うって何があったんだ?」

 ジラルドが驚いた顔をして聞いてくるけど、これはどう説明すればいいんだろう。
ミコトさんに合う為に彼を味方がぼこぼこにしたっていうのも聞こえ方が悪い気がする。
又は探し人がここにいると聞いて、問題無く事を進める為にクロウを叩きのめしたと説明するべきか。
んー、ダメだどっちにしろ問題にしかならない。

「レース?難しい顔してどうしたんだよ……、もしかして説明出来ない位にヤバいのか?」
「あぁ、いやうん……説明し辛いというか」
「説明し辛い?」
「それについては私が説明します」
「あ?お、おう」

 カエデがぼくに変わって内容を説明してくれたけど、その話を聞いている間難しい顔をしたのかと思うと、徐々に苦い顔に変わって行く。
まぁそうなるよなぁって思うけど、仲間を傷つけられたと聞いて怒らない辺り彼なりに何等かに考える事があるのだろうか。

「あぁー、理由は分かったけど、クロウが迷惑をかけたというかなんというか、というか栄花騎士団最高幹部となるとどう見ても俺達よりも格上の相手だぞ?、普段のあいつなら実力差を理解出来る筈なのに……」
「それほどジラルドとコルクの事が大事だったんだよ」
「分かるんだけどさ、仲間が危険な時程冷静な判断が必要になるんだよ、レースは冒険者じゃないから分からないと思うけど、冷静さを欠いて仲間を無策で助けに行くという事は俺達高ランクの冒険者の間では禁忌なんだ」

 禁忌って何を言ってるんだ。
仲間が危険な状態にあるなら助けに行くのが当然だと思う。
これだとそれ自体が間違いだと言ってるようで、クロウの気持ちが間違えみたいじゃないか。

「そんな怖い顔をすんなよ、俺だってクロウの気持ちが嬉しくない訳じゃない、むしろ嬉しい位だ」
「なら何故……?」
「レース、例えばの話をするがお前が冒険者で盗賊かモンスターである亜人の討伐依頼を受けて仲間と一緒に行動したとする、そこ一人が勝手に別行動をしたとしようか」

 いったいこの説明とクロウの事に何の繋がりがあるんだろう。
そもそもこれとぼくが冒険者じゃない事に意味があるのか……。

「暫くして、別行動をした仲間が負傷して助けを求めたらお前はどうする?」
「急いで助けに向かうかな……」
「それは駄目だ、相手はお前と同じ人間だし、亜人の場合は俺達と同じくらいに頭が回る奴等もいる、そいつが囮の可能性があるんだよ」

 囮って何を言ってるんだ……、負傷して出て来たという事は助けを求めに来たという事だ。
なのに助けない何て発想があるわけがない。

「お前が何を言いたいのかは何となく分かるけど、今はそういうの無しで聞いてくれよ、盗賊や亜人の場合敢えて逃がして仲間の場所に帰す時があるんだ」
「……帰すってどうしてそんな事するのか分からないんだけど」
「ジラルドさん横からごめんなさい、それはレースさんが戦場に出た事が無いからですよ、騎士団の新人団員さん達もそれで被害が出る事があるんです……、負傷者を利用して助けようと近づいて来た味方達を遠方から魔術や弓、狙撃用の銃を使って一人ずつ確実に仕留めるんです」
「別にいいよ、言いたかったんだろ?……、カエデさんが言った事もそうなんだけどさ、盗賊の場合は男が助けに来たら殺すし女が来たら慰み者だ、亜人の場合ならもっと酷い事になる……、ここまで行って何を言いたかったのかっていうとさ焦って味方を助けに行こうとすると碌な目に合わないって事だ、ダートも冒険者だからそこんとこ分かってんだろ?」

 ジラルドが今迄黙ってぼく達の話を聞いていた彼女に返事を求めるけど、何て答えたらいいのか分からなさそうにしている。
……分からないのはぼくだけだったのか、ぼくもダートと同じ冒険者だったら説明をされなくても分かったのかな。

「……分かるけど私の場合空間魔術で救出出来てしまうから参考に出来ないと思う」
「あぁ、そっかダートはそれが出来るからしょうがないか……、だから俺はクロウに被害が及ばないようにあいつには連絡を寄越さなかったんだよ」
「じゃあどうしてぼく達に連絡を……?」
「お前らなら判断を仰ぐ為にアキラの所に行くだろ?、そうすれば栄花騎士団に連絡が行ってミントを助ける為に力を貸して貰えるかもしれないって思ったんだよ……、まぁ冒険者ギルド経由でクロウに連絡が行くとは思わなかったけど」
「ギルド職員には冒険者が死亡した場合仲間に報告する義務がありますから……」

 カエデの言葉にジラルドは困った顔をしながら『だよなぁ……、それを忘れてたわ』と言って頭を掻く。
何ていうか普段はだらしないのに冒険者として活動する時はここまで考えて行動できるのは凄いと思う……、最後の詰めが甘かったみたいだけどどっちにしろぼくでは出来ない事だ。

「まぁ、取り合えずそういうこった……、けどまぁクロウの取った行動はCランクまでの冒険者なら良くあるけど、国やギルドから直接依頼を受ける事が多い俺達AランクやBランクの奴等は滅多にやらないって覚えといてくれたらいい、ダートは例外な?空間魔術を使いこなせる奴って滅多にいないから参考にしない方がいい」
「ですね、ダートお姉様はAランク冒険者の中でも空間魔術と呪術に特化した唯一の人ですから例外です……」

……カエデが何故かどや顔で言うけど、何故彼女がそんな反応をするのかぼくには理解出来ない。
取り合えず二人のおかげで色々と冒険者について知れたから良いか。
そう思っているとジラルドがベッドから下りると身体を解すように軽く運動をしてミコト達のいる部屋へ続く扉へと歩いて行くと『取り合えずクロウの所に行こうぜ?来ちまったのはしょうがないし、あいつの無事をこの目で見たいしさ』と言って我先にと扉を開けるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...